その手に辞書ひとつ

第9期(2013年6月-7月)

人はみんな一冊ずつ、辞書を持っている。
それぞれがかたときも離さずずっと持ち歩くそれ、
自分以外のだれかに伝えたいことが浮かんでくると、私たちはそのページをめくる。

辞書1

知っていますか?
心の中にある気持ちやイメージは、すべてが言葉にできるわけじゃない。
言葉はひとつのカタチだ。実は万能じゃないもの。
みんなが何かを共有するために、今一番広く知れ渡っているひとつのカタチ。
だから私たちはなにか人に伝えたいとき、自分の中にあるものをなんとか言葉に置き換えようとする。
それぞれの辞書を使って、なんとか一番近い言葉を探す。
気付かずにそれをしている人もいるけれど、
私たちが言葉を発するとき、必ずそこで辞書がめくられる。

辞書の厚みや形は人によってさまざまだ。
よい辞書を持ってる人もいれば、なかなかポンコツな辞書を持ってる人もいる。
一つの感情を引いて、たくさんの言葉を見つけることができる人もいるけど、
大抵の人は、見慣れた言葉をすぐに引っ掴んで、口に運んで放り投げてしまう。
うれしい、たのしい、かなしい、さみしい。
自分の辞書を引かずに、よく聞く言葉をそのまま口移しに使ってしまう人もいる。

辞書2

けどいつか ちらほらと気付き始める。
本当にこの言葉で合っているのかな?
なんだか違う気がする。私の中にあるものはこんな色を、音を、においをしてるのに
言葉にした途端それは別のものになってしまっている。
別のものになったそれを誰かに渡しても、
受け取られた私はもうここにある私じゃない。
それが、耐えられない。
嘘を言いたいわけじゃない。けど辞書を引く指先が追いつかない。
とたんに言葉は窮屈な箱に成り代わる。
無理矢理言葉にすることで、こんなふうに 間違った像を結ぶしかないなら
もう言葉なんていらない
そうやって辞書を閉じてしまう人さえ いるくらいに。
言葉はひとつのカタチでしかないのに
それで伝えられなければ、どうしても人の世は生きづらい。
だからきっと絵を描くのかもしれないし
歌をうたうのかもしれない
写真を撮るのかもしれない
踊りをおどるのかもしれない。
言葉と同列に、それはきっとその人にとっての辞書なのだ。

辞書3

けれども やはり どんな辞書でも、言葉を話す人間が、私はすきだ。
どうしても、話したいと思う。言葉にしたいと思う。
「私の辞書はポンコツだから…」
そんな理由で言葉探しをやめてしまうのではなくて
本当は いつも見逃していたページの隅っこに、ちいさく煌めいている言葉があるはずで
薄いと思っていた辞書には、実はまだたくさんの白紙があるだけで。
どうか諦めずに 言葉を探す 私自身もそう。
そんな流行りの電子辞書じゃなくってさ 紙の辞書をめくって
ほらそうしたら 見たことのない言葉にたくさん出会うでしょう?
時間はかかるけど、その言葉は 文字は 電子板に映されたそれよりもずっしりと、その手に重みを伝えるでしょう?
ぼろぼろによれた辞書を持ち歩く人
遅くともひたすら言葉を探す人
そんな人こそ、いいなあ、と私は思う。
そんな人を見るとどうしようもなく、私も自分の辞書を大切にしたくなる。
もっと言葉を増やしたくなる。

だってあなたに話したいから。
私の中にあることを、語りかけてみたいから。

あなたの言葉を聞かせてください。

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わかばやし まりあ個展
【 i my room 】

■会期
7/22(月) 〜 7/31(水)
11:30~23:00(日曜17時まで、月曜17時から)

■場所
SIGHT BOX
(http://sightbox.jp/)
Beat Box Cafeと併設のギャラリーです
東京都町田市中町3-5-6 1F
TEL. 042-720-2305(Beat Box Cafeと共通)

小田急線町田駅
北口から徒歩10~15分
新宿から町田駅までは小田急線で35分ほど