入居者名・記事名・タグで
検索できます。

意図のないものはどこにもないの?

はてなを浮かべる

hate-13
断ち落とすことに不安を覚える?
   
   
   
hate-12
あまりにも 日々 ふり注いでいる?
   
   
   
hate-5
気持ちってほつれやすいのかな?
   
   
   
hate-7
高尚であることがエライんだろうか?
   
   
   
hate-10
下へ下へともぐることを許してくれない?
   
   
   
hate-2
受けとめきれなくてもいいよね?
   
   
   
hate-8
あらゆる場所に違和感を持ち続ける?
(浸透することを拒否しているのは自分?)
   
   
   
hate-6
泳いでいるのか溺れているのか けっこう全然 わからない?
   
   
   
hate-9
消耗している僕は愚か?
   
   
   
hate-3
今いる場所を掘っていくべき?
   
   
   
hate-11
雨も泣くの?
   
   
   
hate-4
絶対的ななにかに覆っていてほしいのかな?
   
   
   
hate
意図のないものはどこにもないの?
   
   
   
つづきのはてな

わかばやしまりあ

わかばやしまりあ

描いたり食べたり生きたりしている

Reviewed by
さかいかさ

王は手に持った一輪の薔薇を高々と頭上に掲げる。民衆たちを見下ろす高台からひとつ大きな声を上げる。
「民たちよ、この薔薇が見えるか?」
「おおおお〜!」民衆たちが大きな声を上げる。王は「こほん」とひとつ咳払いしてマントをなびかせくるりと回る。
「民たちよ、この薔薇は何色か?」
「おおおおお〜!」民衆たちがまた大きな声を上げる。王は満足そうに薔薇を鼻に近づけ匂いを嗅ぐ。
「おう、なんと心地の良い匂いか。民たちよ、この匂いがわかるか?」
「おおおおお〜!」民衆たちは手を上げ、両手を叩き、王に応える。
「そうか、そうか、民たちよ、ところで薔薇にはトゲがある」
「おおおおおおお〜!」
「トゲは刺さると痛い」
「おおおお〜おおおお〜!」
「血が出る」王は薔薇のトゲに人差し指をつける。
「おおおおお〜!おおおおお〜!」
王の人差し指に赤い点が現れ血が少しだけ溢れる。
「民たちよ、我が指から血が出た」
「おおおおお〜!」民衆たちは自分の顔を叩いたり、腕をつねったりして、王の痛みに応える。
王は人差し指を口に入れ、クチャクチャと舐める。そして高台から血の混じった唾を飛ばす。
「ぺっぺっぺっぺぺっぺ!」
「おおおおおおおおお〜!」民衆たちはますます大きな歓声を上げる。
王は手を上げ、歓声を鎮める。民衆たちは静かになりじっと王を見つめる。王は目を閉じる。民衆たちはごくりと唾を飲む。
風が大きな音を立て、王のマントを揺らし、王のヒゲを揺らし、民衆の髪を揺らしていく。
王はパチリと目を開け、親指を耳の上にあて手を広げ、舌を出す。
「あっかん、、、、べ〜〜〜〜〜〜!!!」
「おおおおおお〜!!!」民衆が叫ぶ。
実にばかばかしく滑稽なやりとりだ。こんなやりとりはビリビリに破って、すぐにでもゴミ箱へ放り込みたい。この国の民衆はこんな馬鹿げた王の振る舞いをどうして許しているのだろう。
歓声が止み、民衆の中から一人の若者が前に出てくる。王に向かい一礼し、大声を上げる。
「おお、我らが王よ、どうか私めの声をお聞き下さい」
王はその若者へ大げさに指を向け「若い民よ、申してみよ」と太い声を上げる。
「王よ、私めの父も母も流行り病に冒され明日も知れぬ身でございます。私め自身もいつ病に冒されるともしれません。どうか王よ、私め家族をお救いください」若者は手を顔の前に組み合わせ、祈るように王に告げた。
王は若者を見つめ、ふむふむと小さく首肯き、口ヒゲを撫でながら思案する。
「若い民よ、いつものことであるが、まあ言おう。民には民の悩みがあり、王には王の悩みがある。民には王の悩みが決してわからぬように、王にも民の悩みはわからぬ」
若者も民衆も身を震わせながら王の言葉を聞いている。
「だがひとつの特権があるとするならば、王は民に悩みを言えぬが、民は王に悩みを言うことができる」
王はニヤリと笑い、両腕を前に広げる。
「我が民すべてに告げる。たった今より、流行り病の治療代すべてを王が持つことが決定した。そして医者たちに命令する。一時でも早く流行り病に効く妙薬を献上せよ。その者には相応の褒美をとらす」
若者は涙しながらその場にうずくまり、民衆は歓喜しながら隣の者たちと次々と抱き合った。
「すべての民は王のために健康でなくてはならない。すべての民は王のために幸せでなくてはならない」
王は堂々と宣言し、颯爽とその場を後にした。
民衆は喜び踊り、三日三晩騒ぎ通した。
それから若者の両親は入院し少しずつ体調を回復しているという。
実に素晴らしく高尚なやりとりだ。こんなやりとりはピカピカに磨いて、すぐにでも玄関先に飾りつけたい。この国の民衆が馬鹿げた王の振る舞いに腹ひとつ立てないのも首肯ける。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

深夜の王の寝室から何やら話し声が聞こえる。
「どうしてなんだい?どうしてなんだい?」
王の声とは思えない小さくて甘えた声だ。王は王冠を取り、大きなベットに横たわり、クマのような黒いヌイグルミに話しかけている。
「ハテナちゃん、ハテナちゃん、どうしてなんだい?」
ヌイグルミを抱き寄せ、おでこに何度も口をつけている。ちゅぱちゅぱと唾液まじりの嫌な音がする。どうやらハテナちゃんというのはヌイグルミの名前のようだ。
「ハテナちゃん、僕のね、足がね、臭くて臭くてしょうないんだ。どうしてなんだい?」
ハテナちゃんは黙っている。王は自分の足の臭いを嗅いで顔をしかめる。
「僕のね、足ね、洗ったそばから臭くなっていくんだ。もうね、ずっと臭いの。爪だって人より伸びるのが早い気がするんだ。一日に何度も爪を切ってるなんて馬鹿みたいだよ。鼻クソだっていっつも溜まってる。おかげで鼻がつまって変に低い声になっちゃう。ねえ、はてなちゃん、どうしてなんだい?どうして?どうして?」
ハテナちゃんは黙っている。王はハテナちゃんの顔を撫でながら、ギュッと抱きしめる。

王には王の悩みがある。王は民に悩みを言えない。
夜がひっそりと更けていく。民よ、王は悩まないと信じておこう。
「ハテナちゃん、どうしてなんだい?」

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る