わたしの色

第9期(2013年6月-7月)

これは、わたしの色。

わたしを、あなたを、色にするなら何色だろ。
色は言葉よりもっと、人の、深くやわらかな腹の底を知ってる。
これがわたし。初めまして。まだ無色透明のあなたへ。

わたしは筆を握ってた。絵の具にさわった一番古いイメージ。
記憶の切れ端、幼稚園で、ちいちゃい手でおえかき道具を散らばした。
うすだいだいのクレヨンがぴりりと青い水彩をはじく。
真っ青な水、泳ぐ人、きみどりの浮きわ。
ちいさなわたしの網膜には強烈なウルトラマリンが焼き付いた。
そしてそれは今でも、この瞳の奥でしぶきを上げる。

かなしみにうずもれるとき
決まって目尻にちらつくのは青。
と、おなじように
ふかい海のすきまにたゆたいながら
この身をだきとめる安心をくれるのも青。

色はふしぎ、
わたしはいっぱいの色をつかって絵を描くのがすき。
たとえば神様にいじわるの水をびしゃんとぶつけられた日や、
丸くなって眠るねこのお腹に顔をうずめるあの気持ち。
そんな世界を、気持ちを、色にかえてあなたに伝えたくなる。
この瞳の奥であふれだす色を絞り出して水に溶くの、
それを紙の上にぽた、と垂らす。すこし恥ずかしそうに、
それはこの地球に初めて足をつける赤ちゃんみたいに。
あら、どうも、初めまして と。
そのあたりまえの出来事にわたしは何度だって息をのむ。

ひっかくみたいに
ちりちりとこころの奥底に爪を立てる人
あるいはなんにも見たくないのに、
消えないイメージが自ら内臓をきゅっと掴んで離さなかったり。
身体の中は見えないけれど、
こころがすりむいて声をあげるとき
そこに確かに存在する色を見つける。

きらきらしたビーズをぶちまけちゃったときみたいに
楽しくてわくわくして、落ち着かないあぶくがお腹の中で爆ぜるとき、
きまって内側は騒がしい色であふれだす。
感情の粒子があちこちをかけめぐる。

けれどね、実は
ものすごくいじわるなときもあるんだ。
君なんか終わってしまえなんて
口には出さないくせに 腹の奥でにやりと笑う自分も居る。

うん でも やっぱり
あなたに伝えるものはあたたかい色彩でありたい。
語るとすれば、痛みのない色なんて実はどこにもないけど
痛みながら彩りを増すその色に、やっぱりわたしは胸を掴まれる。
優しくありながら汚さを孕むその色こそ、私は信じてゆけるんだ。

さて、あなたの色は何色ですか?
まだ目を合わせたこともないあなた。透明なあなた。
いつか出会うそのときはたくさんの色を見せてください。
わたしはきっと、あたりまえに息をのむから。