言葉に埋もれる夜

第9期(2013年6月-7月)

目を開けると、ハナミズキがこちらを覗き込んでいた。

いつの間に寝ていたのかしら?わたしは体をおこす。
今が何時だか分からない。
ただ、夏の夜特有の湿った空気が体を生温く包み込み、視界にはまるで牛乳みたいな、白い膜が張っていた。
ふと上を見上げれば、群青色にちいちゃな宝石さながらのお星様が散らばる。
私はフローリングの床にねっころがって天井を見つめた。
底がないふかい井戸のようだ。遠い昔のひかりが遠慮がちに煌めく。
この部屋の中には、私とハナミズキしか居ないみたいだった。
窓の向こうから月が私をちらり、見る。

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ひらりとなにかうすいものが舞って、私の鼻の先に乗っかった。
なんだろうこれは?
「わたし」
ハナミズキがしゃべった。

そうだね。こんばんは。
私はもう一度目をつむって二度寝なんかしちゃおうかなってたくらんでいる。
たぶんハナミズキはご機嫌斜めだ。ほら、そんなこと考えてるうちにもう一枚。つぎつぎにことばは落っこちてくる。

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ああちょっと、待って待って。散らかっちゃう。まとまらない。
でもやっぱりことばは降り続いてくる。ぱらぱら。ひらり。

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これらはきっと、いつかどこかで拾ったことばたちだ。記憶が錯綜する。
えっと、それはいつのことばだっけ?誰の想いだっけ?
横たわる私のまわりにことばたちが散らばっている。風が吹けば飛んでいきそうな脆さだ。
けど確実にそれは私の周りを埋めていく。

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そんなことを言い出したのは誰だっけ?素敵な言葉だ。けれどなかなか真似できないんだよな。
私はまだまだ未熟だ。人をねたんでばかりだし。

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そう。たくさん思ってる、けど口には出さないで飲み込んでる。
他人がとてもいい思いをしているんじゃないかって。ああ大分混乱してるな。ちがう、こんなとこ見せたくないの。やめて。

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自分のこと嫌な奴だなって思ってる、でもねちゃんと守るのはいつだって自分。自分がかわいい。
みんなにだって優しくしてあげられる。ほらなんていい子なの?自分が大好きよ。ああでも嫌い。打算的。きらいきらいきらい。
心から何にでも優しい人になれればいいのに。(でもそんな人はいないの、私知ってる。)

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いつから月が手に入らないと思い始めたのだっけ?覚えていないな。
けど絶対にいちどは思ったの。月が欲しいって思ったはずなのに。
なんでだめなの?と、どうして訊かなくなったのかな。
当たり前にだめであろうことを、当たり前に頷きはじめたのはいつ?
どうしてわがままを言わなくなったの?「なんで駄目なの?」と訊くことをやめて、いいの?ほんとうに?

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それは言いたくない。やめてよ。引っ張り出さないで。
忘れられずに引っかかってることばぐらいあるでしょう。でも言わないの。言わないの。
思い出したくない。目をそらす。

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うるさいな、分かるわけないじゃんか!自分が一番よく知ってる。こんな、私だけの想いが分かるわけないじゃない。
ほんと、知ってる。理解してるよ。でも分かってよ。分かってほしいよ。誰か分かって。ねえ、私のこと。

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なに?

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そうしてそれっきり、ハナミズキは黙った。
床は、散り積もったことばたちで溢れていた。

私は勢いよく立ち上がると窓を開ける、ばしんと壁を打ち付けるくらいの勢いで。
途端にまぶしい朝日が流れ込む。朝だ。群青色のカーテンは畳まれて、さっきまでの鬱蒼とした気分が嘘みたいだ。
ぐるぐると面倒で、曖昧で、実りのない、人間臭い夜を、私はこうしてやり過ごす。
無駄だと分かっていても、溺れる夜がある。きっと夜だから。そして私は人間だから。

そのとき大きい風がいっぱいに吹き込んで、足下に溜まったことばたちを吹き飛ばしていった。
そう、たったこんな一瞬で。
一晩中、あんなに私の首を絞めたことばたち、飛んでいっちゃった。
朝。またあたらしい一日が始まる。

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ここに住んで一ヶ月が過ぎた。初めてのアパートメント。
たんたんたん、細い、すこし錆びた階段を上って、左から数えて三番目の扉をひらく。ここが私の部屋。私の頭の中。
今私はこうやって、ノートに気持ちを書き込んでいる。今日で五回目。
部屋にはそのために散らかったメモや、落書き、写真や絵、おかしのクズ、眠気、その他いろいろ。
ここアパートメントで、四角い鉄のノートを通して私が書き込んだそれらは、なんと遠くの人にまで届くらしい。

けど思った。このつながりは、私からしか書き込めない。
なんかそれって、やだな。
もったいないな。
そう、どうせなら皆に私の部屋に来てもらいたいな。
どうかな。
やって、みようかな。

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ということで、皆さんにお知らせしたいことがあります。
今月の7月22日〜31日、
町田のとあるスペースにて、私の部屋(私の頭の中)を展示しようと思っています。
このアパートメント、私に割り当てられた水曜日の部屋で過ごす二か月。
今までの私のこと、これからの私のこと、
あなたに伝えたいこと、あなたに教えてほしいこと、
それをひとつの空間に。かたちに。
とにかく、
こんな電気信号のつながりだけじゃなく、
もっと直接、あなたに会いたい。
そんな場所を作ります。

ぜひ、遊びにきてください!
(詳細はまた、来週にでも。)