みみこちゃんの恋人たち(3)

第12期(2013年12月-2014年1月)

ガン、ガン

勢いのある音がドアの中に滑り込みました。

ひょっこり覗いた顔を見るなり
「わあああああああ」
とみみこちゃんは大きな声をあげ、
髪を爽やかに刈り上げた男の人も同じように嬉しそうに叫びました。
「久しぶり!」

「二人の交際は中学生時代、みみこちゃんが当時呼んでいた貴方のあだ名は”かっちゃん”で間違いないでしょうか。」
二人の熱気を無視するように、いつも通りねこたくんは切り出しますが
今回ばかりは分が悪いようです。
「元気してた?」「今は何をしているの?」「あの時仲良かったあの子はどうした?」
などなどと、昔話に花が咲くという表現に感心せざるを得ないほど
二人の表情は咲き乱れるように輝いています。
入る隙を探すのを諦めたねこたくんは小さくため息をついて
手元の履歴書のような紙を見ているフリをして暇つぶしをはじめました。
そこに書かれた『はじめての恋人』という文字を、何度も何度もなぞりながら。

「いやあ、本当に懐かしい。かっちゃんと付き合ってたのなんてもう何年前だろう。」
「もう思い出せないくらい昔だな!でもあっという間だった気もするよ。
 それにしてもこんな形で再会するなんて、すごい不思議だ。」
「うん、色々あったんだあ。」
昔馴染みの懐かしさから、みみこちゃんは”いろいろ”を話し出したくなりましたが、
大きな左手に光る指輪を見つけて直ぐに、その思考を引っ込めました。
「かっちゃん、結婚したの?!」
みみこちゃんの年齢からすると、同級生はとっくに結婚していてもおかしくはないのですが、
そうは言っても少年時代から姿を知っている人間が、新しく家族を作っているというのは新鮮に感じられるものです。
「おう。結婚どころか、子供もいるよ。」
へへっ、と照れたように笑った顔は、あの頃「一緒に帰ろう」なんて声をかけてくれた頃と
何も変わらないままでした。

「もう、そろそろ良いですか?」
痺れを切らしたねこたくんは二人の間に割り入ると、
そっけなく”業務”を続けました。
「点数ねえ…あの頃みみこちゃんと一緒にいるのは確かに楽しかったけれど」
指輪の光る左手で、彼はぽりぽりと頭をかきながら
「でも、振り返ってみても、恋と呼ぶにはあまりに拙かったよなあ。
 なんてったってキスもせず、手を繋ぐので精一杯でさ。
 あんなのは今思うと、恋でもなんでもなかったんだよ。」
そう言って、やはり変わらぬ照れ笑いを浮かべるので
みみこちゃんはちくりと痛む胸元を隠しながら、同じように笑いました。
「恋に恋してたって、ああいうことよね。」

うそでした。
キスをしたことがなくっても、みみこちゃんにとっては十分あれは恋でした。

じゃあまた近いうちに連絡してね、と今回はじめて玄関まで来客を見送ると
空が雨上がりを照らしていることを知りました。
身体の中をスッと通り抜けていく風が、この再会は確かに良いものだったと呟いている気がします。

あの頃わたしたちが、そう信じてやまなかった恋とは一体なんだったのでしょう。
その正体が何者かもわからないまま、なんとなく恋と呼んで遊んでいました。
恋を恋たらしめるものはなんなのでしょう。
そっと扉を閉めて振り返ると、まるでその答えを知っているような顔したねこたくんが立ち構えていましたが
敢えて何も言いませんでした。

【かっちゃん・・・交際期間四ヶ月 採点不能】