タバコがやめられるかもしれない話

第12期(2013年12月-2014年1月)

<本能寺の変 前夜>

※『ぶっ殺すぞコラ』等の過激な表現を含んでおりますので、R-15です。

静岡駅西口徒歩20分のところに、本能寺というライブハウスがあり、
目下そのハコがうちのライバル店である(フィクションです)。
ライバルというか敵である。
本能寺という名前がまず気に入らない。まったくの非県民だと思うし、京都の方々に申し訳ないではないか。
店長の村上ハルヲには、テメーんとこで襲われて自害していただきたい。本能寺だけに。
村上ハルヲは「地球ドボルザーク」という名前のクソダサいハードコアバンドのボーカルで、年下のくせに俺のことを完全に下に見てきやがる。
村上ハルヲとの出会いは、ちょうど10年前のクリスマスだった。
今は亡き伝説のライブハウス『スパイラルマーケット』で、俺のやってるアドバルーンというデスメタルバンド(コピー)のデビューライブに
当時高校生だった村上ハルヲがたまたま観に来ていた。
で、ライブ後、俺に「先輩、マジで感動したっす~」と声をかけてきて、気分の良かった俺は「クリスマスプレゼントだ。学校にはバレんなよ」と言って、ビールを奢ってやった(フィクションです)。
それから数年間は完全に舎弟扱いしていたのだが、奴が地球ドボルザークを結成して、大したことは無いのにたまたま静岡でブレイクしてから、だんだん俺にタメ口をきくようになり、挙げ句の果てにオープニングアクトに俺たちを指名するようになった(ノルマ40枚)。
まあ一回くらいなら良いかと思って頑張ってオープニングアクトを務めたが、毎回のように指名されていつの間にか完全に立場が逆転してしまった。
で、なんかのキッカケでついに俺はキレて、村上ハルヲをぶっ飛ばした。
その二日後に俺は夜道で地球ドボルザークに青バットで急襲され、袋叩きにあい、半殺しにされ、全治半年の重症。
俺は警察に被害届を出したが、奴ら地球ドボルザークはライブの時と同じように目だし帽を被っていたので、証拠不十分で不起訴になる。
あれはどう考えても地球ドボルザークの仕業だ。
そうに違いない。
地球ドボルザークと俺たちが絶縁している間に、村上ハルヲはライブハウス本能寺の店長になった。
俺は俺で別のライブハウスの店長になり、
それからライブハウス間で長い冷戦状態が続いている。
俺は自分のハコに出演したバンドマン全員に、「本能寺に出た奴は全員出禁!」と脅しをかけ、
向こうも同じく「ノダのハコ殺してしまえホトトギス」という御触書を彼方此方にだしている。
そんなわけで本能寺はハードコア、騒弦はデスメタルのシーンに完璧に区分けされ、いつの間にかハードコアとデスメタルの代理戦争の様相を呈している(フィクションですから)。

そんな現状で、昨日は本能寺の店長、村上ハルヲと道でばったり出くわしてしまった。
村上ハルヲはミネラルウォーターを飲みながら歩いていた。
気にいらねえ。だいたい東京人でも無いのにミネラルウォーターを飲んでいる輩はだいたいクズだと思っている。
俺は出会い頭で村上ハルヲの胸倉を掴み「おいコラ」と凄んでみせた。
奴は、「あっノダ先輩じゃないっすか~久しぶりっすッス~!」とおどける。
俺は掴んでいた襟首を更に上に吊り上げる。「おいてめえコラふざけんなコラ」
「やめてくださいよ~先輩」
奴は冷静に俺の腕を振りほどく。
奴は襟を直しながら、仕方ないという表情でこう呟く。
「やれやれ」
いちいち気障な野郎だ。
マジでぶっ殺したい。
「てめえ殺すぞコラ」
村上ハルヲの目つきが変わる。
「…なんだとコラ」
「あ?先輩だぞコラ」
「なにコラたこコラ」
「デスメタルなめんなコラ」
「テメーどうせコピバンだろーがコラ」
「最近オリジナルもやってるわこのハゲ」
「は?ハゲてねえしつうかオリジナル何曲あんだコラ」
「2曲あるわコラ」
「10年やって2曲とかマジねえわコイツ」
「あ?関係ねえんだよつうかコピバンなめんなコラ」
「うわ話になんねえわコイツマジキモいんですけどワラ」
「ああ⁉」
「また前座やらせんぞこのハゲ」
「あっああああ~⁉なめてんかコラ‼」
「なめてるわこのハゲ」
「ハゲてねえわ!」
ダメだ。なんか俺も奴も頭が悪過ぎてこのままでは泥試合にしかならそうだ。
これはもう、今までずっとそうしてきたように、殴るしかない。
俺はナックルアローを仕掛けるべく、弓矢を引くような塩梅で右手を振りかぶる。
「あれ、殴るんすか先輩?殴るなら殴れよホラ」
「言われなくても殴ってやんよ~‼」
俺の伝家の宝刀ナックルアローの弓が放たれる。
その瞬間だった。
背後から頭を殴られたような衝撃が走る。
いや、本当に背後から頭を殴られたようだ。
俺はその場に倒れる。
おぼつかない視線の先は、村上ハルヲと、もう一人見覚えのある男。あれは地球ドボルザークのベース、大下ヒロシだ。
次第に狭くなる視界。
遠ざかる意識の最後に見えたのは、大下ヒロシの持っている血に濡れた青バットであった・・・。

数時間後、おれは救急病院で目を覚ます。
すぐに状況を理解した俺はその場で携帯を手に取り、バンドメンバーを近くのファミレスに緊急招集する。
医者には、アンタ相当な石頭だ、特に体に異常はないけども、大事をとって二三日入院してもらう、と言われたが、金が無いからとそれを断り、すぐ病院を抜け出して、メンバーの待つファミレスに向かう。
信号待ちの間、俺は心に近う。
警察なんて今更アテにならねえ。
バンドメンバーと本能寺に夜襲をかけて、燃やしてやる。
そして村上ハルヲを自害に追い込んでやる。
「敵は…本能寺にあり。」
そう呟きながら俺はようやくそこでタバコに火をつけるのだった。

100パーセントフィクションです。
ハードコアは大好きです。とりあえず禁煙したいです。