第七回 生演奏のススメ

第18期(2014年12月-2015年1月)

皆さんこんにちは、バンドネオン奏者の早川純です。
今フランスは、ちょっと物騒な雰囲気となっております。
思い起こせば僕が二十歳の頃、初めてアルゼンチンに短期留学した際
滞在したブエノスアイレスでは、積年の経済不安から暴動が起こりました。
当時日本でも大きくニュースに取り上げられた程で、翌朝心配した母から国際電話が掛かってきたほど。
今回のフランスでの一連の事件は、勿論アルゼンチンの暴動とは全く別のものではありますが、
ある種その当時と似たような空気を感じております。
何はともあれ、僕は元気にやっておりますのでどうかご心配なく。

さてさて、アパートメントでの連載も、今回で七回目となりました。
一回目から六回目まで、フランスのお話しから趣味のお話し、
演奏しているバンドネオンという楽器のお話しからタンゴという音楽のお話しまで
色々お伝えして参りましたが、いかがでしたかね?少しはバンドネオンやタンゴに興味を
持って頂けましたでしょうか?
まあ、大体こういう連載は初めが勢いがあって、
段々なんか収拾がつかなくなっていくということで相場が決まっておりまして、
僕もいよいよ、人に話すような事なのか、自分の頭の中でぼーっと考えていればいい事なのか
そんなお話しになって参ります。

前回、最後の方で僕のバンドのLIVE宣伝をする際、
是非一度、生の演奏を聴きに来てほしいと書きました。
CDが売れない時代と言われて久しい昨今、皆さんは好きな音楽をどんな環境で聴いていますか?

僕が小さい頃は、ラジカセが使われていた時代です。
CDなんかも普及してきていて、小学生の頃は姉のCDをダビングして聴いたり
好きな映画(ビデオ)の音楽を聴きたいが為に、だまーって再生させながら録音したものでした。
中学生の頃にはCDを買うようになり、じきにMDが登場した時には
図書館にあるクラシックやジャズ、はては落語や環境音楽まで、
CDをひたすら借りまくってきて片っ端からダビングしたものです。
今となってはMDなんて化石みたいなものですが。。。
その後はパソコンやインターネットの普及でmp3の音源が一般的になり、
今やネット上で無料で新しい音楽が簡単にダウンロードできてしまうという
なんとも便利な時代となりました。
まあ、もはや音楽よりもずーっと楽しい娯楽は世の中に溢れているワケで
普通の人々にとっての音楽の存在価値は、
一昔前よりずーっと小さくなったのではないでしょうか?
その聴き方自体、もはやスピーカーで聴くことよりも、音質の悪いイヤホンで済ます、なんて事の方が多いのではないでしょうか?…僕も人の事はとやかく言えませんが(笑)

何をするにも便利になった現代において、ある種の「貧しさ」を感じるのは、きっと僕だけではないでしょう。
物心つく頃には、かなり廃れてしまっていたレコードなんて
今聴いてみると、想像以上にいい音がするものです。mp3やMDよりは勿論、CDよりもずっと臨場感を感じますね。
日本とフランスを比べた時に、本当に日本の便利さを痛感する事が多いのですが
例えばここで「食材」というものを考えた時に、フランスの豊かさを感じる事があります。
放し飼いの鶏から産まれた卵や、じっくり手間ヒマ掛けて作ったチーズ。
素材自体が、問答無用にウマい。
日本でも一昔前の方が、手間もかかっていたかもしれませんが
その分「濃い」食材があったのではないでしょうかね?

自分を棚に上げるつもりはありません。音楽それ自体も、そして演奏家もまた
ひと昔前の作品や人に、不器用ながらも「濃さ」のようなものを感じる事がとても多いです。

デジタルにお手軽に音楽を消費することが可能になった現代。
今更「生」演奏に拘るのか?
否、そんな時代だからこそ、アナログな「生」音に触れてみませんか!という提案です。

今から原始人になりましょうとか、自然に還れとか言うつもりは毛頭ありません。
僕が作る音楽も演奏も、良き時代のそれのような「味」や「濃さ」があるものではないかもしれません。
それでも、今フランスくんだりまで来て学びたい、身につけたいともがいているのは
漠然とした雰囲気でも、単純な技術でもないのです。

演奏活動を続けてくる中で、本当に才能ある素晴らしい音楽家達に出会ってきました。
ベテランであれ駆け出しであれ、誠実な音楽家ほど、自分の現状に納得せず
もがき苦しんでいるのではないでしょうか?
そんなあっぷあっぷしてるところも含めて、是非生のステージを見に来て頂きたいです。
自分自身と、そして共演者と葛藤しながら音楽を作り上げていく過程は
ひょっとしたら聴衆にとっても便利に手軽に消化できるものでは無いかもしれませんが、
きっと心に何かを残せるんじゃないかとも思うのです。

…いやー、正直全く大それた事を言えるような演奏家だとは思っていませんが
とりあえず僕は僕で、最善を尽くします。
そして、他にも葛藤しながら活動を続けている演奏家は日本にも世界にも沢山存在するワケで
そんな人達の呼吸や息づかいを実際に感じながら
身体を使い楽器を操り、音を紡いでいく現場を、是非目の当たりにしてほしいです。
最終回を間近にして、なんだかまとまり切らない記事が続く気がしますが
実際、人間の中に渦巻いている事なんて、とりとめも無いものかもしれませんよ。
と、言い訳しつつ今回の〆と致します!

歌とデュオ