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2F/当番ノート

雨模様

当番ノート 第24期

他愛もなく わたしはひどく脆い

真っ暗なわたしの部屋 黄緑色の灯りが 
ひかえめに点滅している
布団の中にもぐりこみ その声を待った 
いつのまにか 眠りに落ちて朝が来る
曇った窓 そこによく指で絵を描いた 
はじめて買ってもらった12色のクレヨン
オレンジ色ばかりがみるみる小さくなった

不幸なとき 幸福だったときのことを思い出す
心地よくさせてくれるのは 雨の音と匂いだけ

他愛もなく あなたたちはひどく脆い 

きらきらときれいに飾られたツリー
そこに帰るための靴がほしいと願った
一人のわたしの周りには幾何学が寄り
時折 木のような何かが側で揺れていた
夕方の驟雨 湿った土の匂い

古いゲームのなかでも
しんだようにいきて
濡れたまま傘を刺す

わたしたちはひどく脆い
どうしようもなく

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「あーこれでもう終わりか」と思い、寂しい気持ちとほっとした気持ちのどちらも抱きながら記事を書いています。納期の短さに焦りながらも、毎週の木曜日をなんとか迎えられたのではないかなと思っています。
今回の連載を通して、自分なりに気付いたこともたくさんありました。その最たるものが、人に文章で伝えることの難しさでした。直接会って話せば絶対にいい話なのに、という話も文字に起こしてしまうとどこか味気なかったりしてしまうこともありました(僕の文章力の話にもなってくるのですが)。
それと、コラムのアイディアを浮かべるためにちょっと昔を思い出し、なぜか高校の頃使っていた数学の教科書を引っ張り出し、ぱらぱらとめくっていると、懐かしい数式をたくさん見つけました。
当時は公式一つ一つに感動し、なんでこんなにきれいに数字が消え、最後こんなにもきれいな数値が出るのかなと夢中でした。
その気持ちのまま理系の大学に入りましたが、気付けば大好きだった数学も置いてけぼり。学生じゃなくなってしまった今、もっと勉強しておけばよかったと、昔大人たちが言っていたことを自身で感じていることに少し驚かされています。
また、最近世界遺産になった製紙場に行った際、学生の入場券250円、社会人1000円と、その格差にはさすがに後ろ髪を引かれるような想いでした。
それでもやっぱり、良いものはたくさん見ていかなければいけないなとも思いました。

今一番どこに行きたいかって聞かれたら、迷わず京都の北って答えます。東京から約5時間。海沿いに並ぶ舟屋や袖志の棚田、それにもちろん天橋立など、日本の美しい景観を今のうちに見てみたいのです。ほんとに美しいものを見たとき、僕は写真を撮ることよりも、そこでぼーっと時間を過ごすことを優先してしまい、いつも家に帰って「あれ、写真が少ない」と少し後悔してしまいます。次の旅行もきっとそうなんだろうな。でも、それがあるから、自分の感性でしか記憶していないからこそ、また行きたいなと思えるような気がします。すでに行った事のある方や地元の方々は色々と思うこともあるのでしょうけれども、あくまで僕の今、行きたいと思っているうちの一つですので。
今年の少し暖かくなってきた頃にでも行こうかな。

結局、最後の最後まであまり自分のことについての話はできなかったけれど、初回の記事で書いたような気儘な部屋になったんじゃないかなと思います。
なかなか気付いてもらなかったかもしれないのですが、今回の連載で最初から最後まで一緒に入居させていただいていた雨子という女の子、このアパートメントに入居させてもらうきっかけになった存在でした。
アパートメントに入居が決まるもっと前の話になるのですが、管理人である朝弘さんが僕のHPに載せてある作品を見て「どこかで雨子の映像の続きは見れないのでしょうか」と、とても嬉しいお言葉をかけてくれたのが始まりでした。
それからしばらくが経ち、実際に12月からを担当することが決まり、迷わず雨子の映像を投稿していくかたちでいこうとおもいました。しかし、僕の思う雨子はもっと控えめで大舞台にあがるような存在ではないのではないだろうか、と不意に思いました。
そこで本編とは関係なく、その片隅でひっそりと住まわせてもらっているかたちでいこうと決めました。
人目に触れにくいところで雨子の話をこつこつと進めてきました。なので、最後くらいは雨子のコラムにしようと思い、雨子の半生を綴った“雨模様”を書きました。

そして、急なお願いにも関わらず最初から最後まで遅れることなく雨子に音楽をつけてくれた増田将樹さんには本当に感謝しています。京都の映像も彼に音楽をのせてもらいました。
今回お声をかけてくれました朝弘さん、いつも気にかけてくれていた管理人の鈴木さん、レビューを書いてくださっていた森勇馬さん、少しでも僕の記事を読んでいただいた読者の皆様、二ヶ月間本当にありがとうございました。是非また何かの機会にご一緒できれば良いなと思います。これからもきっと、このアパートメントには素敵な住民の方がいらっしゃることでしょう。私はまた一読者に戻るわけですが、ここでの色んな方の記事を読んで、また暖まれたらいいなと思っています。
それでは、また。

【 雨子の話 9 】

【おわり】

Yuya Kimura

Yuya Kimura

1993年群馬県出身。少し濃い目の珈琲と文庫本。それと、写真。

Reviewed by
森 勇馬

この人はいったいどんな本を読むんだろうな。
どんな人に出会ってどんな別れ方をしたんだろうな。
って、そんな風に毎週読んでいました。
なんだか昔の自分を見ているようで歯がゆかったり、優しい気持ちになったり。
図らずも(多分)文章と映像、たまに写真。
音楽は人に頼むというのは僕が入居していた時と同じで。
でも内容は全く違って。

こんな人生もあったのかなって、
通り過ぎた道は遠くに眺めるばかり。
新しい言葉を集めに行きたくなりました。

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