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2F/当番ノート

Letters #9

当番ノート 第29期

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2010年12月30日からの手紙

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新しく仕入れたレシピで、チーズケーキを作っている。

1人でお菓子を作る時間が好きだ。
きちんと積み重ねていけばおいしいものができあがることが、好もしい。
安心して作業に没頭できる。

パンを作るのが好きだという友達がいる。
「パン作りって、ケーキと違って生地を長い時間こねるから
時間も体力も必要だけど、すごく気持ちいいんだよね」
と教えてもらった。

パン作りは、ひたすらに収穫の日のために作物を育て待つ行為と似ている。
労力や時間や心を割いて淡々と育てるように生地をこねる。
汗が流れるし、腕は痛いし疲れる。
だけどその先に待つおいしいパンのためにひたすらにこねる。

そんな営みに感じ入る。

ある時別の友人に、賛美歌503番の歌詞について教えてもらった。

春の朝、夏の真昼、秋の夕べ、冬の夜も、
勤しみ蒔く道の種の垂穂となる時来たらん。
刈り入るる日は近し、喜び待てその垂穂

わたしは、信じて積み重ねていくことを思う。

Letter from 30 Dec.2010 to 30 Nov.2016

今回でアパートメントでの連載が終わりです。

Lettersでは、読んでくださる方に向けて、
毎週手紙を送るような気持ちで絵を描いていました。
今回の文章自体、みなさんに送る最後のごあいさつのようなので
もうこれ以上、言葉を重ねる必要はなさそうです。

アパートメント、見てるよ!と声をかけてくれた友達、
SNSなどでリアクションをしてくださった方々、
本当にありがとうございました。
またどこかでお会いできたらうれしいです。

どうぞお元気で。

柊 有花

柊 有花

柊 有花

幼児向けの学習教材制作・書籍編集職として8年間勤務ののち、
イラストレーターとして独立。
いまは女性向けのイラストを主に描く。

2017年4月、吉祥寺百年にて個展開催予定。

Reviewed by
ハヤシマドカ

絵も文学も、前もって全て行き先が分かってしまうと、途端につまらなくなる。けれども、行き先が分からない旅を続ける不安は相当なものだ。チーズケーキを焼く。工程が明確で、丁寧に作れば美味しくなるし、食べると体も気持ちも元気になる。元気になれば、こわくなって途中で放り出した海図をもう一度広げたくなるだろう。分からないことは素晴らしいし、世界は広く、船出が待ちきれない。より遠く、未知のひとびとへ会いに行く。再び不安の嵐にやられたら、帆を下ろし陸へ上がるだろう。次は、またチーズケーキかもしれないし、丸いパンでもいいけれど、必ず丁寧に作る。祈りの言葉の、四季を巡るような変わらなさでもって。

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