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2F/当番ノート

自分の生活を愛せるようにできることを、もっと考えていかなきゃいけない

当番ノート 第46期

身体が追いつかない。先週起こった出来事からの影響はとてつもなく、家にいると、なにもやりたくない状態に沈んだまま。見たくもないテレビをつけっぱなしにして、見たくもないSNSを眺めたりして、寝たくもないけれど、強いていうならそれが楽だから横になる。

このままでは、駄目だと、水を飲みたくなったときに、ベットからソファーに移動する。足元に置いてあるPCをただ開く、Twitterで最近公開した記事の感想を眺める。いけるいけると唱えながら仕事をはじめる。思考が止まり、手が止まり、ぼーっとして、セットしたタイマーで再び思考を取り戻し、手を動かそうとして、そして、止まる。タイマーが鳴る。

1日を振り返り、やれなかったこと、できなかったこと、その要因と思われるもの、解決するために必要そうな具体的な行動を考える。できなかったことを起点に自分を育てる。

そこに、なんとかしがみついているうちに、置いてきてしまったものがあった。大切な人が自ら命を絶った。

この出来事における、自分がやれなかったこと、できなかったこと、その要因と思われるもの、これから具体的な行動へ思いを巡らそうとする。

「すぐに判断しなくてもいい。楽に語れる言葉で思考停止するのを避けて、保留でいい。保留することや立ち止まることや悩むこと自体を悪者にしないように、前向きに、積極的に保留」

過去の当番ノートで書いた言葉。いまは、前向きな保留が必要なとき。

そして今の状態で語りたいことは、語りたい人に向けて、語ろうとなんとなく思う。伝えたいことははっきりしていなくていい、結論なんかなくていい、思いつくままに口からぼろぼろこぼすだけでもいい、発話じゃなくてもいい、言葉じゃなくてもいい、整理できた事実にしなくていい、複雑なまま、そのまま、ただ語りたいことを、語りたい人に向けて、語ろう。

「自分の生活を愛せるようにできることを、もっと考えていかなきゃいけない気がするんだ」

cover大切な人が亡くなった日の夜、妻に伝えた。妻は「そっか、ちょっと散歩でもいこうか」と言う。

自分の生活に「価値や意義がない」と、自分だけで判断しないでほしい。大切な人が生きているということが僕にとってはかけがえのないものでした。こちらからのわがままだとはわかっています。見えにくい痛みを持ち続けていて、それは、計り知れないものだったのだと思います。こちらからのわがままだとはわかっています。辛いこともまとまっていないことも、しょうもないことも他の人に聞かせたくないことも僕には言ってほしかった。もっと面倒くさい関係になっていきたかった。今更なわがままですが、今はそんなことを思っています。

木村 和博

木村 和博

いきづらさに執着しつつ、おどおどしながら顔を上げはじめました。

1991年生まれ。
劇作家/編集者/ライター
2019年4月より平田オリザ氏が主宰する劇団”青年団”の演出部所属、今のところほとんど幽霊部員。

NPO法人soarが運営するウェブメディア「soar」編集部メンバー。

Reviewed by
向坂 くじら

かなしみが生活を襲うとき、わたしたちは受けとるしかできない。つぎに、かなしみすら生活のうちであることが、わたしたちをさいなむ。それでも。

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