藝術草子 France⇆Japon/épisode 4「御守り」

長期滞在者

Bonne et heurese année 2017!

明けましておめでとうございます.今年もどうぞ、日仏藝術草子をよろしくお願いいたします.

 

小林古径不尽

(小林古径「不尽」山種美術館所蔵.山頂に3つの隆起が見られる「三峰型」の富士山.社寺縁起や参詣曼荼羅などの中世の絵画作例に見られる特徴的な形状だそう)

富士は昔から、多くの画家の心を惹きつけてやまない.

厳しさ、柔らかさ、のびやかさ、どの性格も富士の中に見つけることができる.

太陽の光を受け、月夜に照らされ、緋色に染まり、墨色に沈み、雄大な時間の流れの中で、毎度新しい表情を見せる山だ.

横山大観、速水御舟、片岡球子、好きな富士はたくさんあるけれど、眺めていて思わず笑顔になってしまうのは、やはり小林古径のゼリーみたいな絵.

つんっ!とつついたら、ぷるるんと震えるに違いないのだ.気持ちの良いブルーは、きっとソーダ味.

 

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年越し、福岡に向かう飛行機の中、窓の外を覗くと、視界いっぱいに広がる雲の海に、分厚い雪をかぶった富士山がぽっかりと浮かんでいて、その凛々しさにドキリとした.

大きな純白.

頂の雪の硬質な白に意識が吸い込まれていくようで、公私のごたごたで重く濁っていた私の心は、一瞬霞が晴れたような気持ちがしたのだった.

 

自然でも芸術作品でも、人的な穢れを寄せ付けないもの、人智の及ばない次元のものは、観る者を悟りの境地へと導くのかもしれない.

清濁併せ呑むくらいの気概.諦観の念とは少し違う、肩の力の抜けた受け入れの姿勢.そうしたものが、心の中に生まれる.一分の隙もないほどに身体中詰まっていた悲しみや苦しみは、魔法のように消えてくれたりはしない.それでも、トゲトゲした気持ちが穏やかになっていく感覚.

圧倒的な存在や空間は、精神の浄化を促し、越えられなかった境界線の先へと心を誘う.自分がこの世に存在していることの理不尽さを、説明なしに理解させられてしまう.自分の卑小さも含めて、宇宙の摂理は成り立っているのだから仕方がないという気持ちになる.

それは、世界の祝福だ.

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(「母型」内藤礼 2010年 地下水、コンクリート、石、リボン、糸、ビーズ

写真:森川昇)

 

内藤礼の「母型」は、空と風と水が観賞者ひとりひとりを祝福してくれる作品だ.

豊島美術館は内藤礼の作品(母型)と西沢立衛の建築が一体となった場所で、その名の示す通り、豊かな自然に囲まれた島のゆるやかな丘の上にある.

建物の天井は大きく2箇所、空いており、観賞者は美術館内にいながらして空の移ろいを静かに眺め、木々の緑で目を潤し、風の音や鳥のさえずりに耳を傾けることができる.

内部の壁は淡いグレーで、ユトリロの切なく心地好い雪に優しさと光を与えたような色だ.撫でるとしっとりとしていて、上質な辞書をめくるときのような吸いつきを指先に覚える.

床からはところどころ、ひそやかに水が湧き上がる.無数の水滴が、床のわずかな傾斜によってころころと転がっていき、集まり、広がり、小さな泉をつくっていく.

水滴は震えるように流れていく.小さな水滴は、生気の塊だ.

私が行った日は幸いにも雨が降っていて(長年の願いだったのだ、雨の豊島美術館)、霧を吹いたような細かい水滴がたくさんたくさん足元に広がっていて、それは水滴の銀河のようだった.

近づいて見ると、水滴の底には銀色の影が広がっていて美しく、無為の気持ちでいつまでも眺めていたくなる.ユーミンの歌詞「ソーダ水の中を 貨物船が通る」を想起するような、トリップ感、浮遊感.

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空間そのものが祝福に満ちていて、清浄な気が漂う中、心が宇宙に吸い込まれていく.

大気の中で放たれ、吸収され、引き寄せあい、交わり、離れ、循環していくものがある.名前をつけるのは不当な気がするけれども、精霊のような、もっと細かい粒子の集まりのような、私たちの人生とは関係のないところでルールが決まっている、揺るぎない連鎖.その循環は、否定ではなく肯定、すべてを受け入れてくれる寛容さを感じさせる.差し出されるものは受け取ってもいいし、受け取らなくても良い.

私がいようといまいと、関係なく世界は続いていく.その安心感.開放感.幸福感.

 

 

マラルメや草野心平の詩を読んだときと似たような心地がする.

空白や余白が、大事なのだ.身体の外にも、心の内にも.

寄り添えば寄り添ってもらえる.全身で、世界と一体になる.

 

 

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勿論、いつでも祝福に満ちた空間に身を置けるわけではない.

だからこそ、常に身につけていられる「御守り」が必要だ.

私の心に清らかな風を送ってくれるもの、存在し続けてもきっと大丈夫、ケセラセラ、と囁いてくれる強い味方.

 

クリスマス、私の元にやってきたのは、引き込まれそうな漆黒の石、オニキス.

硬質な黒だからこそ、穢れの入り込む余地がない.究極の純度を誇る、静かで頼もしい石だ.

サイドにひっそりと埋められたダイヤ達は楚々としていて美しい.

「蕾」という名のシリーズで、花開く未来を、逆境に負けない光を、時として混沌としている世界の中でも私が私であり続けるための道を、示してくれそうな指輪.

指輪のブランド、Maison Rubusのアトリエは、絵本に出てくる善い魔女の隠れ家みたいだった.部屋中に広がる甘くスパイシーな薫り.ところ狭しと飾られた花々.毛足の長いもふもふした絨毯.黒で統一された意志のある家具たち.たっぷりとしたソファ.そして賢そうな犬!

 

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こんなに素敵な場所で日々を過ごす善い魔女(美貌のデザイナーさん)が作る指輪なのだ.世界の祝福をきちんと私まで届けてくれるだろう.まったく、全力で信じられる.

2017年は、豊島美術館の想い出を胸に、オニキスのリングを指に、愛を携えて生きていこう.