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3F/長期滞在者&more

家日記 2018年7月

長期滞在者

実家に住んでいた頃は、家を出たくて仕方がなかった。人生とはこうあるべきと言わんばかりの、あらゆる押し付けに耐えられなかったからだ。

私の両親は「こうすれば人生は安全だ」という正解を持つ世代だった。大学に入ること、大手企業に就職すること。結婚して子供を産むこと。

けれど私の世代は違う。正解はない。学歴や職歴、家や車を持つよりも大切なことがある。

この家には、正解という虚像に近づくことよりも自分の納得感を大切にする人が集まっている。それが最大の幸運だったと思う。

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7月1日(日)
昴君がメルカリで梅を買ってくれた。これで今年は梅酒を作れそうだ。最近は忙しくて気持ちに余裕がなかったのだけれど、ちょっと楽になった。

7月2日(月)
純君が居間でダニに噛まれたかもしれないという。ああ、しまった・・・と思う。居間は床が畳なので、掃除をサボったり湿度の高い季節になるとダニが発生しやすい。座椅子のクッションも怪しい。噴霧状の薬はあまり好まないので、除湿機で対処しようかと思案する。

7月3日(火)
昴君と梅酒を作った。梅を洗ってヘタをとり、水気を切って、氷砂糖とホワイトリカーで漬けた。綺麗に漬かった梅を見てほっとする。余った梅はKOVALのジンと一緒に漬けてみた。来年が楽しみ。

昨年漬けた梅酒は麦焼酎で漬けたものとホワイトリカーで漬けたもの二種類あり、麦焼酎は最初に麦の香りがふわっと漂う面白いお酒になっていた。これからちびちび飲んでいこう。

7月4日(水)
昨夜から長時間、居間に除湿機をかけてダニ対策。これで改善されているといいのだけれど。目に見えないからどれくらい除湿機をかければいいのかわからない。湿度計を買うべきだろうか。

7月5日(木)
絹江ちゃんが帰宅するところに遭遇。リュックを背負っていた。この家の住人はリュック率が高い。意外なことに純君はリュックを使っていない。2泊くらいは余裕でできそうな大きなショルダーバッグが純君の仕事用カバンだ。

台所に小バエがいるという話になったので、料理の後入念に掃除する。洗面所も気をつけなければ・・・。

7月6日(金)
お風呂場でGの幼虫を発見し、即座にシャワーで流してしまう。私は幼虫なら対処できるのだ。それより可及的速やかにブラックキャップを設置しなければと思い、住人チャットに呼びかけた。

今井君が雨雲レーダーを上手く使って全く濡れずに帰宅。東京は強い雨が降っているけれど、西日本はそれとは比にならないような雨に降られているらしい。雨がこんなに怖いものだとは・・・とニュースを見ながら思う。

7月7日(土)
ずっと延ばしていたブラックキャップの設置を今井君と決行。屋外用のものを、室外機や勝手口、お風呂場の窓近くなどに設置する。これで少しマシになればいいのだけれど・・・。今井君は鬱蒼と茂った背の高い雑草の間をするすると抜けて行く。運動は好きではないと言うけれど、彼の身体能力は実はかなり高いと思う。

夜、外出先から帰宅すると純君がワールドカップをテレビで見ていた。イングランドVSスウェーデン。純君が居間でテレビを見ているとなんだかほっとする。

7月8日(日)
絹江ちゃんが友人を連れてきていた。同居人が仲良さそうに友人と話しているのを遠巻きに見るのが好きだ。平和な光景。

7月9日(月)
外で事件に遭遇し、昴君と首を垂れながら帰宅。居間では純君がパソコンに向かい、今井君と絹江ちゃんの部屋には電気がついていた。もやもやとした一日の終わりに、誰かが同じ家で日常を営んでいるということが案外救いになるものである。

健康上ほとんど寝酒をしないのだけれど、今夜は自家製の梅酒をロックでぐいぐい飲んでいる。

7月10日(火)
昴君が風邪をひいた。微熱と咳。だるそうにぼーっとしているので豆乳担々麺とサラダをおすそ分けしたらおとなしく食べた。豆乳担々麺は最近作るようになった料理で、ひき肉とネギさえ炒めておけば簡単にできる。

絹江ちゃんと風呂場の前で遭遇。暑いねと言い合う。本当に暑い。外よりも家の中のほうが暑いような気がする。

7月11日(水)
居間が焦げ臭いので住人チャットで確認したところ、居間の隣に和室に住んでいる今井君が明け方蚊取り線香を炊いていたということがわかった。次回からはアースノーマットにしようと提案する。ところで最近知ったのだけれど蚊は人間の放つ熱を50m先からでも検知するという。50m・・・。恐るべし。

7月12日(木)
久しぶりに仕事で遅くまで飲む用事があり、へろへろになって帰宅。純君はさらに遅い時間に、足音から察するに私のようにへとへとになって帰宅したようである。

7月13日(金)
帰宅すると絹江ちゃんが共用の長靴を洗っていた。休日、大雨の被害にあった愛媛までボランティアに行くのでそれに使うのだという。明日からは全国的に猛暑なので心配である。愛媛は絹江ちゃんの故郷だから、思い入れがあるのだろう。どうか気をつけて行ってきてほしい。

昴君がバンドの話し合いがあると言って1時を過ぎても帰宅しない。こちらもどうか上手く物事が進んでいてほしい。

7月14日(土)
全国的に猛暑。先日絹江ちゃんが綺麗な花を買ってきて玄関に飾ってくれたのだけれど、それも暑さでくったり気味である。

愛媛はボランティアの受け入れがいっぱいになったらしく、絹江ちゃんは週末家にいることになった。猛暑猛暑とニュースで騒がれているのでちょっとだけ安心してしまう。

7月15日(日)
念願の草むしりをした。炎天下、小一時間の草むしり。全員汗だくである。45リットルのゴミ袋がゆうに4袋を超えるほどの雑草であった。お疲れ様でした。

7月16日(月)
どうして私ばかり大きなGに遭遇するのだ。世の中は本当に不公平である。お風呂に入ろうとしているとき、それも全裸の状態で遭遇してしまい、大パニックでバスタオル一枚だけ体に巻きつけて逃げ出した。幸い昴君がいたので退治してもらえた。去年も私はお風呂場で大きなGに遭遇し、昴君に退治してもらったような・・・。昴君には感謝である。

7月17日(火)
どうやら軽い熱中症になったらしく、疲れ果てながら帰宅。シェアハウスつながりの知人がカレーを作りに来てくれていた。食欲はそこまでないと思いながらカレーを一口食べたらもう一口、もう一口と食べている間に完食。ものすごく美味しかった。昨日収穫したばかりだというトウモロコシも食べた。これも驚くほど美味。

なんと今日も風呂場でGの幼虫に遭遇。窓は閉め切っていたので、排水口が怪しい。なんとしてでも防がなければ。

7月18日(水)
久しぶりに洗濯機の洗濯槽とお風呂の浴槽を専用の洗浄剤で洗う。洗濯槽からはいくつか黒い塊が出てきてギョッとし、二度洗い。なぜかこれを義務感よりは自分の欲からやるときがある。掃除するとどこか気持ちが楽になるのだろうか。

今井くんが昨夜から青森に行ってしまった。青森は最高気温が25℃という、今の東京からすれば天国のような場所である。

7月19日(木)
脱衣所の換気扇にカバーをつけてみた。これでホコリと虫対策ができた・・・と思いきや、お風呂場の換気扇はサイズが大きいので新たにカバーを買わなければ。やれやれ。

7月20日(金)
今週は月曜が祝日だったから4日間しか働いていないのにとても疲れた。ベッドの中でうとうとしていたら恐らく純君が帰宅する音が聞こえた。

7月21日(土)
猛烈な暑さの中、純君が出かけていった。15時過ぎに朝ごはんを食べる昴君。共用のタオル類をまとめて洗う絹江ちゃんに、青森から帰ってきた今井君。平和な土曜日である。

昴君と夜外出していたら、二度も今井くんに会った。楽しい。

7月22日(日)
21時、誰もいない。最近は居間に人がいないと脱衣所のドアを全開にして(もちろん服は着た状態で)髪にドライヤーをかける。最近はシャワーを浴びたあとも汗がだらだらと出てきてぼうっとしてしまう。

7月23日(月)
夜、居間からカレーの匂いが漂う。今井くんの夜ご飯だ。私もカレーにしようか迷ったけれど、結局ゴーヤチャンプルーにした。夏だ。

7月24日(火)
久しぶりに雨が降った。みんな傘を持っているだろうか。

7月25日(水)
純君から「靴箱の中の靴にカビが!」とメッセージを受け取った。この家に住んで何年も経つけれどそんなこと初めてだ。とにかく靴箱の扉を開けっ放しにして、廊下に除湿機を置いた。週末に靴を日干しにしたいけれどどうやら台風が近づいている模様・・・。

7月26日(木)
静かな夜。家には昴君と私しかいない。

7月27日(金)
台風が近づいている。低気圧のせいなのか、仕事の疲れなのか、昴くんと今井くんははやめに就寝した様子。純くんと絹江ちゃんはまだ帰ってこない。雨が降らないうちに帰宅できればいいのだけれど・・・。

浴室と脱衣所の湿度が酷いので除湿機を買わないかと提案したところ、会議案件となった。

7月28日(土)
みんなが眠っている間に台所の掃除。すっきり。

7月29日(日)
深夜に帰宅。どうやら純くんは旅先から帰っていない様子。

7月30日(月)
帰宅すると純くんが居間の畳の上で伸びていた。旅先での疲れが溜まっているらしく、今日はここで寝落ちしたら風邪ひくよと今井君と一緒に忠告する。

7月31日(火)
住人会議。お風呂場と脱衣所用に除湿機を買いませんかという話と、洗濯機を買い換えようという話。買うものを選ぶとなるとどうしても白熱して会議が長くなってしまう。2時間くらい経ったところで私は疲労が限界に達し、結論も見えてきたので離脱して眠った。

浅井 真理子

浅井 真理子

もの書き。
エッセイを書いています。

Reviewed by
黒井 岬

「もやもやとした一日の終わりに、誰かが同じ家で日常を営んでいるということが案外救いになるものである。」

私(レビュワー)もいま現在、以前暮らしたシェアハウスに再び住んでいる。もともとは今ごろ、別のところで別の人と二人暮らしをしている予定だった。人は変わる、事情も簡単に変わる。色々なことが狂ってしまい、気の置けない友人たちのいる家に舞い戻った。住み慣れた場所ではあったし友人たちは喜んで迎えてくれたけれど、二度目の入居をした当初の感覚は「座礁」に近かった。

毎日が淡々と過ぎる。住んでいない間にも増えた、同居人たちが愛でている物ものを日々目にする。ごみを出す。前に住んでいた頃より分かりやすくげっそり痩せたことを心配されつつ、食事を作って摂る。誰かと時間が合えば、どうでもいい話をして笑う。

そうしているうちに、同居人たちの営む日常から漏れる光を少しずつ浴びるようにして、自分の中の消化できないつかえに囚われる時間はだんだんと楽になっていった。
単なる「慣れ」とは違う厚みを持った、なにか癒す力がこの場には働いているなと思う。
真理子さんの住む家も、きっとそうなのだろうと想像する。

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