長期滞在者
自由であることは大切だと思う。様々なことから自由になって、思いのままに動けたら最高。その点、自分はほんとうに自由奔放に生きていると思う。好き勝手に生きているし、本能のままだし、体だけ大きくなった子どものよう。自分の親世代とはまったく違う価値観を持っていると思うし、今自分のまわりにいる人の多くとも多分どこか違うけれど、それはそれでいいと思う。経験が違えば考え方だって違ってくる。それはごくごく自然な…
長期滞在者
空港やホテル、ショッピングモールといった場所にどうしようもなく惹かれることがあります。共通点は清潔で広く、誰の居場所でもないところ。国内線よりも国際線、旅館よりもホテル、商店街よりもモール。不特定多数の人々が出入りし、様々な商品と最新の設備が揃い、デザインは常に現代的にアップデートされ、夏でも冬でも体感温度は一定に保たれている。お金がなければ何もできませんが、お金さえあれば様々な商品を買い、様々な…
当番ノート 第25期
君がぼくのことを、一番好きだった瞬間に それはたぶん、ぼくの予想では2年くらい前だと思うけど もしいま、10秒だけ あの時の君がぼくの前に現れたとしたら ぼくは、なにをするだろう なにか言うだろうか 休みの日、雨。 起きたらもう昼前で 寒いしベッドから出れないでいるぼくは ぼんやりとそんなことを考えています 休みの日の、頭の悪い…
当番ノート 第25期
“私、考えるんだよね。欲しいものは手に入ったなって。好きな仕事でしょ。ボーイフレンドでしょ。この町もしっくりくる。 “……でも何かひとつ、たぶんあとひとつなんだけど、足りない気がする“ その言葉たちを聞いたとき、パズルのピースを集めているみたいだなと思った。 今をずっと続けられれば、それで幸せだと思うんだ。それじゃいけないのかもしれないけど……” “ ◎ これが大切だと思うものを、ひとつずつ集めて…
長期滞在者
わたしの調子の良くないときに限り、妹のなんとなくモヤッと暗い電話が掛かってきます。お化け屋敷でこんにちは。 いつも良い反射が出来るわけではないので、今回は、キズバンを貼るのに失敗しました。良い反射ができるときは、会話の中で何かがほぐれるのですが、魔法使いでもないので毎回そうはいきません。つれない態度になってしまい、敵対は良くないという学習まではできているので、電話はあっという間に切れました。 母に…
当番ノート 第25期
“僕が旅にでる理由は だいたい百個ぐらいあって”*と、くるりの岸田さんが歌の中で歌っていた。 私がニューヨークに来た理由も、百個はないが結構ある。一つ目の理由は、その曲の一節とまた似ていて、その時自分がいた場所で息が詰まりそうになったのと、小さな理由が山ほどと、大きな理由としては、この街に溢れるエンタテインメントと、行動さえ起こせば巡ってきそうなチャンスの影に心奪われたから…
当番ノート 第25期
家の扉が叩かれたのは午后のハーブティーを淹れようと読書の顔を上げ、立ち上がった時だった。 窓から差し込む光は淡昏く、雨音は朝からずっと硝子を叩き続けていた。細く降り注ぐ音の中で読書をするときほど、幸せな瞬間はない。 こんな雨の日にわざわざ訪ねてくる人間はそういない。よっぽど急ぎの用か、よっぽどの変わり者かのどちらかだ。おとなしく本を読んでいた相棒が扉の方を見るなり、慌てて巣箱に帰っていくから…
当番ノート 第25期
東京から単身三重に飛び込んでNAGI編集部に入舎。ローカル出版物に携わる仕事がスタートした。慣れない土地での日々は目まぐるしく、入って間もなくして山登り取材に駆り出され毎日があっという間に過ぎていった。学生の頃のようにコンスタントにモノクロ写真が撮れない。焦りを感じつつも日々の生活に追われていった。事務所の窓に広がる田んぼが掘り返され水が差し鏡のように浮かび上がっていく。植えられた稲が茂りだし穂が…
当番ノート 第25期
別れた人に会ってきた それ別れてないじゃんね 魔が差したというかなんというか、 さみしかっただけなのかもしれないし もしかしたら、どんな顔だったか思い出したかったのかもしれない 結果から言えばね、 会うんじゃなかったなって思う たのしかった たのしかったけどね 2メートルくらいの長さの棒の端を お互いのおでこにあてて 棒を落とさ…
当番ノート 第25期
旅先の窓の外に海が見える部屋で、ホゼの言葉を思い出していた。 「光はまだ知らないこと」 ああ、あなたの言った通りだ。と私は思う。 ホゼに会いに行った5年前、私は彼に「あなたにとっての光と影って何?」と聞いた。 怪訝な顔をした彼に、慌てて「陽射しがあなたの顔に素敵な陰影をつけていて、だから聞いてみたくなったの」と言い訳をしたのだけれど、あのとき私は切実に人の中にある光と影を知りたいと思っていた。 あ…
長期滞在者
昔一時期、ペンタコンシックスという東ドイツ製の中判カメラ(6×6)を使っていたことがある。ビオメターという名の標準レンズの写りが美しく、カメラのデザインもなかなかかっこよかったのだが、肝心のカメラボディが一癖も二癖もある大変な代物で、フィルム1本(12コマ)に1~2コマは必ず妙な露光ムラが出るとか(シャッター幕の走行に変な癖があるらしい)、そもそも露出自体安定しないとか、コマ間隔が適当でたまに重な…