当番ノート 第29期
暮らしは嘘をつかない。 暮らしは裏切らない。 暮らしはいつも、正直にこたえてくれる。 窓を開ければ、あたらしい空気が吹き込んでくれる。 床を研けば、つやつやとひかってくれる。 洗濯をすれば、きれいにみちがえった布がわたしを包んでくれる。 料理を作り、口に運べば、きちんと腹が満ちてくれる。 わたしの作る料理は、 わたしにとても、おいしくやさしい。 喜びや安心は、自給自足して生きなければならない 、と…
当番ノート 第29期
暮らしのリズムが変わった。彼は毎朝起きると「あー幸せ」と言う。それから朝ご飯を作り、それをゆっくりと食べて、本を読んだり、美術館に行ったりしている。 私のほうは未だ存分に仕事が残っている。低気圧からくる頭痛と戦いながら、しぶとく明けない梅雨の空を恨めしげに眺めている。 最近、この家を離れることが、すんなり自分のなかに入ってくるようになった。この体調も気力も下がり気味な状況から抜け出せるのであれば、…
当番ノート 第29期
一人暮らしをして、2年ぐらい経過した。 はじめてこの家を見に来たとき、ここに住んでみたいな~と なんとなく自分が住んでいる様子が思い浮かんだ。 異性とお付き合いする時も、きっと、そう。 自分がその人とお付き合いしているのが思い浮かばないと、 なんだかしっくりこないなと思い、前に進もうとしなくなる。 イメージと違った展開が待っているかもしれないのに、 しっくりこないその先に、しっくりが待っていたかも…
長期滞在者
local(地方)に若者の目が向きはじめているのには、おそらく理由がある。 一つの駅から数分単位で一日に何十本もの電車が走るように、大都会の生活はどこかきっちりとしていて、迫られるように追いやられるように日々を過ごしている人も少なくない。 計算しコントロールできるものと向き合いながら、社会や自然に対して、どれだけ自分が主導権を握れるのか。合戦のような毎日があると言ってもおかしくないような光景が、街…
当番ノート 第29期
怪獣、とは我々にとって何だろうか。子供のおもちゃ、恐怖の対象としてのモンスター、ラテックス製の着ぐるみを着た、おどけたキャラクター群・・・少し怪獣映画を知っている人なら、戦争のメタファーと答えるだろうか。 怪獣モノ、というジャンルには、時代や作品によってさまざまなバリエーションが存在する。かつてロマンポルノの製作者が、濡れ場さえあればどんなシナリオでもよい、と言ったという話があるが、怪獣モノもそれ…
当番ノート 第29期
はじめまして。今日から、まだ見ぬ、名前も知らないあなたに向かって 手紙を書くことにしました。でも、私はすでにあなたを知っているような こともあるでしょうし、あなたもはたと私とあったことがあるように思う かもしれません。 今、月齢5の月が南西の空に輝いています。しかも今夜は月のすぐ下に 明るい土星がランデブーしているのですよ。あなたの空には見えているかしら。 月は毎日、星の中を東へと移動していきます…
当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年2月25日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 夕暮れのなめらかな海の水面のようだと思えば、 いたずらを覚えたばかりのあばれんぼうの 波打つ胸のようだったりする。 心は、晴れたり曇ったり。 ときどき雨も降ります。 世界に対し…
当番ノート 第29期
ぽつら、ぽつら。 あかりがまばらについている。 ひとりだなあ、とおもう深い夜 そんないくつかの窓あかりをおもいうかべて ひとりだ、ということはみんないっしょで そういういみで、ひとりじゃないな とおもいます。 どうしたってひとりだなあというとき そんなふうにみえないだれかをおもって よるをこえて、あさをむかえました。 わたしのなかにも、 いくつもの、いつかの夜の窓あかりが 真夜中のアパートメントの…
はてなを浮かべる
黙っていてもいいですか? 黙っていてもいいですか? 黙っていてもいいですか? 黙っていてもいいですか? 黙っていてもいいですか? 黙っているのは 黙ってしまうのは 言うことがないんじゃなくて もう少し黙っていていいですか …
当番ノート 第29期
彼は連日、酔っぱらって帰ってきてはバタンと寝てしまう。昨日は取引先の人が開いてくれた送別会、一昨日は部署の送別会、先週が会社全体の送別会。そして今日がついに最終出勤日だ。 「この人、本当に仕事やめちゃうんだな…」 彼が仕事を辞める理由の半分は、確実に私の側にある。この先どうやって一緒に生きていこうかを何度も話し合った結果、しばらくふたりで旅にでることになったのだ。 その計画自体に不満はない。その人…
長期滞在者
9月18日 解体間近のみすずビルで 暗くなった部屋に踊り子によって灯りがともされる。瓶の中の灯り。ここは水の底か奥深い洞穴か。ゆっくりとたゆたうような動き。もうすぐなくなってしまうというビルで交わされたであろう幾多の人の思いと向き合っているのだろうか。突然はじける。音、音、音。しなやかな腕、踏み出す一歩。力強さ。佳央理さんのダンスは軽やかだが地面にしっかりと立っていて、古来踊りが自然や神々との交流…
当番ノート 第29期
朝目覚めた。 見慣れない部屋。 あれ、ここはどこだったっけ?と天井を見ながら思う。 隣のベッドでは、友人がスヤスヤと寝ていた。 それを見て思い出す。 そうだ、私たちはインドに来たのだった。 友人を起こさないように、物音をたてず気をつけながら窓辺に移動する。 静かに窓を開けるが、錆びているのかガガッガとわりと大きな音がする。 起こしてしまったかもと心配になり振り返ったが、彼女は変わらず眠っていた。 …