当番ノート 第49期
おまえたちは異質なのだから黙っていろ。 と、 拳銃を突きつけられる 銃声はしない みんな黙ったから / 知らぬ間にわたしたちは世間へ買い叩かれる 飲み会なんか嫌いでした 酔った香りも おとこも嫌いでした。 べろりと触られることも 値踏みされるのも 軽々しく守ってやると言われるのも 嫌いでした わたしたちは買い叩かれるために 嘘をたくさんつきました 買い叩かれなければ正月が迎えられないので 嘘つきの…
当番ノート 第49期
おにぎりのタトゥーを入れて、中の具は死ぬまでだれにも言わずにひみつにしたい、そんなふうに人に何度か話したことがある。たいていの人は意味がわからないという反応をするか、ただ笑うか。ほんのすこしのひとだけがいいねと言う。 いつもの冗談のひとつだとおもわれがちだけれど、これにははっきりとした理由がある。別におにぎりじゃなくてもかまわないのだけれど、中身をひみつにするように、何によっても侵されないじぶんだ…
当番ノート 第49期
痛いと感じるから傷が表れるのか、傷があるから痛いと感じるのか。 *** わたしたちが「傷」という言葉を使うとき、たいていの場合はそこに「心」が密着している。傷つけられた、傷つけた、傷が深い、傷が癒える。傷には痛みが伴うが、傷も痛みも目には見えない。だから、自分や他人の傷の深さがどれほどのものであるかも、その痛みがどれほど苦しいのかも、もちろん目に見えない。ゆえに、傷をめぐるわからなさと向き合うこと…
長期滞在者
前回の記事からの続き。 翌朝、信じられないくらいの頭痛で目が覚める。 ちゃんと財布も携帯もある。ネックウォーマーだけ、どこかに忘れてきたよう。 早起きして、熊野古道の中腹にある滝を見に行こうと思っていたが、まったくもって間に合う時間じゃなかった。 部屋を出て1階に下りると、宿のおばちゃんがソファに座っていて、「朝ごはん、トースト焼けるけどどうします?」と言われるが、食欲が皆無なので、「ちょっと二日…
当番ノート 第49期
あのころ持ち歩いていた正義、インターネットから断絶された世界で寒いねぇって伸ばされた手を躊躇いなく掴む。何かひとつだけ残していってくださいって、抜け落ちた髪の毛を拾い集めた。恋の香りさえも知らない少年たちが空を堕ちながら死んでいく。爪の先まで愛してるなんて、好意と暴力は紙一重で憎らしいほどに大切だった。 わたしが死んだら骨を食べてください。 あなたの口からあなたの体の中に置いといてください。生命を…
当番ノート 第49期
熱が出ると、決まって同じ夢を見る。まぶたできちんと覆い隠された暗闇の中にいろんな色の光の線が伸びていく。人より夢を見るほうだけれど、これはほかの夢とは決定的にちがうようにおもう。夢の中にわたしは存在しない。それはまるで、スクリーンセーバーのような。 その夢から目を覚まして、毛布にこすれた肌に痛みを感じた。布団にもぐってもすこし寒い。体温計で熱を測る、37度3分。いつもならふつうに過ごしているような…
長期滞在者
対角線という名の自転車に恋をした。自転車に? 自転車の名前に? それがよくわからない。 めったに実車を見る機会のない、販売台数の少ないメーカーの自転車なので、恋をしたといってもカタログやwebの写真を見ての話である。実物を見てではない。 自転車の分類としては、ランドナーと呼ばれる旅用自転車(荷物が積める・泥よけがついている・長距離移動に疲れないよう振動吸収に優れる鉄素材でできている・太めのタイヤを…
当番ノート 第49期
女子高生の皆さんに訊きたい。使い古して捨てるつもりの下着や制服を、数千円から数万円で「その手の筋の人」に売ってほしいと言われたとしよう。さて、売るか、売らないか。 絶対にイヤ、という人もいれば、自分が売ったことが誰にも知られないなら考えるという人もいるだろう。中には、写真や「オプション」なんかをつけてもっと高値で売りたい、という人もいるかもしれない。 使い古した下着を売って何が悪い? そういうのが…
長期滞在者
久しぶりに母校のキャンパスを訪れる機会がありました。その日の懇親会の会場はなんと学食だというので、それならばと思い、その後で飲食が供されるのはわかっているのですが、懐かしの青春メニューにもチャレンジしてみました。 当時とにかく安くてボリューム的にも満足できたのが290円のたまご丼。親子丼の肉なしのようなものです。それすら買えない時は、ただの白飯だけ注文し実家から通学してくる女子学生がお弁当を広げて…
長期滞在者
年に1度だけ世田谷線に乗る。毎年冬のこの時期、世田谷区の小学校で、この春卒業する小学6年生に将来の仕事について考える授業をしている。この学校に行くためのルートはいくつかあるのだが、私は必ず世田谷線に乗って行く道を選ぶ。 1989年。私は世田谷にある高校に通っていた。その高校で、私は歌とギターがとても上手な友人に出会った。私はその友人と音楽の話をする時間が大好きだった。そして、たくさんの夢を語り合っ…
Mais ou Menos
Pちゃん 今日も寒いね。もう2月も半ばになるのが信じられません。 先月はPが苦しそうにしていることが多かったけれど、ここしばらくは少しマシになってきているように見えます。安心しつつ、無理してないか、心配にもなったりして。 Pが映画を楽しんでいること、楽しむという感情が戻ってきたことがとても嬉しいです。去年なんかは、好きな映画すら観る気力もなくしていたから。でも、好きなものがあると、メンタルの調子を…
当番ノート 第49期
スカートのひだに恋心を隠しても彼女とあなたは美しかった。 朝礼前の使い古されたベランダ。ペンキが錆びた手摺り、ざらつく赤茶色 彼女が触れても崩れ落ちるのだろうか。彼女の桜のように白く優しい指先も同じように汚れるのだろうか。 彼女とあなたは美しかった 朝日の中、優しく笑うあなたがこちらを向かない。わたしは教室の入り口から動けない。 カーテンがゆっくりウエーブして、風、澄んだ空気、可愛いね、好きだよっ…