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3F/長期滞在者&more

「音楽に大切に向き合って書き下ろされた数々の楽曲が胸を打つ、涙が止まらない音楽映画です。」【ECHOLL「もう二度と」(2020年1月22日リリース)】

長期滞在者

年に1度だけ世田谷線に乗る。
毎年冬のこの時期、世田谷区の小学校で、この春卒業する小学6年生に将来の仕事について考える授業をしている。
この学校に行くためのルートはいくつかあるのだが、私は必ず世田谷線に乗って行く道を選ぶ。

1989年。
私は世田谷にある高校に通っていた。
その高校で、私は歌とギターがとても上手な友人に出会った。
私はその友人と音楽の話をする時間が大好きだった。
そして、たくさんの夢を語り合った。
叶うとか、叶わないとか、そんなことは全く考えていなかった。
ただただ、お互いの理想の将来をわくわくしながらしゃべる時間がとても楽しかった。

友人が学校から家に帰るまでのルートはいくつかあった。
学校から出てすぐ右に曲がって自転車で帰るルートと、
校門からまっすぐ歩いて駅に向かって電車で帰るルート。
電車通学だった私は、友人が自転車で帰るときは、帰り道にはほとんど話せなくて寂しかった。

「今日は世田谷線で帰る。」
友人がそう言って世田谷線に乗るときは、駅まで歩いて遠回りで帰るときだ。
だから、いつもよりも長く帰り道を一緒に歩くことができた。
大好きな友人と1分でも長く一緒に過ごすことができることが私には嬉しかった。

だから、世田谷線に乗ると私はいつも思い出す。
あの頃の夢を。

バンドを扱った映画が好きだ。映画館で予告編を見たときにこれは観なきゃと思って、数日前から席を予約して楽しみに観に行った作品であり、現時点で私が今年1番好きな映画となった『サヨナラまでの30分』。

ボーカルのアキの事故死により、メジャーデビューを目前に解散したバンド「ECHOLL」(エコール)。
アキの事故から1年後のある日、メンバーたちの前に突然現れた大学生の颯太。
バンドの再結成をメンバーに迫る颯太の中身は、1年前に死んだボーカルのアキだった。偶然アキのカセットテープを拾った颯太がそのテープを再生する30分だけ、2人は入れ替わることができ、1つの身体を共有していた。
1人で音楽を作っていた颯太は次第に、仲間たちと音楽を奏でる楽しさを知るが、ピアノ担当でアキの恋人だったカナだけはバンドに戻ってくることはなかった。カナに再び音楽を始めて欲しい。そのために、アキと颯太は最高の1曲を作り上げようとするが、カセットテープに異変が起き、アキと颯太の入れ替われる時間が短くなっていく・・・。

冒頭、カナが野外フェスでお目当てのバンドを観るためにステージに向かって、駆け出していく姿を見ただけでたまらない気持ちになった。あぁわかる。真夏の空の下、楽しみにしていたバンドのステージに向かう胸が弾むあの瞬間。いつものライブハウスやホールとは違う、空の下で風を感じながら音を感じる解放感。それがほんの一瞬で伝わってくるワンシーンから、まるで一目惚れをしてしまったように、映画に魅きこまれて、最初から最後まで、絶えず心を震わせて観ていた。

私の目から最初に涙がこぼれたのが、颯太の身体を借りたアキがライブハウスのステージで歌い、遅れてライブハウスに来たカナが、後方からそっとその姿を観るシーン。このとき、2曲目に演奏された曲が「もう二度と」。

この楽曲を提供したのは、雨のパレード。
映画で描かれるバンド、ECHOLLの楽曲は、odol、mol-74などが書き下ろした6曲を、音楽プロデューサーである、andropの内澤崇仁によってアレンジされている。
それぞれのアーティストが書き下ろした楽曲を、ECHOLLという一つのバンドのサウンドにしている内澤の手腕が実に素晴らしくて、私は映画を観終わってから、サウンドトラックアルバムの再生ボタンを繰り返し押していた。

ヴォーカルは、アキを演じた新田真剣佑、颯太を演じた北村匠海が務める。
「もう二度と」も、2人の歌声で綴られていく。
スクリーンから響く彼らの歌声には何度も鳥肌が立った。
1つのバンドサウンドの楽曲でこんなにも男性2人の歌声が美しく入れ替わり共存する楽曲は稀有だ。
彼ら2人の歌声がこの映画を忘れられない感動作へと導いていた。

「もう二度と」について、映画のパンフレットで作詞作曲をした雨のパレードの福永浩平がこう語っている。
「アキがカナに向けて初めて書いた曲だとしたらと思って作りました。」

「愛の意味も 夢の果ても
全てのことを あなたと知りたい
この先には まだ知らないことが 
呆れるほど 僕らを待っている」

アキはこの曲を書いたときに、自分が死ぬなんて微塵も想像しなかっただろう。
カナもまた、アキとの時間がまだまだたくさん続いていくと信じて疑わなかった。

サウンドトラックアルバムで聴くと、この部分は、颯太を演じる北村匠海が歌っている。
過去に死んでしまったアキではなく、今を生きている颯太が歌っている。

そのことに気づいた瞬間、私はわっと泣き出してしまった。

この映画を観てみたいと思ったきっかけはもう1つある。
ある朝、映画の萩原朔太郎監督が出演しているラジオ番組を聴いた。その中で「カセットテープは上書きができる」というところから発想を得た作品だと話していて、俄然興味が増したからだ。

私が音楽に夢中になったとき、再生する手段として最初に手にしたのは、カセットテープだった。
テレビの横にカセットデッキを置いて、音楽番組をテープに録音して聴いた。
好きなアーティストやバンドのアルバムはカセットテープで買って聴いた。
レンタルCD店で借りたレコードやCDをカセットテープにダビングして、何度も何度も聴いた。

そして、私が高校生のときに、お昼の校内放送で、最初に自分の声と言葉で音楽を紹介したとき、楽曲はカセットテープから再生されていた。その曲が入ったカセットテープは、友人が手渡してくれたカセットテープだった。

『サヨナラまでの30分』でも、カセットテープで音楽が温もりを持って手渡しされていくシーンがとても印象的に描かれている。

私の青春時代の音楽体験はカセットテープと共にあった。
そして、次第に私が音楽を聴く手段は、カセットテープからCDになり、今ではインターネットを経由してダウンロードした楽曲をワイヤレスイヤホンで聴く時代を生きている。

2020年。
私は、世田谷線に乗って車窓から見える景色の中にいる友人に語りかける。
「あの頃話した夢は叶って、私はその叶えた夢を子どもたちに話す今を生きているよ」と。

夢を持つことが楽しかった。
夢を語ることが楽しかった。
その夢は一緒に叶えるのだと思っていた。

いなくなるなんて思わなかった。

年に1度、世田谷線に乗る日は、
年に1度、キミのあの綺麗な歌声を聴ける日。

あれからどれだけ多くの音楽が私の記憶に上書きされようとも、
あのとき、耳にした友人の歌声は、ずっと消えずに残っている。

残っているから、
私は音楽を愛する今を生きる大切な人たちの音楽を伝えることに、必死に生きている。

カセットテープは上書きができる。
けれども、その音は聴こえなくなってもテープに残っている。
映画の中で語られるそのセリフは、自分の中にある忘れたくない記憶に重なる、記憶の上書きへの罪悪感を取り払ってくれた。

真夜中、サウンドトラックアルバムを聴きながら湯船につかっていると、
映画観ましたよ、と、音楽を再生しているiPhoneに、生きた言葉が届く。

私は今を生きている。
その実感をくれるのが、こうして好きなもの、好きな音楽を語り合える人だ。

映画のエンドロールでは、ECHOLLの「瞬間(sayonara ver.)」という曲が流れる。死んでしまったアキを演じる新田真剣佑と、今を生きる颯太を演じる北村匠海の2人の歌声は、最後にこの歌詞でだけ一つに重なる。

「そしてまた
その新しい柔らかさ 触れたときに
ふっと止まっていた時間さえ動き出すだろう
ただ全部抱きしめていたいと思った」

『サヨナラまでの30分』という映画は、私にとっての過去がどれだけ大切だったかという記憶を呼び起こし、今という時間が未来を紡いでいく輝きを運んできてくれた。

過去も今も未来も、その全てが私には大切で。
何かを忘れるわけでもなく、何かを選ぶわけでもなく。
ただ、愛しさを感じる全てをひたすらに大切にしていきたい。

これから待っている時間に夢を膨らませながら。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜20秒”に乗せて)
新田真剣佑と北村匠海がバンドのヴォーカルを演じ、その歌声を響かせる映画『サヨナラまでの30分』。ストーリーの切なさ、映像の美しさ、そしてなにより音楽に大切に向き合って書き下ろされた数々の楽曲が胸を打つ、涙が止まらない音楽映画です。映画のサウンドトラックアルバムから2人が歌うこの曲を。

ECHOLL「もう二度と」







武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、イベント司会、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会広報委員として、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

上書きされない記憶が、音楽で呼び起こされる。
それに映像がのって、物語まで加わったら、
その記憶がより一層鮮明に思いだされる。
観たい!私もこの映画が観たい!
思い出したいことがある。

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