長期滞在者
春。あまりにも落ち着かないこの季節。私をふりまわす花粉。気圧。寒暖差。 よく眠り、散歩したときに出くわす花や草に癒やされて、美味しいものを誰かと食べるときにだけ、人間に戻る。 3月1日(月) 今井君が買ってくれた訳ありみかんを、みんなで「これ、食べれそうかな?」と選別しながら食べる。今週中に食べきらないと危なさそうだ。 3月2日(火) 今日はみんな家にいる日。壁の向こうで純君が仕事しているのがわか…
当番ノート 第56期
「地面と命」という壮大なテーマを掲げて書き始めた「当番ノート」。シン・エヴァの流行りに乗って最初は「ジメンゲリオン」というタイトルで書こうと思っていたが、カタカタ打ち込んでいる最中に「地面下痢音」と変換されてしまったので急いで中止した。 「序」に続いて、今回は「破」である。エヴァの場合、「破」は最高傑作と名高い。そんなこんなで執筆への圧力は凄い。自分で蒔いた種である。地面に蒔いた種である。 前回書…
図書館の中の暴風
「図書館の中の暴風」は、わたし(坂中茱萸)と中田幸乃さんが毎月第二金曜日と第四金曜日に交互に更新する、交換日記のような連載です。 —– ゆきのさんこんばんは。 もうすっかり春です。寒い気候が大好きで虫が苦手でアレルギー体質のわたしにとって春はあんまりうれしくありません。でも春野菜は大好きなので、全くもって勝手なものです。 さて、少し前からお菓子作りに携わる仕事に就きました。一口にケーキや焼き菓子と…
当番ノート 第56期
2 凪子の人形 僕が凪子と出会ったのは、凪子が四歳の時。僕はデパートのおもちゃ売り場の、ガラス棚の中で微笑んでいた。たまたま立ち寄った凪子の一家が、僕を買い取っていったのだ。当時の凪子はミディアムヘアで、黒曜石みたいにキラキラした眼を持っていた。とても綺麗な眼だった。僕は彼女に見つめられた瞬間、背筋がゾクッとしたくらいだ。 「ねぇ、ママ。私、この子がいい」 「本当にいいの?」 「うん。この子がい…
深夜図書室
倫理の授業を受けたことがある? 僕はないんだ。 だから、それがどんなものなのか、ほとんど知らなかった。 これまでの人生で触れた倫理学らしきものは、大学生の時に読んだ、ジェイン・ジェイコブズの「市場の倫理・統治の倫理」くらい。 この本は、在野の思想家であるジェイン・ジェイコブズが15年くらいかけて、世の中の倫理を2つにまとめたもの。 商売や取引きをする時に大切になる「市場の倫理」(例えば「節倹せよ」…
当番ノート 第56期
今年で、線維筋痛症、慢性疲労症候群という病と共に生きて、12年ほどになる。 23歳ごろから、少しずつ体に鉛を注入されたかのごとく、怠さが増していった。家の中での移動でさえ、体を重力から剥がすように、足をよいしょ、よいしょと一生懸命動かさないといけなくなって、すぐに息が上がるようになってしまった。通学することも困難になり、日常生活もままならなくなった私は色んな病院に行って、何人ものお医者さんに相談し…
当番ノート 第56期
実家もアパートだったし、今住んでいるのもアパートだし、そんなこんなで「アパートメント」というウェブマガジンに書くのは何やら楽しい。「マンション」とか「アパート」とか、それぞれの言葉の意味の違いを知ったのは恥ずかしながらここ最近の話で、意外とライターは言葉を知らない。住めればオッケー、住めば都、余談だが最近まで「宮古島」を「都島」だと思っていた。ライターを、というか私は、あんまり言葉を知らない。 そ…
当番ノート 第56期
1 凪子のヘアゴム 凪子の髪は、ほんのりとシャンプーの香りがする。化学製品をたっぷり含んだバラの香り。その香りは、ひとたびかいだら誰もが虜になる。まさに、凪子そのものだ。 凪子の髪のことなら、わたしは何でも知っている。香りはもちろん、その指通りの良さや、ウットリするようなしなやかさ、琥珀色のその髪が、夕日に当たったときの、焼けつくような美しさ。わたしは何でも知っている。毎晩、しっかりと手入れを…
管理人だより
アパートメントを読んでいただいているみなさまへ 管理人(小沼理、廣安ゆきみ、浅井真理子)よりご報告です。 管理人のひとりであった鈴木悠平につきまして、3月31日付でアパートメントの運営を離れることとなりました。 3月29日、鈴木が理事を務めていた特定非営利活動法人soarより、鈴木の理事解任、およびその経緯の公表がありました。アパートメントとしてもこれを重く受け止め、このような決断に至りました。す…