〈境界線上のネロ〉
その言葉だけ ふとこのまえ浮かんで 離れずにいる ネロは谷川俊太郎の詩に出てくる死んだ犬の名前 それでも僕は歩いてゆくだろう すべての僕の質問に 自ら答えるために ってその詩に書いてある その言葉が未だに深く刺さって抜けないトゲ 燃える棘
燃える棘から産まれた断片たち 日の目も見ることもなかった赤ん坊たち 泣いてた自分の魂 最近ようやく泣きやんできた ネロ 俺は ネロって猫やと思う 飼ってた猫の名前はコロだったけど コロって犬みたいな名前や 犬やけど猫でもええ 生きてるし死んでる
時々コロが家に帰ってくる そんな気配を感じて えっ? コロ? てなって 辺りを見回すけどどこにもおらん コロはもう死んでる お葬式もあげた 今まで出たことないくらいでっかい涙がぼろんぼろん出てびっくりしてすこしだけ笑えてでも泣いた あいつ たまに遊びに来とるんか?
遊びにきて また帰ってく どこへ帰るんやコロ コロはコロやからなんでもええか 俺はコロにはなれんからネロになるわ ネロは犬やけど俺や 俺は犬 コロ お前はネコ んで でも たまにはとっかえたりしよや 犬と猫と交換して遊ぼうや ほいで道を歩くんよ
どんなとこだって行けるんよ どんなとこ 行きたいとこならどこだって いつにだって行けるんよ だって俺らは 生きてるし 死んでるし 人間やし 犬やし 猫やから ネロ 音の路て書いてネロや お前も俺もあいつもそこのあんたも みいんな ネロやで
音の路地裏でまあるくなってるコロ お前も一緒に行くか? 連れてったるわ そんなとこおってもつまらんやろ な だから行くで 音楽は無限や 形もないし 時間もない どこへだって行ける どんなとこへも飛んでいける あんたの耳のなかだって 星の果てへだってな
みいんなのなかのネロ 好きなとこへ歩いていけるとええなぁ
俺 恥ずかしいけど ほんまに思ってるで ほんまにそれがいい だって 生きてるんやもん 好きにしたらええやん なんであかんの 誰があかんて言うたの そんなん誰も知らんやん 言われたふりしてるだけやで
みいんなで ひとつのおっきな星の おっきな宇宙の 音楽なんやで ほんまはな みんな知らんけどな ほんまはそうなんやで 俺は知ってる だってそうなんやも 聴いたんや あの日 あの日ていつかてそんなん知らんわ いつだってええやん いつもいつかのいつかや
みいんな知らんふりしとるから コロ 俺とお前で ちと歩いてみよか 言葉っていう線路辿って 見知らぬ駅へ向かうんや そこに何があるか たのしみやな 昔のこともあるかもな 知らんこともあるかもな 全部でひとつながりで 全部 俺らの今 今ってのは永遠やでな