当番ノート 第54期
オーロラ(大ロラ)があるから小ロラもあると思っていた。自由研究に自由はなく、全て父の指導のもとだった。 記憶したことも忘れたような記憶が次々に閃いては消えていく。疲れ果てて休眠中のペッパー君より深く深く首をたれ、バスの窓に寄りかかって目をつむっているのに、眠れるどころか脳内は空回りし続けている。 今日も今日とてユニクロに身を包み、ユニクロでないところは、GUか無印良品。無味無臭。モブの、脇役の代表…
当番ノート 第54期
「歩くことが好きです」とか「趣味は散歩です」とか、言ってしまう。でも言ってから、ちょっと違うなと思ってしまう。ほんとうに私は歩くことが好きで、趣味は散歩なのだろうか。そういう理由で歩いているのだろうか。なにか違うような気がする。 どうも私は、歩くことが「正しい」と思っているふしがある。 個人的な正しい・正しくないの感覚と、好き嫌いや趣味嗜好は、似ることもあるし私自身ごちゃごちゃにしてしまうことも多…
当番ノート 第54期
弱さを抱えて生きることは罪ではない。 「こっちは雪がつもってるよ」 めーちゃんが電話でそう言っていたので、通話を終了してからしばらくの間福島の雪景色を想像した。 山の深緑と雪の白、澄んだ冷たい空気。吐く息は白く立ち上り、降り続く雪は音や気配を吸収する。永遠に思える静寂。厳しくも美しい冬。 生きるための自己防衛本能なのかは知らないが、私たちの記憶のほとんどは自動的に美化される。だが彼女との思い出はい…
当番ノート 第54期
年が明けて一週間以上が過ぎた。 正月ぼけと重厚な憂鬱は最初のうちだけで、瑣末な事柄を一つずつ対応していくうちに、休暇なんてながい夢だったのではないかと感じるくらい、するりと体が日常に戻っていった。 しかし、冷蔵庫を開けると、休暇が現実であった証拠がじっと佇んでいる。正月の名残の様々な食材。人間は時の流れに添えたが、冷蔵庫がついてきていない。これを片付けることが私の年始の課題であった。 中途半端に余…
当番ノート 第54期
こんにちは。イラストレーターの高松です。 引っ越して2ヶ月。生活を整えるために休日もバタバタとしていたのですが、ようやく散歩などする余裕が出来てきました。 – 夜の9時、お気に入りのラジオを聴きながら、トマトと玉子の炒めものをつまむ。年末の連休、実家に帰る前の一人の休日。最高だ。あともう一本だけ飲みたい。だけど冷蔵庫は空っぽ。うーんと唸りながら薄手のダウンジャケットに袖をとおす。スーパ…
当番ノート 第54期
眠りに落ちかけた矢先「あ、薬」と思った。寝る前のを飲み忘れていた。面倒なことを思い出してしまった。いい塩梅のまどろみ。これから抜け出すのは、億劫すぎる。いいやろ今日くらい。布団の中で丸まり、さらに丸まり、えいやと起きた。飲まなくても命には関わらないけれど、不調にはなる。 常夜灯にぼんやり照らされた3粒の白い丸を眺めながら、薬がもっとカラフルだったらいいのにと思う。黄色とかオレンジとか緑とか。以前、…
当番ノート 第54期
「こんな場所で死ねたらしあわせだろう」 中学時代、地理の資料集で厳島神社の写真を見て、そう考えた。 こんなに静かで、美しくて、神秘的な場所にひとりでいたら、誰も悲しませることもなく、誰にも悲しませられることもなく、石や草みたいに平和な気持ちで死ねるんじゃないか。そんなことを考えていた。 中学生の頃は、学校にうまく馴染めなかった。「自分」というものにも馴染めなかった。けがらわしい獣の肉体に自分が閉じ…
当番ノート 第54期
ずっと伝えそびれていたことをここから君に宛てる。 先生は大人になってからできた初めての男友達だ。 私たちはまったく違うタイプの人間で、共通点は同い年であることと音楽が好きなことぐらいしかなかった。でも何故か一緒にいて面白く、気楽で、なんかよくわからんがウマが合う奴ってこういう友達のことなんだろうなと思っていた。 県庁の展望台、パンケーキの美味しい喫茶店、いちご狩り、ライブハウス、遊園地……。当時の…
当番ノート 第54期
年末、そして年始を迎えた。クリスマスを過ぎ、家々の玄関には正月飾りがぶら下がり、デパートには凶器みたいな門松がぼんぼんと立ち、スーパーの鮮魚コーナーの海老は日に日にでかくなる。 日付に比例して、「もうそろそろ正月だからがんばらなくてもいいんじゃない」という雰囲気の濃度が上昇していき、31日にはほぼ原液くらいになる。 こんなときだけ社会の雰囲気に合わせる私は、ちょっといい食べ物を買い込み(普段は6枚…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅から、誰かに届けとラジオ波を発信するような気分で書いています。全8回の5回目です。 – 先日、とあるインターネットラジオを聴いていたら「二度見知り」という言葉が耳に入ってきました。人見知りの間違いでは?と思ったのですが、聞いてみると納得。というか自分にドンピシャな言葉でした。 …
当番ノート 第54期
銀シャリのラジオを聞くともなしに聞きながら、ふたりは今、あの青いジャケットを着ているのだろうかと、ふと思った。いや、そんなわけない。音声だけなんだし、きっとトレーナーやらパーカーやらラフな格好に違いない。でもラジオブースを想像してみると、やっぱりふたりは青いジャケットを着ている。それ以外の服装が思い浮かばない。銀シャリといえば青のジャケット。青が板についている彼らが、少しうらやましい。 数年前、イ…
当番ノート 第54期
西暦1999年の大晦日の夜、渋谷のスクランブル交差点にいた。 21世紀が2000年ではなく、2001年から始まるということはもちろん承知だった。それでも、2000年を迎えるときは特別な感慨深さがあった。「19」が「20」になる。区切りがよい。でも、 21世紀はまだ来ない。世紀と世紀のはざまに生じた、空白地帯のような年だった。 1999年末にはそれまで誰も口にしなかったような「ミレニアム」とか「千年…