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当番ノート 第9期
できる限り、 できる限りの言葉を、素直にしるしたい。 ここに、最後に。 私のこれまで。生きてきた毎日。その中で知ったこと、出会えたもの、人。 そういうものでねじ曲がってゆく、私にとっての世界。 それをどうやって表そう? どれだけ格好つけずに、偏らずに、ありのままを受け止められよう? そういう自分でいられるだろう? この二ヶ月、言葉というものを じいっと見つめていた。 私の内…
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当番ノート 第9期
子供たちがどんな風に成長し、大人になり、 どんな仕事をして、どんな家族をつくるのかを見届けたい。 そして、彼らの子供たちがどんな風に育つのかも見たい。 では、その先の、その先の、その先は? 僕も祖先にそう思われて生まれてきたのか? 自分の未来を具体的にイメージすることは難しい。 いつも現在地点を確かめることで精一杯だ。 けれど、カメラのファインダーを通して、 子供たちを眺めていると不思議といろんな…
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当番ノート 第9期
「ただいま」 そして私は、買ってきた、マカロニサラダをテーブルの上に。 続いてポケットの中の釣り銭、その硬貨数枚をひとつかみに取り出して、押さえつけるように「がちゃり」 と据えた。 テーブルの上に置かれた硬貨数枚は、「ぽん」と押された猫の足跡のように並び、それはなんだか今日一日を、「終わったねぇ」と承認した、肉球による捺し印みたいで、私はちょっと安心する。 それはつまり、まだ一度も別れ…
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当番ノート 第9期
ナモナキスベテニサクモノタチヘ RACHI SHINYA / WEB
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当番ノート 第9期
それではまた会う日まで。 スギモトダイキでした。
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当番ノート 第9期
夏休みの最終日。 ぜんぜん宿題をやっていなくて、夏休みの前半の出来事や天気なんて全然もう思い出せなくて、 それでもなんとか必死に振り返りながら、絵日記を完成させた。 もう、あれから20年くらい経ったのに、 まったくそれを彷彿させる、毎週木曜日は、夏休みの最終日。 この2ヶ月間、わたしの当番である金曜日の前日の木曜日は、いつもそんな気持ちを思い出した。 2ヶ月前。 タカヒロさんからアパートメントへ声…
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当番ノート 第9期
梅雨に入ったころに 始まったこの連載も 今週で最後。 すっかり季節は夏ですね。 合計8回の連載の中でいろんな切り口から 自分って人を伝えられたらと思ってきましたが 巧く伝えることはできたでしょうか。 自分的には全く伝えることが出来なかったなと。 ちょっと後悔しています。 でも中には わかったよって 言ってくれる人がいて その人の中に自分という人間が どんなかたちであれ存在してくれていたら また新た…
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当番ノート 第9期
昨日、初めて救急車を呼んだ。 私のためではなくてお兄ちゃんのために。 兄の意識ははっきりとしていて、 「まり、」 そう一言。いつものように部屋の戸の外側から声をかけられた。 「なーにー」と、これまたゆっくり私が返事をすると反応がない。 何だろうと思って部屋を出ると苦しそうに屈んでいた兄が、「救急車呼んで」と。 電話をしたあと、救急車は思いのほか早く到着した。 結果から言うと兄はそこまで大事にも至ら…
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当番ノート 第9期
僕が、誰かの写真を撮らせてもらうときにお話していること、 それは、今ではなく、20年後、30年後のような未来のことだ。 そのとき、その写真を眺めるあなたや そこに一緒にいるかも知れない誰かのことを想ってもらえたらと。 そして、ほんとうの月日が過ぎたときは、 そこに写る自分たちのことや写っていないいろんなことを 思い出してもらえたらとても嬉しい。 写真は未来にのこすタイムカプセルであり、 過去へとつ…
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当番ノート 第9期
朝、校門をくぐるずいぶん手前で、私の影が空に落ちていくのを見た。よく晴れた空の、鈴の音のような白い雲の隙間、どこからでも転落しそうな青いプールに、まっすぐ、綺麗なフォームで飛び込んでいった。 四月の桜並木が、風にくすぐられている。校舎の窓が、いくつかもう開いているのが見える。 先週まで姉妹みたいに遊んでたみぃちゃんが、今日はスーツを着てあそこにいる。きっと緊張してる。どうしよう、私、すごくう…
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当番ノート 第9期
これは政治じゃない、生活だ。 とても上手く説明なんて出来ねーよ、バカだから。 でも何がおかしくて、何がおかしくないことくらいわかるよ。 起こってる事柄は理屈だよ、構築された事実だよ。 嘘がバラまいたピラミッドだよ。 でもその震源は、いつだって心のはずだろ。 人は何かを感じて、何かを起こす生き物なんだ。 純度ある物事の動きには、感動があるんだよ。 何年も前から、何十年も前から、知ってるやつは知ってる…
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当番ノート 第9期
次回、2ヶ月の連載の最終回。ぜひご覧ください。
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当番ノート 第9期
誰かとの時間を共有するということは、 共有している相手の時間を、 一時の命を、わけてもらっているということだと思う。 先日夢に、しばらく会っていない、おそらくこれからも会うことのない人が現れた。 もう何年も会っていないのに時間は今を流れていて、 たまたま再会して、互いの近況を語り、別れるという、 なんの面白みもない、いつもの夢で起こる不思議なことがなにも起こらない、 ごくごく自然に起こりそうな日常…
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当番ノート 第9期
空の青も 海の青も 例えば思い出の青も 全部全部 自分の好きな色なのです。 大学生の頃撮った まだ青い自分の 青い写真。
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当番ノート 第9期
生き物の中身を、私は見てみたいと思う。 生きている私。呼吸をして動く、動物の、その皮膚の内側。そのからだ。こころ。 私は私の中身を見たことがない。 大学に入ってから、動物の骨を標本にする活動を始めた。 純粋に骨への関心もあったけれど、私にとってその一連の作業は骨格標本を完成させることを目的としているのではなかった。 私は生き物の中身を、この手と眼で、直接確かめたかった。 知っていますか? 生き物の…
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当番ノート 第9期
長男が生まれる年の、ある夏の日の昼下がりのこと。 途轍もない音をたてて激しい夕立が降ったことがあった。 それは、家の屋根が落ちてしまうんじゃないかと思うほどの勢いで、 おまけにお腹にずっしりと響くような雷の音が遠くから聞こえてきた。 妻と僕は玄関の扉を開けて、ばちばちと音を立てて落ちてくる無数の雨粒をびっくりしながら眺めていた。 ずどーん! 大きな雷の音が遠くで鳴り響いた。 その瞬間、クーラーやス…
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当番ノート 第9期
夏、夏、夏日。昼下がりの太い気温。指にたとえたら、ごっつい親指の腹みたいな。職人さんとか、親方とか、そういう人の強い指。 私の指はきれいに動く。仰向けで、板の間の床に背中の全部をつけて、指先まで反らせてみた。 天井には海岸線のようなシミがある。海面が上昇したように、去年よりも範囲を広げているような気がする。 扇風機が顔を振り、電灯から下がっている紐についた天体が、ちいさな楕円軌道を描いてい…
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当番ノート 第9期
与えられなくても、与えることは出来るんだって。 やさしくされなくても、やさしくすることは出来るんだって。 接しなくても、見守ることは出来るんだって。 泣くことは、悪いことじゃないんだって。 簡単なことほど難しいし、難しいことほど簡単なんだって。 いつかの冬に、言われたんだ。 「結局良知くんはさ、愛したいし愛されたいんだよ。」って。 言われた途端、涙が出たんだ。 今はもう、夏だけどね。
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当番ノート 第9期
. . . . あの物語は、つづく。 . . . .
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当番ノート 第9期
かれこれ5年近く、わたしは毎週靴教室に通っている。 もともとは友達が通っていて、いろんな作ったものを見せてもらったり話を聞いていたらすごく興味が湧いてきて、 紹介してもらい、わたしも彼女とは別の曜日のクラスに通うようになった。 「靴教室に通っています」というと、よく「靴職人を目指しているんですか?」と聞かれるけれど、そういうのではなくて、 そもそも「靴教室」というのに語弊があるかもしれない。 わた…
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当番ノート 第9期
突然不可解な音に目が覚め起き上がった。 部屋は明るい。けれど外はまだ暗いみたいだ。 どうやら机の上のケータイが鳴っていたらしい。 光っているケータイを見る。 「メール1件」 しかしなぜだかメールを開くことができない。 なんでだろう。どうやらバグってしまったようだ。 ふと気になり 部屋の時計を確認する。 「午前4時04分」 まだ3時間しか寝ていないらしい。 ついさっきまで寝ていたというのに 頭が覚醒…
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当番ノート 第9期
人はみんな一冊ずつ、辞書を持っている。 それぞれがかたときも離さずずっと持ち歩くそれ、 自分以外のだれかに伝えたいことが浮かんでくると、私たちはそのページをめくる。 知っていますか? 心の中にある気持ちやイメージは、すべてが言葉にできるわけじゃない。 言葉はひとつのカタチだ。実は万能じゃないもの。 みんなが何かを共有するために、今一番広く知れ渡っているひとつのカタチ。 だから私たちはなにか人に伝え…
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当番ノート 第9期
何の前触れもなく僕らの街を襲った大地震。 彼女の住むあたりはかなり震源地に近かったと思う。はたして無事なのだろうか? 僕は一縷の希望を抱いていつもより早く学校へむかった。 登校している生徒はまばらだった。それもそのはずた。 こんな日に登校すべきなのかどうか誰もわからない。 それくらいのショックと不安があったし、もちろん被災した生徒もいたと思う。 そもそも学校自体がまだどうすべきかという体制を整えら…
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当番ノート 第9期
いらっしゃい。の声に、「ビールと揚げ餃子、冷奴とポテサラに、あとでししゃも」と伝えてからこっち、俺はカウンターでずっと発声はない。 やっこの角に箸を入れてすぐ、無言で二杯目が出された。点けっぱなしの小さなテレビの中で二塁打を放ち、幸先良く出塁した選手が上気した顔で歓声を浴びているとき、揚げ餃子が置かれた。 大げさにリードしては塁に戻り、揺さぶりをかけていたランナーは、結局長いあいだ滞在した塁…
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当番ノート 第9期
先日、蕾みをつけたまま落ちている花を見た。 今日はひどく晴れた。 ゆっくりと自然に形を成して、あるがまま形を変えていく雲をみて 気づくと僕は口を開けながらそれをたどって。 光が射す時もあれば、影にかかる時もあって。 すごく気持ち良かったんだけど、 気づいたら何もなくなっていたよ。 2013年、今年も無事に夏がやってきた。
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当番ノート 第9期
「ん、」 「久しぶりのお客さんだな。きみはぼくがこわくないのか。」 「いつも笑ってるんだな。ぼくの傘を貸すよ。」 「めずらしいからつつかれるんだ。ぼくとおんなじだ。」 「きみはちっともにげないんだね。行くところがないのかい。」 「ずっとずっとがまんしてきたんだろう。本当はどこかに行きたいのに。でもみんなをこわがらせちゃうもんな。」 「おんなじだ。」 「すごいな、きみは飛べるのか。」 「だいじょうぶ…
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当番ノート 第9期
わたしが今暮らしている家は東京にある。 故郷は九州の大分県にある。 しかし「実家」と聞かれたときに、今のわたしは少し悩んでしまう。 4歳くらいまでは父方の祖父母の家に暮らしていた。 長男である父と結婚した母は、だんだんと祖父母、そしてとても気の強かった曾祖母との同居に耐えきれなくなって、わたしたち家族は隣町へと引っ越した。 そして、わたしが上京する数週間前にずっと5人で住んでいた家から引越しをした…
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当番ノート 第9期
夜空に浮かぶ 月を見上げる ふと 不自然さに 気が付いた 2つあるのだ。 というのは 村上春樹の 「1Q84」だけど たまに 頭上にある 大きな物体が はるかかなたで 浮かんでいるのだ と思うことに不自然さを感じる 空に浮かぶ それを見ると 自分の小ささを感じてしまう。 地球の衛星 どっち付かずのそれは 離れることも近づくことも 出来ないで ある一定の距離を保ったまま ぐるぐるぐるぐ…
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当番ノート 第9期
目を開けると、ハナミズキがこちらを覗き込んでいた。 いつの間に寝ていたのかしら?わたしは体をおこす。 今が何時だか分からない。 ただ、夏の夜特有の湿った空気が体を生温く包み込み、視界にはまるで牛乳みたいな、白い膜が張っていた。 ふと上を見上げれば、群青色にちいちゃな宝石さながらのお星様が散らばる。 私はフローリングの床にねっころがって天井を見つめた。 底がないふかい井戸のようだ。遠い昔のひかりが遠…
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当番ノート 第9期
これは、僕がまだ高校一年だったときの話だ。 つまり今から20年以上前のことになる。 僕は、学園祭の準備委員で一緒になったある女の子に恋をした。 入学してからずっと彼女のことが気になっていたのだと思う。 準備委員になってからは、用事があるわけでもないのに 彼女によく電話をかけたりしていた。 もちろん携帯電話なんて便利なものはない時代だった。 電話をしても本人がでるとは限らない。家族がでるかもという緊…
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当番ノート 第9期
挿画:臼井史(アパートメント) 文章:森田れい時 『不確かな私の確かなゆらぎ』 高速バスは時間通りにターミナルを出た。乗車前に買ったサンドウィッチは、お茶のペットボトルと一緒に、バス・ターミナルの待合室に忘れてきた。鞄から取り出した音楽プレイヤーは、電池が切れていた。 感傷に浸るタイミングも逃して、わたしは、窓の外に過ぎ去る建物や、角度だけ変えていく雲をぼんやりと見ていた。 …
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当番ノート 第9期
バランスをとろうとしてるだけだから。 今あなたは、なにしてる。 他人を否定しなさんな。 他人がどう考えて 何を思ってるかなんて そんなこと、わかんないんだし。 本当のことなんて、誰もわからないんだし。 今人生で、どんな場面に直面していたとしても それをしてたら、それでいいよ。 きっと、バランスをとろうとしてるだけだから。 ただ、ありのままの自分でいれたら、もっといいけどね。 今あなたは、なにしてる…
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当番ノート 第9期
これは、宇宙で迷子になったアルパカの青年の話。 「助かりたかっただけなんだ。」 . . . . . .
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当番ノート 第9期
専門学校を卒業した年だから、あれは2006年。 その頃フリーターをしていたわたしは、夕方からのアルバイトまでの時間をつぶそうと 自由が丘のヴィレッジヴァンガードに行った。 いろんなものが天井近くまで積まれた島をいくつか眺めながら、 ぱっと目についたのが、トイカメラコーナーだった。 本当に写真なんて撮れるのかあやしいような真っ黒くて四角いプラスチックの山を眺め、 その山の下に置かれた入門書のような本…
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当番ノート 第9期
写真を始めたのは大学生になってから。フィルムカメラを貰って暗室に入って展示してたらいつの間にかどっぷりはまってた。途中からギャラリーのワークショップに参加して写真を通しての友達が増えてきて東京という場所で「写真」を中心に生活していた。ような気がする。写真を撮ることは好きだしなにかを作ることも好き。展示だってもちろん楽しい。ただ去年くらいから思い始めたことは僕は写真を撮る行為が一番好きなわけではなく…
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当番ノート 第9期
あなたの目に映る私のこと。 私の中から見える私はたくさんいて あなたの瞳の窓から見える私はせいぜい二つか三つ、 耳から聞こえる私を足したら四つくらいにはなるのかな。 とにかく、私の中にいるたくさんの私のことは、きっと私しか知らない。 それと同じように、あなたの中にいる全員のあなたのことは、きっとあなたしか知らない。 だれかと初めましてを言うとき、 私は必ず、私の中にいる私のうち一人を紹介する。 こ…
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当番ノート 第9期
その時、僕は18年前の夏にいた。 見渡す限りの水田には、青々とした稲穂がびっしりと実り、 整然と並び交わる畦道が、世界を均等に区別していた。 真夏のじりじりと照りつける太陽の光と、うだるような暑さのなかで、 ほんの一瞬だけ、無邪気に口笛を吹くようなそよ風が、僕の頬をなでた。 ずっと向こうまで続く緑色の稲穂が、まるで大きな絨毯のようで、 どこからかやってきた風に吹かれて、軽やかに波打つのが見えた。 …
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当番ノート 第9期
お休みの日。窓越しの空で電車の音がする。踏切の警報機。いくつも並んだ車輪の音が、青い空の岸を大きく曲がり、雲の森へ入るのを、ソファに埋まったまま見ていたら、器の割れる音がした。 「うわ、ごめん」という声に、ソファの背もたれ越しでキッチンを見れば、太郎さんが割れたお皿を警戒しつつ、機嫌を伺うようにこちらを見ている。 私はいいよと伝えるつもりで、「にゃーお」と一言口にした。 「だいじょうぶ、怪我し…
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当番ノート 第9期
ぼくらの生きるこの世界は 捉え方で、見え方で、伝わり方で どうにでもなるし どうにでもなってしまう。 結局ぼくらは、自分が可愛くて仕方がない。 現代をある程度不便なく生きれている人は、 そんな思考が、どこか頭の片隅にあるはずだ。 もしくは、片隅にも置けないほど忙しくしているか。 世間体、立場、環境、在り方、居場所、偏見、生き方、存在することについて。 あらゆるテーマが転がるさなか、 ぼくらは、いつ…
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当番ノート 第9期
やさしい死神は、不器用に人前にあらわれるから 村人たちから嫌われていました。 やさしい死神は、誰も死なせることができないから 死神たちからも嫌われてしまいました。 雨の日、やさしい死神は森の老人の小屋を訪れました。 嘘をついて、迷子の人のふりをして、おじいさんを困らせました。 もうすぐ死ぬ順番の、森のおじいさん。 帰るところがないと告げると おじいさんは一緒に暮らそうと言ってくれました。 ミルクコ…
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当番ノート 第9期
先日、父と妹が東京まで遊びにきてくれた。 こちらの予定も聞かずに勝手に日取りを決めて、それを妹伝いに連絡してきた父に対し、 妹は「予定空けてもらってごめんね。でもおねえちゃんにひさしぶりに会えるの楽しみにしてる」と言ってくれた。 わたしと妹は年が5つ離れている。 わたしが18歳で上京する時、妹はまだ中学生で、 互いのいろんな出来事を相談したり、励まし合ったりするには10代の頃の5つの年の差というの…
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当番ノート 第9期
いつも見ていた風景 けどなにか違う風景 懐かしくもあり どこか他所よそしい そんな風景がそこら中に広がっていた 年二回帰るその場所は 変わらずその場所にあって そして少しずつ換わっていく もちろん自分も換わっていく それに合わせて場所も変わる 場所は姿を変え 僕は僕を変える その変化に巧く合わす事は難しく 知らない場所や物事は増えていく かつて自転車で駆け抜けた通り道 その場所で過去を見付けてみた…
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当番ノート 第9期
あ、どうしよう不安だ 自信がなくなってきた 周りもみんな敵に見える あ、どうしよう 僕ちゃんと誰かに必要とされてる? どうしよう どうしよう! どうしようどうしよう! どうしよう! いいか。よく聞け。 そんなふうに不安だらけになったところで、実のところ世界は何も変わっちゃいない。 君の頭の中から覗く世界が、君の思い込みで急に恐ろしいものになっただけだ。 世の中は君のこといちいち相手するほどヒマじゃ…
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当番ノート 第9期
僕は小学生のとき、朗らかないじめを受けていた。 「朗らか」と表現したのは、いじめる側にもいじめられる側にも 独特の「しめっぽさ」がほとんどなかったからだ。 いじめる人たちにも深い意味はなかっただろうし、僕も笑いながら嫌がらせを受け続けた。 それは「弄り」と言ったほうが正しいかもしれないけれど、 それでも「いじめ」かどうかを判断できるのは、受けた側にしかできないことだと思う。 小学2年のある日のこと…
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当番ノート 第9期
自転車のペダル、漕ぎに漕いでる。 あっつい。ゆるい上り坂、長い。進んでも進んでもいつまでも今日だし。今日が直射日光でずっと当たる。影はアスファルトの上を滑って。ああもう汗が切れない。 並んで走ってるあいつの影は余裕の走行でむかつくわ。わたしの影だけ、おもちゃみたいに上下動して、しかも立ち漕ぎ。チャリか。チャリのせいか。 「身長だな」 うるせ。むかつくわ、あいつ。座高高いくせに。河川敷に出た…
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当番ノート 第9期
時々、人に会いたくなって 時々、誰にも会いたくなくなって 時々、無性にアイスが食べてくなって 時々、自分を責めたくなって 時々、誰かに縋りたくなって 時々、夜の車道を歩きたくなって 時々、全てがわからなくなって 時々、姿を消したくなって 時々、感謝をして 時々、感謝を忘れて 時々、無理矢理TSUTAYAに行って 時々、妄想で泣いて 時々、あらゆる欲求に負け越して 時々、幸せってなんだろうなんてこと…
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当番ノート 第9期
てっぺんにいいものがあるそうだ 誰か行けばとみんなが延々と言ってる のぼってみた 誰のためか みんな見上げてる まだ見てる もう疲れた なんかあった おりてみた いこう あげる まだみんな見上げてる . . . . . .
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当番ノート 第9期
ロモちゃん。オス。 わたしの可愛い同居猫。 ロモちゃんは、わたしと恋人が付き合う直前に恋人が飼い始めた猫。 ほんとうの名前はロモなのだけど、しかもオスなのだけど、恋人もわたしもロモ「ちゃん」と呼ぶ。 人生には予期せぬことが起こるのは常だけど、今までの人生で動物と過ごしたことのないわたしにとっては、猫と暮らすということもまた、まったく予期していなかった出来事のひとつだった。 ロモちゃんが恋人の家にや…
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当番ノート 第9期
自分の 好きなことしか興味なくて よく 文字の中の世界に籠ってる たまに 顔を上げて足を踏み込むと 自分が 少し人とは違うと思い込み 壁作っては よく壊される そんな時は お酒を飲んで 強制的に脳内へと現実逃避 イヤホンで 耳を塞いで 好きな音楽の歌詞を 心に染み込ませては いつの間にか 夢の中へと帰ってゆきます そしてまた今日が始まる。 自分の好きなことしか興味がない日々。 たまに…
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当番ノート 第9期
おかあさん、 お母さん。 お腹が痛いとき、ゆっくりとおへそのあたりをさすってくれる手。 お母さんを思い浮かべて一番に出てくるのはそんな記憶。 お母さん。 わたしのお母さん。 わたしはよくお腹を壊す子だった。 でも、どんなに痛くても、お母さんがぽんとおへそをひと撫で、それだけでたちまち痛みは飛んでいった。 その手はいつも台所の洗剤のにおいがして。幼いわたしがじゃれつくたびに、お皿を洗い流すあの清潔な…
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当番ノート 第9期
僕が小学校にあがる頃、家族と一緒に暮らしていた小さな集落にある出来事がおこった。 それは、新たな高速道路の建設計画で、集落を縦断する大規模なものだった。 しかも、僕たちの家はちょうどそのルート上にあったのだ。 やむなく、僕たち家族は立ち退きを迫られた。 隣近所、といっても近くて数百メートルは離れてるような閑散としたところだったので、 その集落で道路建設のために立ち退たいのは結局我が家を含め数軒…
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当番ノート 第9期
玄関のドアを押し開き、嵐が通り過ぎたあとの、ピカピカに磨かれた空気の中へ出た。 私は白いシャツを選び、カメラを入れたポーチを提げているだけで、雲を羽織るように身軽なスタイルだ。 通りを抜けるひんやりとした風が、私とすれ違うとき、ちょっと襟に触れ、袖を引いてからいった。 角にある清水屋さんの前に差し掛かると、今し方揚がったばかりのコロッケが銀色のトレーに並び、「野菜コロッケ 四十五円」という…
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当番ノート 第9期
あたかも、ここに或るかのように、ここに居ること。 ほどけそうで成り立つ糸のように。 真っ白な嘘をついて、 僕そのものだった、あの頃のように。 どんなに時を運んでも、どんなに時が揺らんでも、 それらはあたかも、 ここに或るかのように、ここに居てしまうのです。
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当番ノート 第9期
. 君が落っこちてしまった 僕も落ちたら君はぺしゃんこになってしまう まってて 木の実が育つまで 僕がたくさんお話をしよう 夜になったらライトをつけよう 君のすきなお花をあげる 君がさみしくないように 毎日お話をしよう . . . . 君がもどってきてもさみしくない星にしておくよ .
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当番ノート 第9期
日々の中で、わたしたちは些細なことから、その先を大きく変えることまで、 いくつもの選択を繰り返しながら生きている。 それはどちらかではないときもあるし、 ひとつしかない場合もある。 ひとつしか訪れないときはきっと、そうなる前に、その方向へのなんらかの選択をしているのだろう。 そうしてひとりひとりに訪れた選択の中には、 運命や偶然や必然などと呼ばれるような、縁が降ってくる。 その縁は他者と他者との選…
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当番ノート 第9期
おはよう。 こんにちは。 こんばんは。 はじめまして。 お久しぶりです。 お元気ですか? 僕は元気です。 あなたが どんな人で どんな時間に どんな気持ちで この文章を 読んでくれているのか 僕にはわからないから すべての人に向けて まずは ご挨拶。 春の終わりにひょんな出会いから憧れていたこのアパートメントに入居することになり、準備も2週間足らずとドタバ…
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当番ノート 第9期
これは、わたしの色。 わたしを、あなたを、色にするなら何色だろ。 色は言葉よりもっと、人の、深くやわらかな腹の底を知ってる。 これがわたし。初めまして。まだ無色透明のあなたへ。 わたしは筆を握ってた。絵の具にさわった一番古いイメージ。 記憶の切れ端、幼稚園で、ちいちゃい手でおえかき道具を散らばした。 うすだいだいのクレヨンがぴりりと青い水彩をはじく。 真っ青な水、泳ぐ人、きみどりの浮きわ。 ちいさ…
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当番ノート 第9期
その瞬間に過去になり、今の姿を閉じ込めたまま、未来にのこっていく。 僕は、写真の持つそんな力にとても惹かれる。 写真を通すことで、時間を自由に行き来することができるからだ。 僕が思い出せる最も古い記憶は、30年以上前のことになる。 あの時、どんなふうに光が射していたか、どんな音が聞こえたか、 どんな風が吹いて、どんな匂いがしていたか、今でも鮮明に思い出すことができる。 これは僕が幼稚園だった頃の話…
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当番ノート 第9期
一番の深夜というものがあるなら、きっと、この時間のこと。エレベーターは、扉を閉めると音を立てなくなった。照明は落ちていて、私は青ざめた色の廊下を歩いていく。 マンションのドアを後ろ手に閉めると、誰もいない部屋が、暗い青で満たされてそこにある。───この光は、月の横顔でもあるんだろうかね───返事はなく、出窓から月光が流れ込んでいる。水のように。 水のようだ。水のように、青暗い光でいっぱいの水…
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当番ノート 第9期
僕らは、単にそれをしている。 僕らは、単にそれをしている。 いろいろなことに気がついて いろいろなことを抱いても 僕らは、単にそれをしているだけなのです。
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当番ノート 第9期
ぶらさがっていた。 ぶらさがって暮らしていた。 ずっとこのままだと思った。 あばれたらヒモはちぎれた。 いこう。 海を見にいこう。 みんなで海へ 海へいくんだ。 とおくとおく 僕らのせいで雨が降っても 僕らの海だ。 小さくてもちっぽけでも、僕らの海はきれいだった。 かなしくてもかなしくても、僕らの世界はうつくしかった。 六月がはじまる。