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2F/当番ノート

カクテルとチームワーク

当番ノート 第16期

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「個性を殺しちゃいけない、うまく混ざり合うように」

カクテルをつくるうえで忘れてはいけないこと。この教えは、人間関係にも通じるものがある。とぼくは思う。

ちょっと重めの扉をくぐって、カウンター席に座る。その視線の先には、形も大きさも異なる、たくさんのボトルが並ぶ棚(バック・バー)が映り込んでくる。暗がりのバーでは、ぼんやりした灯りがボトルを照らしてきらびやかだ。そんなボトルを眺めるたびに、人間みたいだよなぁ、とぼくは感心してしまう。人間ひとりひとりに個性があるように、ボトルにも一本一本にも個性がある。

お酒は大きく分ければ、ビールやワインのような「蒸留酒」に、ジンやウィスキーのような「蒸留酒」、そしてベルモットやリキュールのような「混成酒」の3つ。ウィスキーひとつとって見ても、一本一本、国も違えばつくれらた蒸留所だって違う。土地質や原料や製法に違えば、香りや味わい、そして色みにも当然違いが出てくる。さらには“熟成”の概念も入ってくる。あとは、液体が詰められるボトルの形、そしてラベルだって違う。一本一本同じように見えて、全然違う個性がある。

今、お酒の話を一瞬ギュッとしたんだけど、お酒の話をしたいわけじゃない。そうやって、生まれも、育ちも、見た目も違うんだけど、その個性がとてもいい。好きだ。カクテルをつくるときには、この個性を殺さないようにうまく混ぜ合わせる。お酒の香りを活かしたいなら香りを、苦みを活かしたいなら苦みを、一本一本の持ち味を活かすことをまず考える。3つのお酒を混ぜるなら、3つのボトルが持つ個性がすべてうまく活きるように。お互いが味わいや香りや色味を補完し合えるように。

そう、ぼくがカクテルから学んだことは「活かすこと」。無いものを変に求めたり、押しつけたりするのではなく、そのボトルの、その人の持ち味を活かすこと。一時期、バーテンダーの仕事を離れて外資系ITベンチャーで勤めたことがあった。そこでぼくはこう思った。だれかと仕事をするには、チームで動くには、お互いの持ち味(武器)を活かし合えたほうがいい。自分ひとりの力だけじゃなくて、カクテルのように“うまく”個性が混ざり合うようなチームワークはいいなと。うまくいってない組織は人がうまく混ざりあっていない、だれかの持ち味を殺している。実際、そんな光景をぼくは目にしてきた。

みんな同じような人で、同じような思考で、同じようなことができる。一般的な社会人は「平均」が求められているのだろうか。とがった個性はまるめなさい、と言うように。だけど、そんな同じような人たちが混ざり合って一緒に仕事をして、そこで行なわれるものづくりへの期待はうすい。だってね、カクテルで言えば、同じような酒を混ぜても互いが個性を殺し合うだけだから。「我こそは」と競争ばかりのなかで互いに邪魔しあってちゃ、いい味わいは生まれにくい。

だから、チームづくりを任されている人は、いいバーテンダーであってほしいと思う。レシピだけをカクテルブックで確認するんじゃなくて、自分の目と鼻と舌を使ってボトル一本一本の個性を見極めて、そのうえでカクテルづくりができるような。仕事以外の人付き合いだって、同じだ。まずは目の前の人をちゃんと見てあげなくちゃ。それから一緒につくりあげていく。

お酒の、人の、「個性」について考える時間が増えるから、ぼくはカクテルと関わりたいのだと思う。個性を活かし合えるような関係性がいろんなところで生まれたらいいし、自分のなにかが活きることでだれかを手伝えたらいい。にしても、自分の個性ってのはいつになっても中々つかめないもんだよなぁ。日々、手さぐりだ。

大見謝 将伍

大見謝 将伍

バーテンダーだけど、執筆したり、企画したり。

「coqktail」屋号で、東京・沖縄を拠点に、日本各地を動きまわりながら、地域資源を活かした、カクテル・場・メディアづくりをやってます。基本的な大テーマは「くらし方・はたらき方」。

好きなカクテルは「Negroni」「Suze Tonic」「Gin Tonic」。

超真面目ななまけもの。俗っぽいのが好きで、妖怪も好きです。

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