マルはいつも、呼ぶ前にそばに来てくれます。
目が合うか気配を察するかして、すぐに来ます。
そして、遊んでほしい時はボールをくわえており、おやつがほしい時は手をなめます。
私はとりあえず頭をなでてあげます。
呼ぶ前に来るので、マルに「マル」と呼ぶことがあまりありません。
家族との会話や友人にマルについて話す場合に「マル」と口にすることがほとんどです。
その時本物のマルはたいていその場にいません。
本物のマルはガレージの隣の草むら辺りにいつもいます。
そこへ行けば呼ばなくてもマルはいつでもそばに来てくれるのです。
5年前の春、家に来てから今もずっと同じ場所にいます。
次の春が来るとマルは6歳になります。
6歳になっても7歳になっても、できるだけ長い間ここにいてほしいです。
春だねと言えば名前を呼ばれたと思った犬が近寄ってくる 服部真里子『行け広野へと』