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2F/当番ノート

第六回 アストル・ピアソラ!!

当番ノート 第18期

皆さんこんばんは。バンドネオン奏者の早川純です。
前回、元旦の投稿でしたが バンドネオンの構造のお話をかなりマキでお伝えしましたね。
そして代わりに持ってきたのが、僕の数年前のCMの宣伝だったという。
「そんな昔の話しをいつまでも持ち出してるんじゃないよ、まったく」
なんて冷たい視線を送らないで下さいね。
今回の話しに繋げる伏線だったんですよ、実は。

あんな、ちょっとしたCMの音楽からテレビドラマ、映画の音楽まで、
日本ではここ数年、巷にバンドネオンの音が溢れているわけです。
そして、そんな現代の日本を取り巻くタンゴ音楽事情にも多大な影響を与えたであろう音楽家、
それがズバリ、アストル・ピアソラです。

もう17年も前の事、
サントリーのウイスキーのテレビCMで、ある曲が流れました。
クラシックのチェリストとして有名なヨーヨー・マが、なんとバンドネオン(ネストル・マルコーニ)と共演して
ある曲を演奏したのです。
もうお分かりの方も多いことでしょう。
アストル・ピアソラが作曲した『リベルタンゴ』です。
まだ分からない、という方の為に
当時のCM動画…は見つからなかったので、そのアレンジのLIVE演奏動画がコチラ↓

どうです?思い出しました?
この、あまりにもインパクトのある音楽。
CMの間わずか15秒で、あっという間に人々の心を掴み強い印象を与えました。
若い人は知らない人も居たかもしれませんが、当時は本当に誰もが

「カッケー(死語)!イカす(死語)じゃん(死語?)、この曲!」 ※17年前は今となっては死語も多い

と思ったものです。
…誰もが?少なくとも僕は。

同じ頃、クラシックやジャズなど様々なジャンルの音楽家がピアソラの作品を演奏し、
日本ではバンドネオン奏者の小松亮太氏(僕の師匠ですね)がピアソラゆかりのメンバー達とレコーディングをして
鮮烈なデビューを飾りました。

その後、自分らの世代の人間が、何人もこの楽器に魅せられ演奏家を志しましたが
今も演奏家として活動しているそんな連中が、古くさーいタンゴをたまたま耳にして
バンドネオンに一生捧げようと思ったと思いますか?
否、恐らく(自分も含めた)彼らの多くが、ピアソラの音楽を聴いてバンドネオンをやりたいと思ったのです。

たまたま初めに接したタンゴが、第二回の記事で載せたような
変なオジサンがドヤ顔で指揮する、奇妙なタンゴオーケストラの映像だったとしたら
なんか凄いなーと思いつつも自らやろうとまでは思わなかったでしょう。
ピアソラの、「タンゴっぽくないカッコよさ」が魅力だったわけです。

今、ピアソラはタンゴっぽくないという事を言いましたが、
彼はタンゴの革命家とか、破壊者と表現される事もあります。
熱狂的なピアソラ・ファンが存在すると同時に、「ピアソラはタンゴじゃない!」とのたまう、
これまた熱狂的なアンチ・ピアソラのタンゴ愛好家も沢山存在します。

ピアソラは、それまで脈々と受け継がれ、発展を遂げてきたアルゼンチンタンゴの様式をぶっ壊して、オレ流の音楽にして、
カッコいい(似たような…本当に似たような!)曲を沢山書きました。
その音楽は「タンゴ」というジャンルを超えて、様々な音楽家に影響を与えたわけです。
「タンゴの破壊者」とまで言われたピアソラが、新しいタンゴの音楽家や聴衆を生み出してきた現実を思うと、
皮肉というか、なんかミョーな気もしますが、現実とは意外とそんなものかもしれません。

「それじゃ、伝統的なタンゴとピアソラの音楽って、何が違うのよ?」
「ピアソラの音楽ってそれじゃ、結局タンゴではないってこと?」

と思われた方。
簡単にご説明出来る事じゃないんですが
僕自身はピアソラの音楽の底にタンゴイズムが息づいていると感じています。
ピアソラの音楽は、アドリブの要素があって、その演奏とも相まって、
とてもエキサイティングで分かりやすいカッコよさがあります。
古典的なタンゴ(これもほんとは一括りにしにくいんですが…)には、
様式美や粋(イキ)、内に秘めたエネルギーを感じますが、ピアソラはそれをもっと個人的な世界に昇華して、
もっと目にも耳にも「視える」形にしたわけですね。

結果として、現在の日本(或いは世界)を取り巻くタンゴ音楽事情は
古典的なタンゴから、ピアソラの影響を受けたモダンタンゴまで混在しているわけです。
…なんだか真面目に説明しようとしたのに、説明し切れていない、歯がゆい感じもしますが
本日の主な内容としてはそんなところで。

〆はズバリ宣伝です、はい。
臆面無く宣伝させて頂きますとも!
ちょっと前から、さりげなくプロフィール欄で情報を載せていたのですが
2月25日に、一時帰国してLIVEするんです。
ピアソラの活動していたユニットと同じく、バンドネオン、バイオリン、ギター、ピアノ、コントラバスの五重奏編成。
僕やメンバーの作曲した、モダンなスタイルのオリジナル・タンゴや、
ピアソラのレパートリを中心に演奏しているユニットです。その名もTango-jack!!
オリジナルの作品も、かなりピアソラの影響はあると思いますが
決してありがちな「ピアソラ・コピー」的な音楽ではなく、ジャズや映画音楽、現代音楽の要素を取り入れつつも
知識やら理屈やら抜きに「カッコいい!」と楽しめる音楽を目指しております。

「LIVEとか、行った事無いし、なんか抵抗があるわ。。」

という方、ご安心下さい!
出演するお店はとてもお洒落で落ち着いた空間で、ご飯やお酒をたしなみつつゆったり聴いて頂けます。
メンバーは凄腕揃いですので、決して後悔はさせませんぜ。
この「アパートメント」では、日常のしょーもない事から音楽のお話しまで
色々お伝えしてきましたが(まだ終わってませんがw)、本当の事を言うと
音楽の事はウンチク垂れるより、一度生の演奏を聴きに来てほしいのです。切実に。
CDや、iTunesから、近頃はハイレゾなんて言う高音質オーディオ装置まであるようですが、
確実にLIVEは別物です。
そこんとこ宜しくお伝えしたところで、また来週〜!

Tango-jack LIVE
2月25日(水)open18:30, start19:30 2stage
神楽坂 The Glee http://theglee.jp/live/1212/
予約3800円、当日4300円
Bn.早川純 Vn.吉田篤 Pf.三枝伸太郎 Gt.田中庸介 Cb.西嶋徹

街角

早川 純

早川 純

バンドネオン奏者。作・編曲家。
新しいタンゴを創出するユニットTango-jackと、古典タンゴの再評価を目指すユニットTango Azulを主宰。菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールのメンバー。
現在日本とフランスを行き来しつつ、バンドネオンの新たな可能性を模索している。
2月25日(水)、一時帰国のタイミングで、主宰するTango-jackというバンドのライブを予定している。聴きに来るべし。

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