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2F/当番ノート

THE ASHIO SYMPHONY

当番ノート 第18期

良い天気の日曜日、こんにちは。
あと残すところ2回となったアパートメントさんでの連載では、
コミュニケーションを生む作家、と名乗っていくようになったターニングポイントというか、
自分にとってとてもだいじな経験となったプロジェクトをご紹介させていただければと思っています。

そのうちのひとつが、2014年の11月に栃木県日光市足尾町で行った
「The Ashio Symphony ザ・足尾シンフォニー」です。
これは何かというとイギリスから帰国後参加した、WATARASE Art Project(以下WAP http://watarase-art-project.tumblr.com/ )のアーティスト・イン・レジデンスプログラム:
美術作家が町に滞在しながら制作をする企画での取り組みで、
町の住民の方々と一緒に音楽会をつくる、という内容のコミュニティープロジェクトです。

約二ヶ月の足尾町滞在、それはそれは濃いものでした。
初めて知ってくださる方に上手く伝えられるか心配ですが、
つらつらとかかせてもらうので、ふわふわと読んでいただけたら幸いです。

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2014年10月1日、ご縁あってこの栃木県日光市足尾町にやってきました。
今後コミュニケーションアートという分野でのプロフェッショナルになりたいという想いを抱え帰国直後に飛び込んだ、第一発目のプロジェクト。
コミュニケーションアートというのはざっくり言うと、「みんなで何か一緒に創る」ということです。自分一人では決して成り立たず、協同作業を通して完成させるものづくり。
とは言っても知らない地に乗り込み、住民の方々に一緒に何かやってもらうということが一ヶ月半の限られた時間で果たしてうまくいくのか、正直不安なところもありました。

上記のとおり、足尾町に個人的なつながりは何もありませんでした。
足尾という町への認識は「足尾銅山」の名前でちらりと習ったぞという位のものでしたが、WAPさんのウェブサイトで知った、シンブンシャという名前で活動をする町の小中学生の子供たちの活き活きとした表情を見て、
こんなに楽しそうに遊ぶ子供達がいるなら良い町に決まってる。この子達と一緒にものづくりがしたいと思いました。

今年のWAPの芸術祭の名前は旧足尾高校の文化祭である「あしお碧水祭」ということから、当初、
この旧足尾高校の校歌を子供達が合唱するというのはどうかなあと考えていました。
ですがいざ町の人々に聞いてみると、実際はあまり歌う機会は多くなく卒業生にもそこまで親しまれていないということ。どうしたもんかなあとうなっていたところ、音楽のことならなんでも知っている人がいるよと教えてもらい押し掛けたのが、この先とんでもなく助けていただくことになるM田さんとの最初の出会いであり、町の名曲「足尾の四季」を知る瞬間です。
自動車整備会社の社長さんでありながらコーラスの活動もずっと続けていらっしゃり、更には色々な場所で音響を担ってきたM田さん。縁の下の力持ちである役割がいかに大事かということ、場所を創ることの難しさ、楽しさ。たくさんたくさんの大事なことを教えていただきました。

この出会いから始まり、調査をしていく中で特に感銘を受けたことがいくつか。
まず民謡サークルさんや和太鼓チームと、町には音楽を愛している人がたくさんいること。
そして正午に町に響くチャイムでも使われている「足尾の四季」が、住民であれば子供からお年寄りの方まで誰でも歌える、古くから足尾を支えてきた曲だと知ったこと。
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そして町についてのそれぞれの考え方です。
今回この「超過疎地」として知れ渡る足尾町で行うプロジェクトということへの心構えが難しいなあ、と考えていました。
部外者があれこれと、例えば可愛そうな町だとか特殊な所だとか決めつけて名前をつけたり表現するのはいかがなものだ、と葛藤があったというのでしょうか。
そんな中色々な方とお話するうちに耳に入ってきた、「何もないけど良いところなんだよ」「公害の原点なんて呼ばれる筋合いはない」「私たちにとっては、ふつうの自分の町」。
誰しもが持つ、故郷への愛情、日々の生活への、そして好きなことに対する愛情。こういうものの大切さを見せてもらった感じがしました。

この愛情を集約する機会をつくりたい、と思いました。
何か特殊なことをやるんじゃなくて、なるべく自然な、多くの人が関われる方法がいい。
そうした時に音楽という、説明無しで誰でも楽しめるツールはとてもよくって。
そうだ、音楽会を創ろう。音楽好きなら誰が出てもオッケー、できるだけたくさんの人に出演してもらって、見にきてもらって、最後にみんなで足尾の四季を歌う。
その場所だからできる装飾と一緒に、人が集まって笑える空間を生み出そう。

そうまとまったら後は考えることはシンプルでした。出演者集め、会場装飾づくり、告知の3つです。
今回会場に使用させていただけることになったのが足尾小学校の体育館。
教頭先生にはじめにお話してから、校長先生、用務員さん、更には足尾中学校の校長教頭先生、音楽教員の先生ともお話することができ、そこから町のドンである住職さん、警察官さん、市役所の方々と、どんどんどんとつながっていき、出演から機材の提供まで、みなさんからほんとうに多大なるご協力をいただきました。

制作物についてはまず、趣味で草木染めをしているM島さんに出会い、
優しい風合いの色と模様がとても素敵な布を見てピーンときました。町で取った草木で染まった布に足尾の四季の楽譜が描かれて、町のあちこちで風になびいていたら。
それを当日の音楽会の告知にしよう!
こうして人生初の草木染めに挑戦し、WAP主催者さんのサポートのおかげで無事実行。
子供達も一緒にやってくれて、とっても上手く染まりました。
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この上にシルクスクリーンの技法を使って楽譜を印刷。
こちらも全くの初心者の私でしたが、子供たちの保護者代表としてWAPに関わってくださっているO原さん(あらゆる面でケアしてくれ、困っていたら現れるスーパーマンとはこの方のこと)の前職がシルクスクリーン職人だったことが発覚。製版道具を作ってくれ、完璧な段取りで教えてくださいました。
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足尾の四季の楽譜が完成し町のあちらこちらに置いていただき、
それらを使ったオープニングムービーを作成。滞在作家のO田くんによる素晴らしい撮影で、色んな人にタイトルコールをしてもらいました。
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会場の装飾は、初めて体育館を見せてもらった瞬間に浮かんだ絵がそのまま形になりました。
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てっぺんから下げたたくさんの草木染めの布、足字銭を象ったカラフルモビール、段ボールでつくるタイトルや足尾の山々、動物たち。
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体育館を埋める量を一人で取り組んではとても間に合いませんでしたが、結果シンブンシャのみんな、小中学生、滞在作家さんも含むほんとうにほんとうにたくさんの人が一緒につくってくれました。
それも、いやいやではなく、周りもつられて笑っちゃうくらい楽しそうに。

今回ある意味一番慎重にいかなきゃと思っていたのが、子供達との関わり方でした。
こっちの都合で何か無理矢理やらせるとか「使う」感じにだけはなりたくないと思っていて、なるべくシンプルに自然に、楽しいことを一緒にやってもらえたらなあと思いながらも、子供が心を開いているかなんて一目瞭然なので、正直最初はビクビクしていました。
だけれどみんなみんな本当に素敵な子で、仲良くなりたいなあと純粋に思えました。
結果、きっと、仲良くなれた。
たくさんの子と、友達になれたと思えるのが、本当に本当にうれしいです。

前日の体育館での設置も、バスケットゴールから布を吊るす大掛かりな作業や糸が絡まると厄介な足字銭モビールや、本当にみんなのおかげであっという間に完成しました。
駆け回ったりはしゃぎながら飾り付けしてくれてる様子をみた時は、涙をこらえるのに必死でした。
他にもたくさん、本当にみんな、かわいいです。さいごにもらった、手紙やお別れの涙。
こんなに幸せな報酬はあるんだろうかと思いました。

と過程のことばかり書いてしまいましたが、肝心の音楽会本番のことは、あえて自分で特筆することもないというか。
一言、本当に本当にたくさんの人のおかげで、最高の形で終わることができました。
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もちろん反省点は多々あります。だけれど、当初目指した「みんなでつくる音楽会」、これが今回実現できたと思えることが最高にうれしいです。

音響のM田さん、総勢約70名の出演者の方々、受付や裏方で一生懸命動いてくれたシンブンシャのみんな、駐車場でずっと誘導してくれていたO原さん、全体サポートしてくれたWAP主催者さん、他手伝ってくれた方、そして見に来てくれた方。
他、いつも差し入れをくれたり気にかけてくれた町の方々、同作家のみなさん。書き出したら本当にキリがないです。あったかい方々に会えて、幸せです。今回足尾に来る全てのきっかけをつくってくれたWAPさんに、心より感謝申し上げます。

コミュニケーションとは何なんだろうといつも考えますが、今回の滞在を通して、うれしいこと悲しいこと感動したこと、そういった目には見えない、理屈じゃないけれどすごく大切な感情をわかちあえることなのかな、と思いました。
そんな関係性が生まれるきっかけを創れたら、そんなに幸せなことはないなあ。
今回足尾で得たことを糧に、長い道のりを一生懸命に進んでいきたいと思います。

前述したようにこの町にはこの町だけの事情があって、良いところも問題点も、住んでいる人にしかわからない難しいところもたくさんあるんだと思います。
でもここの人たちが私は大好きになって、足尾が大好きになりました。ここは最高の町です。

ここに来れてよかった。
関わってくださったみなさん、
ほんとうにほんとうに、ありがとうございました。
これがさよならじゃなくって、始まりになりますように。

ツヅク!

(詳しい内容や画像はhttp://newmor.net/cn72/cn78/pg594.html でご覧になることができます。掲載している写真の著作権はそれぞれの権利者に帰属します。)

YORIKO

YORIKO

色々な場所で色々な人々と一緒にものづくりをしています。
つくる×人々×生活から生まれる喜びから抜け出せません。

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