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2F/当番ノート

tab el 生命を巡る食の旅 番外編⑧「和を食べる」

当番ノート 第18期

初めてインドに来ました。
食あたりになるとか、嘘をつかれるとか、散々な経験談をたくさん聞いていたのですが、
比較的治安の良い、西洋色も残る南インドだからか、
ちょっとルーズだけど愛情にあふれる現地の方々に助けられつつ、平和に過ごしています。

インドでは非常に多様な人が住み、それぞれの宗教も違う。
人口の30〜40%ほどがベジタリアンであるが故に、
スーパーマーケットで売られているものも、レストランも、ベジマークやノンベジマークがしっかりと表記されています。

アーユルヴェーダの治療施設に3日間ステイした時は、
ずっと肉、魚、卵などの動物性の食材が入っていない食事でした。
でも、豆や果物の旨味がぎゅっと詰まり、スパイスで深みを出したお料理は、
普段のお料理と遜色なく、ベジタリアン食の印象ががらっと変わりました。
すごく美味しくて、滋味深くて、身体が喜びを感じている。
ずっと食べ続けたい。

良質の植物性タンパク質を山盛りの豆から摂り、
豆とたっぷりの野菜を使っているので食物繊維もビタミンもたっぷり入っています。
揚げ物はお昼にほんのちょっと出るくらい。
塩は薄めで、食材やスパイスの味を主体としています。

基本的に朝は少し運動してからあっさりしたものを。
昼は一番しっかり、夜は昼より少なく食べます。

治療を考えると1〜2週間は滞在しないといけないのですが、
3日あれば食事による身体の変化は出て来る。
すぐ分かるのは、便のにおいが良くなります。
つまり、腸内環境が良くなっている。
少しお肉を食べると明らかに臭くなるので、宗教によって「お肉を食べると穢れる」というのは結構体感できる事実なんだと思いました。

そして身体も軽い。
それは滞っていた余分なものが無くなったと、いうこと。
普段、私たちは消化不良のものが少し体内に残ったりしているのですが、
きちんと消化しきるように消化のしやすいものを選んだり、食べる量を控えたり…
自分の消化力(アグニ)というものをインドでは健康の秘訣として大事に向き合って食べます。

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この国は本当に清濁合わせ飲むような包容力というか、生命力の強さというか…
内側からエネルギーがあふれています。
23歳の時、はじめてカンボジアを訪れてスラムに果樹を植樹したり、井戸を掘ったりした時を思い出します。
私は勝手な印象だけで、スラムの人たちはお金が物がなくて不自由しているのだと思っていました。
少しでも力になれれば…と、ボランティアツアーに参加したのですが…

結果、スラムの子供たちはすっごく生き生きしていて、
ゲームがなくても家族が居て、幸せいっぱいキラキラしていて…
日本より豊かさを感じている自分がいました。

資本と幸せは必ずしも相関しない。
持続可能な村を作る挑戦をする知り合いに「お金の呪い」の話を聞いたことがありますが、
お金があることで差や欲ができたり、稼がなければ生きていけない気がしたり…
うまく使えれば便利なものですが、実体を伴わないお金のやりとりも増え、見えない巨大なモンスターのように膨らんでいます。

先進国と呼ばれる国々の資本主義を押し付けてはいけない。
お互いに尊重しながら、干渉しすぎず、ただ共に生きる関係をピュアに持つ道を持っていたい。

そして私たちは真の民主主義を導き出さねばならない。
民主主義の話し合いは非常に時間がかかるし、無難な意見にまとまりがちです。

「民主主義の味」という興味深いワークショップをシェパニーズのシェフが行なっています。
集まったグループ数名で、とにかく何時間も話し合いながら全員が納得する料理を考え、作るというものです。
(その時は4時間議論し、結局オーソドックスなトマトスパゲティにまとまったようです)

Yes / Noの回答に偏差値教育で慣れさせられた私たちですが、
一向に個々の民意が反映されてる実感も持ちにくい状況ですが、
山積みの問題がある変化の時期を迎えていることもあり、改めて暮らしも、食卓も、
みんなで考え、話し合って、滞りの少ない社会にしていきたいものです。

それは小さく、しっかりと信頼で紡がれたコミュニティからきっと始まる。

東洋が得意とする、多様さの中から生まれる共存と融合。
あんぱんや、明太子スパゲティなど、お料理の端々にも現れる「和」の在り方を、
これからも料理していこう。

そして有限の食事回数のうちの1回である、今夜のお食事も、
みなさんにとって幸せで、慈しみ深い、つながる、美味しいものでありますようにと祈っています。

Lyie Nitta

Lyie Nitta

食卓研究家。
管理栄養士、中医国際薬膳調理師という新古東西の視点から食をとらえ、料理とその周りにある関係や文化も一緒に提案する。

レシピ開発やスタイリング、ライティングも手がけ、薬膳や調理•ローカルの商品開発レクチャーも行なう。

2014年、国産の植物をもっと活用できないかと国内リサーチをはじめ、薬草茶のブランド「tabel(タベル)」を設立。
同年12月に、ローカルの現在や薬草図鑑のウェブサイトも公開し、薬草のある暮らしや文化をつむぐコミュニティを育んでいる。

http://tab-el.com/

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