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ぼくはよく筆とペンを使って絵を描きます。
人によっていろんな画材を使っているでしょうが、
マチエールだとかビジュアル的な違い以外にも、その画材の持っている物語があって
絵を見るときは無意識にその物語を読み取っているような気がします。
油絵の具だったら、西洋画が辿って来た格式高い歴史や人々を。
鉛筆だったら、スケッチや日常の中で捉える瞬間とかきづきを。
ペンだったら、仕事の中での書類やサイン、誰かに綴る手紙など机の前に向き合う静かな時間を。
ペンはペンでも、サインペンやミリペンだったら、思い起こすのは遠い過去ではなくて
幼い日の落書きやストリート感もある。
よく描かれるモチーフでも、画材の持っている物語の中では
また違った距離感になるのかもしれません。
たとえばチャップリンを描いたとしたら、
油絵のチャップリンは肖像画の歴史の中に生きるチャップリンに。
鉛筆のチャップリンはノートに添えられた日記の挿絵のように。
サインペンで描かれるチャップリンは、(あるいは彼を知らない)若者が遠い過去の人物に想いを馳せたドローイングに見えてくる。
新しいものを油絵で描くのも楽しいかもしれない。
コンビニの店員に油絵の物語を添えたら、見えてこなかった誇り高い瞬間が見えてくる。