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2F/当番ノート

音楽秘宝Vol.1

当番ノート 第24期

先日、作曲家の友人とコライトしていた際にふと言われた「随分いろんな音楽本読むんですねぇ」の一言。学生の頃から読書自体は結構好きなほうでいまでも比較的様々なジャンルの本を読むことが多いので、特別に自覚は無かったのですが確かに言われてみれば結果として結構音楽本が多いかもっ。

というわけで今回はそんな数ある音楽本の中から、読み物として(ディスクレビューなどのカタログ的なものを除いて)これは!と思う面白かった本を取り上げてゆこうと思います。技術的な内容に言及する部分も一部ありますが、基本的に重要なのは作曲のなかで行われるデザイン的判断や姿勢についての部分なので音楽に興味のない方でも楽しめると思います。

今回ご紹介したいのはダニエル・ラノワ / ソウル・マイニングです。ダニエル・ラノワについて簡単に説明をしておきましょう。カナダ出身の音楽家でこれまでにプロデューサーとしてU2やボブ・ディラン、ピーター・ガブリエルなどのプロデュースを手掛け、彼自身、素晴らしいシンガー・ソングライターでもあるマルチな才能の持ち主です。特筆すべきところはやはりなんといっても改造された自宅スタジオで地元バンドのレコーディングやプロデュースビジネスを行っているところを当時NYに住んでいたブライアン・イーノが発掘し、ポストロックや音響系という言葉が生まれる遥か昔、キャリアの最初期からレコーディングや編集といったプリ&ポストプロダクションを作曲の重要な一部と位置付けたデザインワークを行っていたところです。(こういう姿勢はイーノにも共通のものとしてみられます。)

共同プロデュースでU2 / The Joshua Treeを手掛けたり、アポロ計画のドキュメンタリー映画のために制作された『Apollo』(映画『トレインスポッティング』でも使用されてましたね。)でブライアン・イーノとコラボレーションしたりと兄貴のように慕っているようです。

こういうタイプの音楽家に共通するのは既存の理論や手法をまず疑い、実験を重ねながら独自の方法論なり理論を構築することで新しい音楽を生み出そうとする姿勢です。慣習や決まりごとに対して無自覚に従うのではなく、自分の頭できちんと考えて行動する。将来的にどんな役に立つのかわからないけれどもとにかくトライ&エラーの実験を繰り返し、いつか使うときがくるだろうと信じてアイディアとスキルを追及する冒険心に満ち溢れた姿勢は前回、前々回とご紹介してきた電子音楽家達と大きく共通する部分でもあります。ラノワの場合にはビジネスとは関係のないところで積極的に自分の時間をそういった実験へと費やし、その経験に基づいた独自の理論を構築してからプロデュースを通じてミュージック・ビジネスへと還元してゆくというかなり有効なフローが生まれています。また、ラノワはそのような実験を通じて構築される自身の理論を裏付けるために、レコーディングや作曲の過程を丹念に(まるで裁判記録や捜査調書並のディティールで)記録してゆきます。(ちなみにイーノやボノ(U2)も記録マニアらしい)こういった誰に見せるわけでもない業務日誌のようなものをを毎日淡々と記録することで長丁場にわたる全体の作業を整理し、正しい方向へと導くための心理的な操縦計画の指針としていたようです。

ファレル・ウィリアムスにスタジオでマジックを生むための心得を説くラノワ

もうひとつイーノと似ている部分としてそういった経験から独自のルールのようなものを作り出してゆくところが挙げられます。例えば、「スタジオに入れるのは5人だけ、音は5種類だけ」、「15分間ずつ交代でミックスしたものを並べてみる」、「全曲を二回聴く、一回目は普通に、二回目は逆回転で」など具体的な作業の上での精神的な行き詰まりを解決するような実際的な解決方法をいくつも持っています。(まるでオブリーク・ストラテジーズ!)作業にのめり込むことで客観的でいることが難しかったり、作業時間に比例していびつな思い入れが問題となってくることに対して、こういった解決策は既存のテーマに対して新しいアングルを提示するのに非常に役立ちます。自身の哲学を生きるために自らを音の改造屋、アイディアの追及者と呼び、美のために戦う闘志と認識する未来主義者なところはバックミンスター・フラーにもよく似た傾向です。
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バックミンスター・フラー / 宇宙船地球号操縦マニュアル

ちなみにブライアン・イーノのある1年間(1995年)に毎日日記をつけるという思いつきから生まれたA YEARという本がありますが、こちらもさまざまなアイディアやインスピレーションに満ち溢れているのでオススメです。デヴィッド・ボウイやアート・リンゼイなどの音楽家だけでなく、ペトラ・ブレーゼやレム・コールハ-スなどの建築家など彼らしい幅広い知識と好奇心から育まれる交友関係も垣間見れます。どちらとも自伝的な内容なので普通に読み物としても楽しめますし、専門的な分野に関わらず、あらゆるデザイン(=日々の選択)という営みにおいてつきまとう問題への解決を示唆してくれるような言葉が随所に含まれているのもお気に入りなポイントです。五百億点!!本当はまだまだたくさんご紹介したい面白い本があるのですがそれはまたの機会に!それでは良いクリスマスを!
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yui onodera

yui onodera

音楽家。音楽と建築を学び建築音響設計を経て、サウンドプロダクションCRITICAL PATHにて国内外の広告メディア、プロダクト/インターフェイスのための楽曲提供・サウンドデザインを手掛ける。国内外のサウンドアートレーベルより先鋭的な電子音楽作品を発表。英『Wire』誌や英『BBC』など国営公共放送局含む各国メディアにて高い評価を受ける。Brian Eno等との『foundsoundscape』などその活動は多岐に渡る。

Reviewed by
佐藤 研吾

ライフログとはいわずとも、自分自身の創作の記録はなんらかの形でやはり残しておきたい。そう思えるのは、自分の記憶力が不完全であるからであり、また自分が思わぬものが突然生まれるからであり、それが自身の能力=スケールを時には押し広げてくれることもあるからである。雑多な世界から音を丹念に取り出す、つまりなんらかの秩序を立てていくように、自身から生まれてしまった数多のものを丹念とはいわずともいくらか当然選び出して、編集してそんなログをつける、その作業をしている瞬間こそがログを取るクライマックスであろう。日記は日記が残るのが良いのではなく、日記をつけるという日頃のルーチンの最中にこそ価値が見出せるとも言えるだろう。時にはそんな思い返すことすらイヤな日もあるだろうが、昨日と、今日と、明日の漸次の展開の径を途切らせないというルール=責務を誰しもが負うことにもなるのである。

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