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当番ノート 第43期
趣味というほどでもないけれど、週末は料理をすることが多い。 おいしいものを追求して研究する、というモチベーションはあまりないのだけど、仕込みが必要なもの、漬け込むとか干すとか、ある程度時間差が必要な複数の工程を組み合わせる料理がとくに好きだ。いくつかのおかずを同時並行で作って最後に同時に完成させる、というのも、なんだかパズルゲームみたいで集中できる。それよりなにより、包丁やボウルの金…
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当番ノート 第43期
そにっくなーす a.k.a.ひのはらみめいです。 さる3/28、 お誕生日でした。 お誕生日の月ってだめなんですよ。 なんか落ち込んでしまうんです。 多くを期待してしまうからだろうなと思うから、多くを期待しないようにしてるのだけれど、(いろんな人からおめでとうって言ってもらえるとか、プレゼントをもらえるとか) 潜在意識は何かを求めてしまう。 もう大人だから、サンタさん役だってやれなきゃいけない年だ…
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当番ノート 第43期
アントン・ナヌート クラシック音楽愛好家の間では知る人ぞ知るスロヴェニア出身の指揮者である。 私はナヌートと出会わなければ、今も指揮者を志すことはなかったと思っている。 ナヌートとの出会いは、紀尾井シンフォニエッタ東京(現・紀尾井ホール室内管弦楽団)で指揮研究員をしていた時期であった。彼は同オーケストラに召喚され、ブラームスの交響曲4番を演奏した。 私は全てのリハーサルを見学し、休憩中も指揮者の控…
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当番ノート 第43期
18 人権、決闘 目が覚めると完全に鳥貴族にしか見えないチェーン系居酒屋にいて、タラコとマヨネーズのポテトフライ(399円)を注文したところだった。目の前にはまったく知らない奴が居て、僕はそいつに口に含んでいたハイボールを毒霧した。numero tokyoっていうクリエイションが詰まったインターナショナル・モード誌があるんですけど、僕にはnumeroって単語が50代成人男性の生きづらさを表象してい…
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当番ノート 第43期
他人は私のことを理解していない、という実感は、人と人はわかりあえないかもしれない、という予感とセットである。 この人は私のすべてを理解していない、知り尽くしているわけではない、というのは、 一方では相手の察しとか配慮とかいうものに乗っかるのを控えるという意味で謙虚かもしれないけれど、 他方で「まだまだ私はこんなもんじゃないぜ」という傲慢な自意識(というか矮小な自己防衛)の現れでもある…
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当番ノート 第43期
どうもどうも、 そにっくなーす a.k.a. ひのはらみめいです。 食わず嫌いはないですが負けず嫌いで有名です。 先日、モグテレビさんのポエトリースラッシュというインターネット番組で3人で戦うスラムに出てぼろ負けしてしまいました。 ポエトリースラム(持ってきた自作の詩をルールに則って各自朗読し聴衆に点数をつけてもらい勝敗を決める試合のこと)にて負けるたびになんでこんな嫌な思いや辛い思いしてまで詩の…
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当番ノート 第43期
ヨーロッパには、各国にいくつものオペラ座が存在する。そしてオペラ座にはコレペティトゥールという職業がある。これは、歌手やバレエダンサーに対して、ピアノを弾きながら音楽稽古をつけるコーチングの役割を果たす。ただ、ピアノが弾けるだけではなく、語学も堪能でなければ務まらない。 一昨年のハンガリーで行われた国際指揮コンクールの終わった後、ありがたいことに、このコレペティトゥールの仕事の話をいくつかいただい…
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当番ノート 第43期
最近、友人の批評家である黒嵜想が、GAINAX京都代表の武田康廣さんと「万博、GAINAX、アーギュメンツ」というイベントを開催した。このイベントは、私が企画し黒嵜が編集したアーギュメンツという三号雑誌の総括イベントなのだが、そこで交わされた議論の中心が「同人から法人へ」であったと聞いた。少し私事になるが、これは私という個人が渋都市株式会社(旧:渋家株式会社)に法人成りしたことを受けての部分もあっ…
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当番ノート 第43期
あなたは私のことを面白いとか好きとか言ってくれますが、あなたの中の私は私全体のうちのほんの一部なんです、いうなれば私A。私の中には私A以外に実は私Bもいて、あなたは私Bのことあんまり好きじゃないかもなあ、それ以外に私Cというのもいるんですけど、私Cに関してはそうだな、むしろあなたが血管が切れそうになりながら憤慨するような所業も結構平気でできちゃうと思います。あなたがそれを目撃して憤慨したとしてもた…
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当番ノート 第43期
記事を書いてから寝たと思ったら夢だった、そにっくなーす a.k.a.ひのはらみめいです。 みなさんいかがお過ごしでしょうか。 花粉の時期に役に立つグッズの一つであるマスクとかありますけども、マスクについての医療パロディ記事を以前書いたのでそれを載せておきます。暇つぶしにどうぞ。 http://kuzu-tsuu.hatenablog.com/entry/2015/11/22/210000 さて、き…
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当番ノート 第43期
今回は、吹奏楽についてふれてみたいと思う。 私が吹奏楽と出会ったのは、中学1年生の頃。 幼少期から父と行くプロ野球観戦が大好きで、父に肩車をしてもらって後楽園球場に巨人戦を見に行った。父は根っからの野球好きで、休日は草野球や少年野球の代表などをやっていた。家には野球の試合の際に使われるスコアブックがいくつも置いてあり、玄関にはゴルフバッグとともに野球バッグもでかでかと並び、当時子どもであった私には…
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当番ノート 第43期
15 簡単で典型的で消費主義 さて、そろそろ私たちはアパートに帰ろう。私たちは近代という革命が、私たちのアパートから一体なにを喪失させたのか考えてきた。愛と友情、家族と戦争、芸術と無、それらが森羅万象から取り除かれた時、私たちの前には便利な世界が広がっている。そうなった時、私たちはいかにして愛情を示すだろう。かわいさ、や、ときめき、が世界を豊かにする時、そこで失われるものは何だろう。それは、ある固…
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当番ノート 第43期
ジョン・ロールズという政治哲学者は、ソクラテスを引用しながら人間の動機の在り方について説明した。 人間は、一般に自分の能力を行使することを楽しむ。このとき、その能力がより高次で複雑になればなるほど、その楽しみが大きくなる。 でも、どんな人間でも、その潜在的な能力や成功は、一人の人生の中で表現できるものをはるかに超えている。大きな楽しみをもたらすような高次で複雑な活動のうち、一人の人間がすべてをやり…
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当番ノート 第43期
どうもこんにちは。 そにっくなーす a.k.a.ひのはらみめいです。 ツイッター上にて、連載でどんなのよみたいですかーって聞いてみたら、 1.現象学的精神医学 2.私のメンヘラエピソード 3.詩を書くときのこと 4.きょうのそに村さん の4択のうち、『きょうのそに村さん』がなぜかいちばん得票数が多かったので、そにっくなーす版『きょうの猫村さん』的な記事を書こうと思います。 通勤中や通学中の暇つぶし…
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当番ノート 第43期
2019年2月末より、ハンガリーの首都・ブダペストにあるエルテ大学*で、「日本の歌を歌うサークル」が始まった。ブダペストにはエルテ大学とカーロリ大学に日本学科があり、日本語を学ぶハンガリー人学生が少なくない*。ハンガリーで日本の歌を歌うきっかけを作ってくださったのは、カーロリ大学*の後藤先生であったが、今回はエルテ大学の日本学科に勤める内川先生から、このサークルの歌の指導の依頼を頂戴し、昨年から少…
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当番ノート 第43期
13 グッドバイ 人々が芸術に取り組む時「芸術なんて無い」ということを誰もが一度は思う。しかし、そこで逆説を使い続けることだけが私たちに芸術を続けさせる。それは森羅万象から疎外され、神にも野獣にもなれなかった者たちの、仕方のない逆説である。この美学が近代によって達成された時、それは「別れ」として起こった。さようならだけが人生だとすれば、しかし人間が生まれるのは死ぬためでなく、始めるためであると返す…
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当番ノート 第43期
上京して一軒目の家に住んでいたときのことである。ネットで流れてくる各大学のミス・ミスターコンテストの投稿を何となく見ていると、面白そうなミスター候補が目に留まった。その人のホームに飛んでみると、絵も描く人らしい。音楽も詳しいみたい。美術史専攻だし、面白そう。私は高校生のときは美学を専攻したいと思っていたので、そういう人たちには何となく憧れがある。 たまたま、彼の大学のキャンパスが当時…
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当番ノート 第43期
こんにちは。そにっくなーす a.k.a.ひのはらみめいです。 今回は、わたしが生業として嗜んでいる詩の朗読をやる理由についてお話しようと思います。 実用的なこと、とまではいかなくてもちょっとした時に読んでへーってなってもらえる、そんな連載にしたいのですが堅い話ばかりでもあれなので、ここらでちょっとひとやすみといったところですね。 以前ポエトリースラムという大会の日本国内での予選に出た時に、ぼろくそ…
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当番ノート 第43期
なぜ、ハンガリーへ留学してから6年目にして、ハンガリー語学学校へ通っているのか? 語学勉強を甘く見ていたのかもしれない。リスト音楽院に在籍していた4年間、何もしていなかったわけではない。リスト音楽院にはありがたいことに、日本人の先生が日本語でハンガリー語を教えてくれる90分のクラスが週に2回ある。私も用事が無い限り、その授業に積極的に参加した。とても分かりやすく、ハンガリー語の勉強の導入として最適…
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当番ノート 第43期
10 愛、哄笑、落下傘 希望について語るとき、私たちは一つの宿命を受け入れる必要がある。ロマンと消費の相性の良さは私たちが人類であることに関係している。いまや、あらゆる運動は商品でしかなくなった。愛は消え失せ、広告だけが残った。20世紀が情報化と資本主義という革命によって無数の人々を生贄にしたことは既に述べたが、この話はもっと具体的に語られる必要がある。すなわち、この未曾有の革命の中で散った愛とは…
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当番ノート 第43期
東大に入ってもう4年以上経つというのに、受験について回顧するのは気が引ける。気が引けるというかダサい。東大生が大学に入学して時間が経っているのに自分の受験期のことをツラツラ書くというのは、キャンパスで特段何も成し遂げられなかったがゆえに1月や2月の受験シーズンになると突然始める自分語り、というと言いすぎだろうか。でも今日はあえて受験のときのことについて書こうと思う。 いつだってそうな…
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当番ノート 第43期
こんにちは。 そにっくなーす a.k.a.ひのはらみめいです。 前回の記事において、詩を書く時のことや中動態のことをお話できればいいなあと言っていましたが、 読書が追いついていません。笑。 國分功一郎「中動態の世界 意志と責任の考古学」は第16回小林秀雄賞を受賞した本でして、医学書院から「ケアをひらく」のシリーズの一つとして書籍で出ています。 隔月刊の雑誌「精神看護」の連載をもとに書籍化されたもの…
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当番ノート 第43期
ハンガリーを代表する作曲家バルトーク。バルトークは1881年、旧ハンガリーのナジセントミクローシュで生まれた。彼は作曲家としてだけでなく、ピアニストとして、大学の教授として、そして民俗音楽家としても一流であった。そして日本では1886年、山田耕筰が東京に生を受けている。19世紀末、彼らは強いナショナリズムを背景に作曲家として育った。 バルトークはブダペスト王立音楽院(後のリスト音楽院)で西洋音…
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当番ノート 第43期
7 芸術、あるいは無。批評、あるいは死。 革命が「やっぱり無理だ」という時、人は何によって諦めるのだろう。20世紀の間、諦めの態度は批評によって表明されてきた。であるが故に批評的であることが一つの芸術たりえた。前回の連載に対する友人からの指摘「アリストテレスいわく『社会をつくることができない者か、完全に自足しているので社会を必要としない者は、野獣か神であって、都市国家の一員にはならない』」は、無と…
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当番ノート 第43期
関東のいくつかの町を転々とした後、小学校の高学年になって岡山県に引っ越した。 岡山には難波(なんば)という苗字が多い。関西弁ネイティブの私にとって「なんば」は「なんば・道頓堀・アメ村」のなんばであり、「サンバ」の発音なのだが、苗字の「なんば」はどうやら「さんま」と同じらしい。サンバじゃなくてさんま!と訂正され続け、正しい難波さんの発音を習得するのに二週間かかったが、逆に二週間すると流…
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当番ノート 第43期
こんにちは。 そにっくなーす a.k.a. ひのはらみめいです。 精神科看護師を楽しんでいる自称文学少女です。 みなさんは 憧れている人っているでしょうか。 妬ましい人っているでしょうか。 アニメにもなった筒井康隆の人気小説『パプリカ』の中で、 主人公の美人サイコセラピスト・千葉敦子に対し、妄想に取りつかれた後輩セラピストの柿本信枝さんが 『美人だからって調子乗んな』(意訳) とぶん殴るシーンがあ…
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当番ノート 第43期
音楽家を志そうと決心した時に、私は人生の森に自ら迷い込んだ。 勤めていた高校教諭の職を辞し、退職金を当てにして、欧州音楽留学、そしてリスト音楽院大学院修了まで辿り着くことができた。しかしその頃までには、10年働いて貯めた留学資金を使い果たそうとしていた。 お金が無いので、もちろんこれから住む家も無い。4年間の留学生活で連れ添ったピアノも置く場所が無く、泣く泣く知人に譲った。残ったのは大量のオーケス…
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当番ノート 第43期
4 魅力のなさ、さみしさ、壊れかけていること アパートに住んでいると隣人には関心を向けないが、一方たとえば存在しないように振る舞うことで存在しないことにできるという存在の毀損は私たちを無へと追いやる。日本語の問題として言うならば芸術と無は森羅万象に含まれない何かであるが、森羅万象に含まれないことは芸術と無を毀損する。グローバリズムと産業の終わり、または全ての資本主義が単なる運動、あるいは全ての運動…
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当番ノート 第43期
10。生まれてからこれまでにした引っ越しの回数。ほとんど二年に一回のペースだ。 ある場所から別の場所へ住居を変えるというのは、なかなかに労力の要ることだと思う。荷物をつめたり、電気ガス水道を契約し直したりといった引っ越し作業はもちろん、お世話になったみなさんに別れを惜しむ挨拶をし、新しい土地に移ってからは、見慣れた景色へのノスタルジーを愛撫しつつ、そこにあるコミュニティーになるべく早く順応する。こ…
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当番ノート 第43期
初めましてこんにちは。 そにっくなーす a.k.a. ひのはらみめいと申します。 どちらで呼んでくださってもかまいません。 まりこさんの紹介にて連載はじめさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。 慣れるまでちょっとどう書いたらいいか的なキョドりかたをすると思いますが通勤時の意識飛ばしや暇つぶしくらいには有用なことが書いてあるのでぜひついてきてください。 『フィルス』という映…
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当番ノート 第43期
ドナウ川の流れる街、ハンガリー・ブダペストで、私は音楽の勉強を続けている。 ハンガリーとの出会いはかれこれ24年前。高校時代に所属していた吹奏楽部で、ハンガリーへ演奏旅行に訪れたことが契機だった。デブレツェン、ケチケメート、そしてブダペスト。ハンガリー人のおおらかな人柄に惹かれると同時に、いつかここで音楽を勉強したいと夢を描く自分がいた。 高校卒業時、幼馴染みで高校も一緒に楽器を演奏していた仲間の…
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当番ノート 第43期
0 ステートメント 従来の芸術には、大別して二つの系譜があったように思われます。 一つはある特定の社会や集団を素材に、存在する矛盾や運動ないしは抵抗や性質を、具体的かつ徹底的に批評していこうとする、いわば国民国家を前提とした芸術。 もう一つは本人の極端な経験や固有の知識、あるいは新たに発明された技術を踏まえ、我々人類が誰しも直面するほとんど暴力的なまでの人生の不毛さを共有するための、いわば質や精神…