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当番ノート 第44期
けっきょく、わたしにとって町とはなんだったか。 アパートメントの連載の話をいただいてから二ヶ月のあいだ、これまで訪れたいろいろな町をよすがに、経験したこと、考えることを書いてきた。わたしはまちがいなく「町」というトピックに惹かれていて、どうにかそれを自分を通して書いてみたかった。 思い入れのある町とない町のこと。同じ町に重なったいくつかのできごとのこと。町に紐づく、あったかどうか不確かな記憶のこと…
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当番ノート 第44期
「大切とは」についてそろそろ真剣に考えないと、このさき生きていかれないかもしれない。何かを大切にすることとは、わたしにとって生きることとイコールだとわかったから。 大切だと感じられるものを守ること。「守る」というのは、「庇護する」という意味だけでなく、「遵守する」という意味も含めて。目に見えるもの、見えないもの、全部。生きていく上で必要な、もっというと、死なないための矜持とエナジーは、大切なものを…
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当番ノート 第44期
嵐のような雨風の火曜日から一転、爽快な快晴となった水曜日。 朝、いつものように大学の門を通り抜けると、右手に賑やかな雰囲気がある。 近所の保育園児と保育士さんが、のびのびと戯れていた。10数人の園児と、3人くらいの保育士さん。何をしているとは形容しがたいが、とても穏やかな場であることは確かだった。 穏やかな気持ちを分けてもらい、ちょっといい気分で自分の場所へと向かった。 お昼ご飯を調達しに出か…
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当番ノート 第44期
目的地のある足が 異なる拍の足音を 道へ打ちこんでゆく スニーカーの四分の四拍子と ハイヒールの八分の六拍子とは 倍数ごとにふれあっては ふたたびはなれる それから革靴のアレグロを聴いたりする 打たれた足音を まちはすべて記憶しているが思い出すことはない ぼくは座って停まっている 座る身体にも目的地はあって 活動はどれもおわりを既に含んでいる いま_にしか打たれない拍 むじゃきな個別のあらわれ ひ…
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当番ノート 第44期
――好きなように生きるって、どういうことなんでしょうね。 さあ……。わたし、実はあんまり好きなように生きてみたいって思ったことがないので……。 ――そうなんですか? はい。世間では「好きなことをして生きる人生最高!」みたいな空気ありますけど、困っちゃうんですよね。むずかしい。なんなら、100年くらい前みたいに、ガチガチの社会的な風潮というか、そういうものに縛られてた人生のほうが良かったかも、って思…
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当番ノート 第44期
火曜日のこと。 朝、すぐ近くの商店街をいつものように自転車で通り抜ける。 駅まで行く時に必ず通るこの道は、バンや小型のトラックがギリギリ通れるくらいの道幅しかない。なので、それらの自動車と僕のような自転車とのすれ違いは、どちらかが一時停止しなければ難しい。基本的には自動車が一時停止するし、交通ルール的にそうするべきだと僕も思っている。ただ、状況によっては自転車の側が停まることもある。ルールを杓子定…
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当番ノート 第44期
なにかにつけては海を見にいく。 比較的町のなかで育ったほうだからか、海のことはいまだにものめずらしく思っている。ものめずらしくて、かっこいい。波のかたちが変わりつづけ、潮が満ちてくるのをみていると、癒される、かどうかはわからないが、うっすらとうれしい気持ちになる。 一部の町のひとたちも似た性質を持っているらしく、SNSでは海や山の写真をよく見かける。町で暮らしていると、どうしても自然のものに触れず…
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当番ノート 第44期
――マリさんが家出をしたのは? 10年くらいかね。 ――そのあいだに連絡は? ない。一回も。マリからはもちろんこない。俺からもしなかった。 ――心配ではなかったですか? 心配、心配ねえ。頭の片隅にはいつもいるよ。元気にしてんのかなあって。ただまあ、何も連絡が来ないってことはどっかで生きてんだろうなって。 ――マリさんは出ていくとき、何か残しましたか。手紙とか。 何も残さねえよ。前の日の夜に喧嘩にな…
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当番ノート 第44期
毎年5月6日は、山へ入ると決まっている。 大学1年のときからお世話になっている集落の人たちと、山菜を採りに行く。 今年もまたその季節がやってきた。 前日の5月5日に、東京から新幹線で2時間弱。 高崎を過ぎると、街(正確には駅のある街)は数多のトンネルによって結ばれるようになる。風景は線から点へと変わる。それだけ強く印象に残ることになる各街の風景が、目的地へ一歩一歩近いづいていることを教えてくれる。…
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当番ノート 第44期
「まちで詩を書く」という企画をはじめた。 町中にある屋外のパブリックスペースで詩を書く。そのあいだそれをSNS上で公開し、同じところにいっしょに詩を書きにくる人を募集する。来てくれた人にはクリップボードとペンと紙を貸し、詩を書く時間をともにする、という企画だ。 場をひらくようになって何年か経つ。 大学時代に長期インターンで作らせてもらった短歌のワークショップを皮切りに、定期的にことばのワークショッ…
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当番ノート 第44期
――就職活動はいかがでしたか? こんなもんかなってなりました。結果にはそれなりに満足してますけど、でも、最後まであんまりよくわかんないまま終わっちゃった感じはしますね。 ――それはどうして? んー、就活で求められるような考え方というか、考えの土台というか、そういうものと僕の考え方が全然合わなかったからかなー。 ――たとえば、自己分析とか。 そうですね。あと、将来のこととか。3年後、5年後、10年後…
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当番ノート 第44期
いつからか、人の手による、ささやかだけど確かな工夫に関心を寄せています。 先週とある駅でも見かけました。 エスカレーターを降りた先に停められていた、清掃道具を入れるカート。 見かけた時は、「クリーンカート」の「ン」から点(ヽ)が抜けて「クリーノカート」になってしまっている可笑しさにひかれてカメラを向けました。しかし数日後にパソコンで写真を見返すと、見かけた時以上にぐっとひかれてしまいました。 清掃…
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当番ノート 第44期
ひとりで知らない町に行くと走ってしまう。わたしは生まれてこのかた足が遅く、走っても無用に疲れるばかりなのだが、知らない町並みに晒されているとなんだか走りたくなる。 知らない町はすこし怖い。 繁華街や大きなショッピングモールならまだいい。おだやかな町で、建売の家や、ちいさなスーパーや、ランドセルを背負った子どもを見かけると、脳がゆれるような不安感におそわれる。 わたしは生活のことが怖いのだ。 知らな…
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当番ノート 第44期
――すごい量の写真ですね。 同じものを何枚も焼き増ししているから。 ――なぜ同じ写真を何枚も? 楽しかった思い出を、たくさんとっておくため。 ――これは、旅行の写真ですね。こっちは遊園地。 ――たくさんのところに行ったんですね。 7年間、一緒にいましたから。 ――天井も、壁も、本棚も、床も、写真。 ――どれも、すごく幸せそう。 幸せでしたよ。とても。でも、もういない…
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当番ノート 第44期
東京・墨田区の自宅近くに、大事な珈琲屋さんがあります。 初めて訪れたのは2012年の7月。以来何かと足を運ぶようになり、その近所に住み出した翌年の春以降はさらに足しげく通いました。 2014年の春から2年間は、スタッフとしてはたらかせてもいただきました。 今もときどき、ココアを飲んでホッとしたり、マスターやなじみのお客さんとおしゃべりしてリフレッシュしたりしています。 席数30に満たない小さなこの…
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当番ノート 第44期
ときどき誤解されるが、わたしは自分が書く内容についてよく知っているから書くわけではない。まったくの逆で、わからないから、どうしようもなく書きはじめるのだ。 わたしは思考を拡散させがちで、ただ思いをめぐらせているだけだと内容があちこちへ氾濫し、かえってぼんやりしてきてしまう。書くことでそれに順序をつけ、足し引きし、輪郭をはっきりさせることができる。わたしにとって書くプロセスは、考えることそのものなの…
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当番ノート 第44期
――恋と友情の境目は、どこにあると思いますか? 唐突ですね。それは、異性間の話? ――異性間でも、同性間でも。ある日まで友情だと思っていた感情が、いつの間にか恋に変わっていることはよくある話です。 友情と恋って、そんなにはっきり白と黒のように分かれるものかしら。「好き」という想いに、人のほうが友情や恋と勝手に名前をつけるだけだと思うの。 ――たとえば、異性愛者の男性同士は、どんなに仲が良くても、手…
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当番ノート 第44期
早いもので、連載も第3回です。 今回は、よく行くラーメン屋さんで考えたことについて。 ラーメンについてではなく、自由について。 突然仰々しいテーマですが、軽い気持ちでお読みいただけたら幸いです。 水曜の昼下がり。いつものように暖簾をくぐり、食券を買って、着席。 すると、聞き覚えのあるイントロが。このお店のBGMはいつもラジオです。 曲は土岐麻子の「STRIPE」。 1年半前にWebマガジンの記事で…
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当番ノート 第44期
東京のなかでは水道橋が好きだ。 まずおいしいごはん屋さんが多い。これは具体的にどこがおすすめとか行きつけとかいう話ではなくて、多い、ということそのものがいい。なんなら、さして色々なお店に行ったことがあるわけでも、グルメに詳しいわけでもなく、多いらしいな~と聞いている程度だが、それでも十分にいい。わたしはよく歩くので神保町お茶の水あたりまでごっちゃにしている気もする。 おいしいごはん屋さんがひとつの…
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当番ノート 第44期
――お金持ちになることに憧れますか? そうですね。都心のタワマンの最上階に住んでみたいです。 ――今の仕事には満足していますか? まあ、はい。有名な大手ですし、給料も待遇も良い。そりゃ社会に出れば色々あるので、100点満点ってわけにはいかないですが、デカい失敗してもフォローしてもらってきましたし、そうやって自分も下の尻拭いしてみんなでやってきたんで、しんどいとかそういうのはあまり。でもときどき、考…
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当番ノート 第44期
僕の地元は愛知の長久手というまちです。 生まれてから大学までの19年間をここで過ごしました。 郊外のベッドタウンですが、結構強い愛着があります。 愛着を育んだ場所の一つが、道場です。 小学校入学直前から高校3年生まで通った、空手の道場。 多いときには、大人から子どもまでだいたい100人くらいが通っていました。 幼なじみが通っていたことがきっかけで始めたものの、小学校高学年くらいまでは、いつもやめた…
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当番ノート 第44期
今年はなぜか桜の時期の中目黒に三回も行った。たまたま用事が立て続いたのだ。ふだんはなるべく人混みを避けて暮らしているので、これは不覚だった。 中目黒には行きつけのワークショップの教室があるのでしばしば足を運ぶ。生活と商業のけはいが、またにぎやかさと静けさとがシームレスに交じり合う町で、歩きごこちがいい。 ところが、桜が咲くだけで、町はまったく別の顔をみせる。 目黒川に人が殺到するせいで、改札を出た…
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当番ノート 第44期
――今、大切なものはありますか? 大切なもの? ――はい。 うーん。まあ家族と友だちと彼氏は大事だよね。そのくらい。ほかはいまは思いつかない。 ――あなたにとって大切とは、どういうことですか? なくなったらぜったいに嫌だし、なくなったら超困ること、かな。 ――じゃあ、「大切」と「好き」は何が違いますか? 難しいなー。でも、好きなものは好きだけど、大切なものとか人っていつも好きとは限らないかもね。喧…
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当番ノート 第44期
浅草に最近よく行く銭湯があります。 「よいな〜」と思うポイントは色々あるのですが、 こないだもう一つ見つけました。 柵がとてもよかったです。 * この銭湯には半露天風呂があります。 5、6人は入れる大きめの熱いお風呂と、 その半分くらいの大きさの水風呂、 それにたくさんの鯉が所狭しと泳ぐ池。 図のような位置関係です。 黄色の部分が柵です。 半露天風呂内の通路と、 池を含む庭園のような空間とを隔てる…
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当番ノート 第44期
「『アパートメント』で書いてみませんか」と声をかけてもらって、いくつか記事を読んだり、なにを書こうか考えたりするあいだじゅう、どういうわけか雑貨屋のことばかり思い浮かべていた。 すれちがうこともむずかしいくらい狭い店内に、ちいさな雑貨がひしめく。知らない絵が飾ってあって知らないお香のにおいがする。そういう店ばかりが何階にも重なってつづく、ひとつの建物。 サイトのどこにもそんなことは書いていないのに…