以前から、わたしは「モールス信号」というものが気になっていた。
元来は可変長符号化された文字コード。単音だけ、あるいは光の明滅のみで言葉を伝える手段。SOSを伝えるために使われたりもするという、言葉の形を持たない言葉。
日本の平成の時代に生まれたわたしには、これまで一度もモールス信号との接点はない。けれど、その普遍性のようなものにひどく心惹かれる自分がいた。
国を超えて、時を超えて、その単調な調で通じ合うひとたちがこの惑星のどこかにいる。途方もないロマンだ。
想像すると、広い宇宙の中でぽつんと明滅する小さな灯なんかを思う。それと同時に、谷川俊太郎作詩の『20億光年の孤独』を思い出す。
東京のネオン。
深夜の孤独。
みんなみんな宇宙人みたいに、
わかりあえない生き物どうしで
のっぺらぼうの会話をしながら
知らない誰かに抱かれて眠る。
思い出の海は宇宙の深淵に似て
今日もまたわたしたちを孤独にし、
そのなかにぽつんと宿る光の信号が
それだけが
広い世界のあなたを教えてくれるのだ。
どうか、孤独の中でも息をしていて
小さな信号を絶やさずにいて
そうすればいつか いつか
夜色を泳ぐようにして
瞬きみたいな応えを返せる時がくるのだから
宇宙人みたいなわたしたちには、
言葉なんて要らなくて、
ただ温もりと存在だけがあればいいという夜がある。
人間になるのは、朝になったら。
今日は信号を送って、この夜のどこかの光を信じて、おやすみなさい。
▼ 言葉の拡張 #2 夜色
【 言葉 / 信号 / 音 】
「言葉の拡張」では、さまざまな表現手法を行き来しながら、
言葉というものの拡張を実験的に試みていこうと思います。
第二弾は、言葉と、記号と、音。
人生で初めてモールス信号を打ちながら、途中わたしにはその単音が言葉に思える瞬間がありました。
伸ばさなくちゃいけないところを単音にしてしまったとき、かつての人たちはどうやってとりもどしていたんだろう。
今回はミスもそのまま突っ走っています。あえて、分割録りをせずに一発録りにしました。
どうぞイヤホンをつけて画面を追いながら、
ふしぎな言葉を味わってみてください。
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(このよるにあいはあるのだろうか)
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(あいしてる)
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(と)
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(きみがささやくよるに)
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(こうふくよりもかなしみがみちることを)
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(きみはまだしらないんだろう)
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(わすれられないあなたのことをおもいだしながら)
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(もうにどとあんなよるはこないのだと)
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(あたたかなうでのなかで)
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(かみしめて)
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(それでも)
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(きみのあいが)
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(このよるには)
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(わたしのあいなのだ)