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2F/当番ノート

愛しの台中:ある土曜日のこと06

当番ノート 第50期

「突然すみません、台中の珈琲フェスティバルに出ませんか?」

アンドサタデーを始めて半年ほどのある日、一通のメッセージが海の向こうから届いた。

これは新手の詐欺だ。そうに違いない。

なぜって、当時メディアにも出た事はなかったし、錚々たる日本の珈琲店を差し置いて、海の街の小さな珈琲店に声が掛かることなんてないはずだから。

逗子の街でもまだまだ知られてないのに、どうして台湾の人が知ってくれているのか。

「もちろん出店料はいただきません。売り上げは全てお持ち帰りください。」

そんな都合の良い話があるはずがない。

そもそも台中って台湾のどこなのか。そこから分からない。

賑やかなお祭りに胸躍らせ飛行機と電車を乗り継ぎ、着いた先には野原しかなくて途方に暮れる。そんなやつだろう。

ネットで情報を探しても、どんなイベントなのか全貌が見えて来ないのだ。

「今回が初開催なんです」

いや今回も開催されないのだろう。ほらもう、詐欺のそれじゃないか。


しかし、騙されやすいのがアンドサタデー。次の日には台湾のガイドブックを本屋に買いに走っていた。

台湾もずっと行きたかったし、休暇ついでに行ってみよう。

珈琲豆の入った袋を電車に置き忘れる、タピオカに並び電車を乗り過ごすという、何をしに来たのか分からないような珍道中を経て、着いた先で見た景色は今でも忘れられない。

たくさんの人、台湾や日本の素敵な珈琲店、作家さん。

色とりどりの珈琲の香りに、心地よい音楽が重なり合う。

柔らかい光の中で、言葉の壁を超えて珈琲でつながり合う牧歌的なその時間は、とても幸せなものだった。

日本を好きな方も多くて気さくに話しかけてくれて、自分たちの珈琲やデザイン、イラストを好きだと言ってくれることが嬉しかった。

その日から、主催の本日製作社のご夫婦は僕たちの憧れとなり、今でもその背中を追いかけている。

SNS等での発信を見てお誘いいただいたということだったが、このご縁から1年に2回は台湾に行くほど好きになり、イベントやポップアップで台湾との交流が続くようになった。

中でも台中は、台北ほど都会でないし、台南ほど田舎でもない。大トロでもなく赤身でもない、中トロみたいな良さがある。

アートや珈琲のカルチャーが今まさに盛り上がっていて、自然も豊かで、とても肌が合うのだ。


なんでこんなに台湾、台中に心惹かれるんだろう。

そうだ、きっと、かなり土曜日っぽいのだ。

忙しくても朝ご飯は街に食べに出る文化や、夜11時を過ぎてもカフェで珈琲を友人と飲んでいる風景。

時間も仕事も捉え方が軽やかで、縛られることをあまりしない。

街並みもどこか懐かしくて、少し前の日本にいるような感覚。

平日の昼間から道端で、20個くらいの小籠包を食べるタンクトップのおじさん。

いつまで待っても出てこない、夜市の味の濃いフライドチキン。

アートやカルチャーもどこかゆるやかで、可愛くレトロで自分たちが目指すところと重なる。

そして日本人以上の親切心。

はじめての台中でのイベントの時に、付きっきりでサポートしてくれた、アリスという子がいる。彼女の案内が無かったら、こんなに台湾を好きになることは無かっただろう。


そんな彼女が台中につくった、「TokuToku」というお店がある。

台湾の中で日本の文化に触れて、日本語を話す、そんな場をつくりたかったとアリスは話す。お酒をつぐ時の「トクトク」、日本語をみんなで話したいという「トークトーク」。

このお店の、人が入ることで空間が完成する感じ、誰でも思い思いに時間を過ごせる設計、暖色系の色合い、流れる空気のゆっくりさ、通り抜けていく風、その中で飲む抹茶。

とにかく全てが最高なのだ。

「TokuToku」は贔屓目無しに、僕たちにとって世界で一番好きなお店だ。こんな風な場所を逗子につくることが、今の自分たちの一つの目標となっている。

そしてアリスがしてくれたように、たくさんの人に逗子や葉山を案内して、この街を好きな人が一人でも増えたらと思う。

色々と落ち着いたら、きっとそういう場や役割が必要な時代が、また来るはずだから。

皆さんも台湾に行った際には、ぜひ台中に、そしてぜひ「TokuToku」に行ってみてほしい。台中を好きになる理由は、全部そこに詰まっているから。

ということが言いたいだけの文章でした。

kengo.shoji

kengo.shoji

逗子・葉山を拠点に活動している夫婦が営む編集社「アンドサタデー」共同代表。土曜日のようにゆるやかなイラストレーション、写真、デザイン、場づくりという表現を通した編集で、誰かの想いを叶えるお手伝いをしたり、自分たちの想いを形にしています。土曜日だけ開店する「アンドサタデー珈琲店」に、ぜひ遊びに来てください。

Reviewed by
ヨシモトモモエ

逗子の、土曜日だけの珈琲店。台中からの知らせと店主の気の持ち様が、晴れの日みたいな爽快さを感じさせる一話だった。台中の空気はどこか土曜日だ、相通じる。文字通りの不思議な出会い、こんなことってあるのだな。

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