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2F/当番ノート

万物はマホに始まりマホに終わる:ある土曜日のこと09

当番ノート 第50期

「将来は新しいカフェをつくりたいと思うんです」

青色が白く透けている空からまっすぐに太陽の光が落ちる、カラリと暑い昼下がり。土曜日だけの珈琲店に来てくれた20代前半だという男の子が、目を輝かせながら話してくれる。とても面白いアイディアがあるという。

考えていることは確かに新しくて、聞いているだけで楽しい気持ちになれた。でも何をするにも結局、人に応援してもらえるか、好きになってもらえるかが全てだと思う。

どんなことをするか以上に、誰がするか。その「誰が」の部分の価値を上げるために、どのような人間になっていくか。

「それで聞きたかったのが、人が集まる場ってどうやってつくるんですか?」

そんな質問に、僕が持っている答えは二つしかない。

真帆さんのようになるか、真帆さんのような人を見つけるか、だ。

万物はヌゥに始まりヌゥに終わる。

クロノ・トリガーという名作ゲームの中で、ヌゥというトボけた顔をした生き物が出てくる。少年たちが時代を超えて冒険する物語なのだが、原始時代から未来までの全ての時代で唯一、ただそこに存在しているのがヌゥなのだ。

青い体で特に何をするわけでもなく、いつもぼーっと居眠りをしている。無欲に佇み、世の中のモノゴトの行く末を見守っている。生物の進化の歴史から切り離された存在で、いつまでも変わることなく、ゆっくりと生きている。

万物はヌゥに始まりヌゥに終わる。物語の中ではそれが定説となっている。時代を変えようと奔走する少年たちを尻目に、物語の本筋とは一切関係の無いヌゥという存在に用意されたこの言葉が、何だか本質的だなとも思うのだ。

変わろうとすることと、変わらないでいること。結局ずっと生き続けているのはヌゥなのだから。

アンドサタデーの真帆さんはそんなニュアンスの存在なのかもしれない。よく見たら顔もそっくりじゃないか。

時代の流れだったり、社会の堅苦しさだったり、そんなものとそぐわない場所で、真帆さんは生きている。

朝起きてから夜寝るまで、基本食べることばかり考えている。

節約してくれと何度伝えても、毎日デザートを買ってきてしまう。

お昼ご飯にパンを頼んだら、6個中4個あまいパンを買ってきてしまう。

基本的に風邪をひかない。

昔はバク転ができたと言う完全に嘘な武勇伝をいまだに自慢している。

グルテンフリー生活を始めると宣言して、何故か以前よりパスタの消費量が増える。

寝たら全てを忘れる。

遅刻して食パンをくわえながら家を飛び出して、トンビにかっさらわれる。

気合いを入れてジョギングを始めても、20m走ったらお腹が痛くなって歩き出す。

黒いシルエットの犯人が怖くて、コナンが見られない。

買ったばかりのお気に入りの服には、必ずカレーを飛ばしてシミをつくる。

映画「トゥルーマン・ショー」を見て、自分がトゥルーマンなのではないかと疑い始める。

すぐに蚊に刺される。

頭がガンガンすると寝ていると、そんな時に限って横でギターをかき鳴らし始める。

洗面所から大きな音がしたと思ったら、洗濯カゴにお尻がはまって動けなくなっている。

カメラを止めるなの前半が怖くて見られず、後半だけ見て良い映画だったと言う。

右と左がときどきわからなくなる。

甲子園を夜行バスで現地に見に行くと、見たかった試合中に文字通り船を漕ぎ出す。

インスタントのコーンスープはお湯を少なめにしないと気が済まない。

真帆さんの日常は、そんな風に過ぎていく。

誰よりも土曜日のような生き方を実践していて、彼女の周りだけは流れている時間が他の人と異なっている。世の中で常識とされていることが通用しないのだ。

そんな真帆さんには普通の人だったら諦めてしまうようなことでも、打ち破っていく特殊能力がある。土曜日だけの珈琲店を間借りで始める話を通したのもそうだし、途中何度も開催自体が厳しい状況になった海街珈琲祭を実現させたのもそう。

行動力という言葉では表現し切れない、モノゴトを通し抜く力。

人と同じようなことを考えるのはちょっと苦手かもしれないけれど、人と違うことができてしまう。仕事ができる、できない、という次元で語ることができない、強い力を持っている。

普段は仕事に苦労して悩んでいる様子も多々見るが、最後にはやはり自分をはじめとして誰も真帆さんには敵わない。

そして何より、誰からも愛されるという力がある。

世の中には無条件に、その人の周りに人が集まってくるという人がいる。そんな自分とは対極の存在が、真帆さんなのだ。

ただただ非利己的で、街の人や珈琲店に来てくれる人をとても大切にする。いつまで経ってもお金も儲からないし、それでも楽しそうに毎日を生きている。自然体のその優しさが、人を惹きつけてしまう。

だからこそ思う。人が集まる場には真帆さんのようなアイコンとなる存在が大切って。場で何が行われているかではなくて、その人に会うためにその場に通ってしまうような存在が。

何かを始めようとする時に、仮に自分にその力が無かったとしても、不思議なその力を持つ誰かを見つければ良い。一人では無くて、誰かと得意を掛け合わせた方が、強い場になると感じている。

そして何より、そんなに深く考え過ぎず、急がず焦らず、ヌゥのように、真帆さんのように、肩の力を抜いて土曜日のように生きてみても良いと思います。きっと毎日がもっとゆるやかで優しいものに変わっていくはずだから。

そんなどこよりもゆるい夫婦がやっているのが、アンドサタデーの「土曜日だけの珈琲店」でした。

それではみなさん、「よい土曜日を」。

いつの日か、海の街でお待ちしています。

kengo.shoji

kengo.shoji

逗子・葉山を拠点に活動している夫婦が営む編集社「アンドサタデー」共同代表。土曜日のようにゆるやかなイラストレーション、写真、デザイン、場づくりという表現を通した編集で、誰かの想いを叶えるお手伝いをしたり、自分たちの想いを形にしています。土曜日だけ開店する「アンドサタデー珈琲店」に、ぜひ遊びに来てください。

Reviewed by
ヨシモトモモエ

逗子の、土曜日だけの珈琲店。この連載も最終回だけれど、いつからか土曜日への見方が変わっていった。今はただ、毎日、土曜日のように生活してみたい。

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