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2F/当番ノート

できごときごと(2)コーンとテネット

当番ノート 第53期

コーンのある風景(宮城県気仙沼市八日町)

写真は2018年2月に気仙沼市の中心市街地で撮影したものです。この頃は東日本大震災からは約7年近く経っていますが、大規模な復興工事が町のあちこちで行われている時期でした。ちなみに2020年の今も進行中の土木工事が多く残っている状態。もっと言うと、写真の風景は復興工事というよりも「復旧」工事の意味合いが強いです。区画整理して土地をかさ上げし道路の幅員や街路照明などを一新し災害に強い新たな町を作るのではなく、地震や津波被害によって壊れてしまった道路埋設物や歩道の舗装を修復するものです。

気仙沼市の中心市街地と周辺地域の解説

ピンク色で示した八日町地区が私が仕事や活動のフィールドとしているエリアです。八日町は震災の時に津波被害を受けたものの、海からは少しだけ入り組んだ場所に位置したために半数以上の建物が残りました。まばら状に被災した町、と言われることもあります。

建物が建つ地面まるごとから区画整理・かさ上げを行う復興事業の範囲には入らず、復旧工事による町の復興を選択したエリア。間口に対して奥行きの長い敷地が多く、隣に立つ建物が除却されたことにより、残った建物のなが〜い壁が町の中から見えるようになったり、空き地となった敷地からは震災前は見ることのできなかったであろう別の建物の裏庭や蔵が見えるようになったりなど、様々な感情はいったん抜きにして町を眺めてみると、被災したからこそ生まれた風景があるのだと気付きました。

震災によって生まれたこの独特の風景が、復興工事によってまっさらにされることがなくて本当に良かったと思います。時間が重層的。むしろ復旧工事が定着剤の役割となって、まばら状の町並みを保全しています。

現在公開中のクリストファー・ノーラン監督の映画「テネット」で、廃墟となったビルがグレネードランチャーで破壊されたと思ったら、廃墟以前の状態まで復元されて、また破壊される、、という描写がありました。さすがにそんなことは現実の町では起きないですが、この映画の時間逆行のシーンは動画の逆再生の動きとなっていて非常にシンプルな表現です。映画を見終わった後でも、日常生活の中のふとした時にあの逆再生の動きを連想してしまうのがこの映画のスゴイところ。

過去も自由につくれちゃう

テネットを見て気づいたことは、廃墟ビルが破壊されて復元されてまた破壊されるのがスゴイ、、!というものではなく、過去は主観によって認識される、ということでしょうか。映画の中で言えば自分にとっての過去は時間を逆行する誰かにとっての未来であるし、現実の話で言えば町に置かれたカラーコーンは飲み物を置くテーブルの脚にするために置かれていたのかも、ということ。それは歴史的事実に照らし合わせるとたちまち間違いになってしまいますが、自分が時間を逆行しているのだと仮定すると、いや仮定しなくても、いくらでも過去は創作できてしまう。風景に対しての合理的な推論によって過去は創作の対象となるのではないでしょうか。

創作された赤色のカラーコーン

これは前回の記事で書いた、橋を架けたのは橋の上で釣りをできるようにするためではないか、と同じ話です。用途の観点に加えて、逆行する時間を想定しながら町を眺めていると、東北の沿岸部で進められている大規模な復興工事は震災とセットのもう1つの災害であるという偏執的なちょっと怖い言い方もできてしまいます。でも実際に、2015年10月に私が気仙沼に初めて訪れてから、家を出て町を歩く度に建物が取り壊されている様子を見てきたので(区画整理・かさ上げするために対象エリア内で残った建物は除却する必要がある)、そんな感想を持ったのも事実です。

コーンの用途を考える

すこし話題が偏ってきましたが、カラーコーンは記事の一番上の写真では歩道部分と工事部分を区切るものとして使われていて、一般的には、人が立ち入ってはいけない場所に置かれたり、自転車を駐輪できないように置かれたり、車が侵入しないように置かれたりするものです。しかし、用途についてはそれ以外にも生まれそうな抽象的な形をしていますし、用途とは違う使い方による町の中の出来事が増えることでカラーコーンの使われ方が変わっていく。まるでテーブルの脚の部品として作られたものが工事現場の侵入禁止を示すツールとして転用されているような状況になっていくとしたらそれは面白い。

エントロピーってなに?

テネットの冒頭ではエントロピーという言葉がたくさん出てきましたが、どうも本来の意味では使われていないようです。この映画で言うエントロピーは、僕は出来事とも言えるかな、と思いました。「What happens happens. (起きることが起きる)」というセリフもありますが、これまで起きたことやこれから起きることがそのインパクト・量によって過去の認識にも影響を与えて、用途が変わる。スパゲティの乾麺を短く細くするとサラダの具材にもなる。出来事のローマ字表記「dekigoto」。接頭語の「de-」は「下に(down)」という意味を表しますが、dekigotoは現在→過去の認知に関わる言葉なのだと気づきました。できごときごとは、dekigoto & kigoto。kigotoってなに、、?

コーンの屋台によって生まれた出来事

まあ、このような意図があったとしてもなかったとしても、お菓子屋さんの前で振舞われるコーヒーは美味しいものです。やたら赤信号の時間が長い交差点の手前の場所なのですが、信号待ちの車の方にもコーヒーをお届けできました。カラーコーンがあったから屋台を作れたし、その上でコーヒーをいれることができました。こういったことを繰り返して、あわよくばメディアで伝搬して、世の中のカラーコーンの用途が入れ替わっていったらすごいことだなと思います。まずは気仙沼の八日町では「カラーコーンってテーブルの脚だよね。」みたいな認知の反転が生まれますように!

よしかわこうじ

よしかわこうじ

1985年東京生まれ。スタジオまめちょうだいという建築ユニットをやっています。今は岩手県に住んでいてお隣の宮城県気仙沼市でまちづくり・建築の仕事をしています!

Reviewed by
ばりこ

都内に住んでいると、町がアップデートされるというよりも
ガラリと姿を変えていることが多く、
その時代や人々のニーズに合わせていくことに些か寂しさも感じていました。
復旧というのは、無理なく、昔と今の歯車が合致する方法なのかも。
カラーコーンの"出来事"は、その差で生じた現象だとすると
出来事には凹凸がある気がしてきました。

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