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2F/当番ノート

できごときごと(5)出来事の風景

当番ノート 第53期

これまで「出来事」の意味を模索するような記事を書いてきましたが、これ以上この言葉を広げるエピソードをつづらずに一つの着地点を探すことにしますね。まとめると、出来事は目的と結果が異なることで生まれる。習慣化されている人の営み。出来事によってできることは、モノの用途・意味が変わること、過去の認識が変わること、日常が少し変わること。(テネットと出来事を結び付けたのはエキサイティングだったなあ)

私は建築ユニット・スタジオまめちょうだいとして、出来事の風景と呼べるような空間を作っていきたいです。スタジオまめちょうだい、実は2人組で、2011年に墨田区で自分たちで使うためのプレス工場を改装したシェアアトリエ兼イベントスペースを作ったところから活動が始まりました。

墨田区のこと

float(撮影・高田洋三)

東京スカイツリーがオープンしたのは2012年5月ですが、その半年以上前から町に住んでみて分かったことは、墨田区の下町の風景が再開発によって大きな変化を迎えていること、また周辺に「オルタナティブスペース」と呼ばれる拠点が多数存在し、今も増え続けていることでした。スタジオまめちょうだいでは、再開発による都市の更新とは別の、町の風景の更新方法を模索していました。その一例として集合住宅の一角を改装した「あをば荘」は、その存在がきっかけとなり集合住宅全体の空室率を徐々に下げ、同じ建物内に空きテナントを活用した新たなスペースが生まれていきました。

あをば荘(撮影・高田洋三)

ハードの設計だけでは得られない豊かな空間を「出来事の風景」として、改装の過程で様々な人たちを巻き込みながら、可能性の種をまくように設計活動を行ってきたまめちょうだい。以下、わざと難しい言葉を使ったような読みづらい文章ですが以前書いた文章を引用します。

使い手によって空間の意味付けが更新されること、空間によって使い手の動きに新たな意味が加わることは、「出来事」によって引き起こされる。想定していなかった使い手の動作や空間の使われ方が起きるイレギュラーな事態を「出来事」の表出とするなら、町はその連続で風景を変えていると言えるのではないだろうか。(中略)使い手と設計者が協働し、建築や町を可塑的なものと捉えて空間の意味付けを変えていく。形を変えていく建物とその使い方を変える人々。そこに見えてくる建築の正体を、人や建物の動作(ふるまい)の変更履歴である「出来事の風景」と呼んでいる。

http://bunka.aij.or.jp/2016/pp/1900/

手前味噌ですが、変更履歴という言い方はおもしろい! 私が町を見て面白いと思うのは、誰が何を修正したか分かるようにコメント履歴を表示しているワードデータを見ている感じに近い。wikipediaにもあるっけ? 誰が何を大事しているのか、どこを譲れないのか、単なる文章以上の意味を持っているあのデータ。単なる風景以上の意味を持っている私が見ている町。

未来を見てみたい

できごときごとは、dekigoto & kigoto。de-kigotoは現在→過去の認知に関わる言葉、と以前書きました。私は出来事をもって町への見方を変えたいので、過去だけでなく、未来を占う言葉が欲しい。「来事」は中国語で到来という意味らしい。出来事&来時。できごときごとは、現在から過去を推理し、その推理をもとに未来を演繹する町の空間設計の合言葉なのだと気付きました。

プレミアムフライデーをやり続ける

2年前から月末金曜日に気仙沼・八日町でプレミアムフライデーというイベントを実施しています。働き方改革として国の施策の一貫ではじまったプレミアムフライデーに地方都市の一団体としても乗っかってみよう、ということで取り組み始めました。コロナのせいもあるのか全国レベルで死語となりつつあるプレミアムフライデー。八日町では一定期間おやすみしていたものの今も継続して実施しています。11月のプレミアムフライデーは11月27日(金)。なんと前回の記事で書いた「いい風呂の日2020」11月26日(木)の次の日です!

イベントが続くことで疲れることは疲れますが、このイベントもまた日常に寄り添う「出来事」の性質を帯びている以上は続けていきます。そして、この取り組みはこの場所の未来を占う設計行為でもあるのです。今、八日町の角地にある「菓子舗うつみ」という空き店舗を使って新たな場所を作ろうとしています。

八日町のT字路交差点
菓子舗うつみの様子

一方通行の先にある赤信号が長いT字路の交差点。店舗数が減ってきている八日町の商店街は、車通りが多く人通りがまばらな時間帯もあります。それでもこの場所ならではの出来事の風景が生まれると確信しています。それは、これまでの「出来事」を通した実感と「来事」の予感があるから。八日町に出来事の風景を新たにつくるというのと同時に、この交差点が昔から持っていたはずの本来の風景を取り戻すという感覚も持っています。私が働いている事務所は信号を渡った先にあります。菓子舗うつみの建物の角に鏡があるのが見えますが、これは通行人の方が交差点の信号待ちの時間に身だしなみを整えるためのもの。最近はそのように使う人も減ったような。この町の変更履歴を見つめながら、できごときごと。どんな場所にしていくか考えているここ最近です。

よしかわこうじ

よしかわこうじ

1985年東京生まれ。スタジオまめちょうだいという建築ユニットをやっています。今は岩手県に住んでいてお隣の宮城県気仙沼市でまちづくり・建築の仕事をしています!

Reviewed by
ばりこ

再開発と言われると、なんだか、街が変わってしまうのかという寂しさとともに新しい街になっていく楽しみな気持ちを感じます。
出来事は、そうだったものがそうじゃなくなる、という感覚が優しくて新しさを感じられる言葉で考え方なんだなと思います。
街の中のはなしだけではなくて、物事に対する考え方にも生かせたらなぁ。
楽しい5回の連載でした。ありがとうございました!

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