銀シャリのラジオを聞くともなしに聞きながら、ふたりは今、あの青いジャケットを着ているのだろうかと、ふと思った。いや、そんなわけない。音声だけなんだし、きっとトレーナーやらパーカーやらラフな格好に違いない。でもラジオブースを想像してみると、やっぱりふたりは青いジャケットを着ている。それ以外の服装が思い浮かばない。銀シャリといえば青のジャケット。青が板についている彼らが、少しうらやましい。
数年前、イギリスのキャサリン妃がロイヤルブルーのワンピースを着て歩いている姿をテレビで見た。真っ青より暗く、初夏の快晴の日、空の球面が一番盛り上がったあたりに溜まる深い青色の、膝下きっちりでそろえられたタイトなペンシルワンピースを着て、ゆるくウェーブのかかったブルネットの髪をかき上げながらはにかんでいる様子は、上品だった。それ以外、形容のしようもないほど。ロイヤルブルーは彼女のための色なのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
「ロイヤルブルーが似合ったためしがない。」
ダイニングに片肘ついて顎を乗せながらつぶやくと、
「ロイヤルブルーを着ようと思ったためしがない。」
と、母に一刀両断にされた。確かに。言いはしてみたものの、ロイヤルブルーを着ようなんて気になったのは一回きりだ。
それは一昔前の秋。その年はファッション誌がこぞってロイヤルブルーを推していた。アパレルも深い青、明度も彩度もそう高くない少し暗めの青色をここぞとばかりに打ち出していた。それに踊らされて青のニットワンピースを手に取り、鏡で合わせてみた。が。
「うわわ、し、失礼いたしました!!」
と、大きめの心の声で謝りながら慌てて棚に戻した。
びっくりした。似合わないというより、お呼びでない。なんか違う、ではなく根本的に違う。手を出してはいけない色。
それからロイヤルブルーは、苦手というよりは高貴すぎて手の届かない、もはや禁忌に近いような色になってしまった。憧れになってしまった。
いつか、年を経た先で、この憧れに手を伸ばせる日はまた来るだろうか。そんなことを思いながら、銀シャリのラジオを聞いている。