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2F/当番ノート

パステルなときめき。

当番ノート 第54期

眠りに落ちかけた矢先「あ、薬」と思った。寝る前のを飲み忘れていた。面倒なことを思い出してしまった。いい塩梅のまどろみ。これから抜け出すのは、億劫すぎる。いいやろ今日くらい。布団の中で丸まり、さらに丸まり、えいやと起きた。飲まなくても命には関わらないけれど、不調にはなる。

常夜灯にぼんやり照らされた3粒の白い丸を眺めながら、薬がもっとカラフルだったらいいのにと思う。黄色とかオレンジとか緑とか。以前、桜色とミントグリーンの錠剤が薬箱に並んだときはテンションがあがった。無機質な薬箱が一気にファンシーになってるんるんだった。実際飲み忘れも少なかった気がしている。

このパステルカラーというかミルキーカラーというか、桜色やミントグリーンといった淡い色合いが好きで好きでたまらない。むしろ本能的な愛しさすら感じている。

ソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」を観たとき、ワクワクドキドキが止められなくて、心臓がどうにかなるかと思った。パステルカラー全開なんだもの。お城の装飾、家具、ドレスや靴、はては出てくるお菓子まで徹頭徹尾、淡い色合いでまとめられている。ベビーピンク、ペールブルー、ミントグリーン、レモンイエロー。砂糖菓子のように脆く崩れそうで、でも可愛いしかない世界があった。体中の血管が拍動して、目の前はキラキラして。これが、ときめきなのかもと思ったりした。

じゃあこの世界に入りたいかと言われると、入りたくない。パステルカラーやミルキーカラーの世界は見ているだけで、きゅんきゅんするだけで十分。住人になってしまったら、そこは現実になり、たちまち夢は覚めてしまう。実際、淡い色合いの服も小物も雑貨も持っていない。パステルな世界は、ずっと憧れであってほしい。永遠にドキドキしたい、夢を見たい場所だから。

上峰子

上峰子

心象と印象。
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Reviewed by
雁屋優

パステルカラーの住人になりたいと願ったことがあった。
だって、あそこには、痛みも苦しみもない。ように見える。
ふわふわ、くるくると回る素敵な世界。
でも、私はもう知っている。
そのふわふわはループで、停滞を意味するんだってこと。
ふわふわにとらわれていたら、ある日世界に取り残されたことに気づいて、おそろしくて、やっぱりまたふわふわにくるまってしまう。
そうなったらもう抜け出せない。
痛みも苦しみもなければ、前進もなく、それは死んでいるのと同じこと。
パステルカラーは、甘い毒。
だから、夢見るだけでいい。

そんなのも、パステルカラーの似合わない私の恨み言といえるかもしれない。
ビビットな赤や漆黒、深いグリーンやブルーの似合う人になりたい今も、パステルカラーに癒されることはある。
桜の降り注ぐ道、おいしそうなマカロン。
毎日それらに囲まれているわけにはいかない。
私はお姫様でも、夢の世界の住人でもなく、現実を生きているのだから。
だけど、時折でいい。
パステルカラーにふわりと甘く包み込んでもらえたら、私は前に進める。
甘い毒と言いながら、手放すことなんてできないの。
少しだけ遠くから、夢を見させてね。

好きだけど、自分がそこの住人になりたいわけではない。
それが夢と現(うつつ)の関係性なのかな。

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