眠りに落ちかけた矢先「あ、薬」と思った。寝る前のを飲み忘れていた。面倒なことを思い出してしまった。いい塩梅のまどろみ。これから抜け出すのは、億劫すぎる。いいやろ今日くらい。布団の中で丸まり、さらに丸まり、えいやと起きた。飲まなくても命には関わらないけれど、不調にはなる。
常夜灯にぼんやり照らされた3粒の白い丸を眺めながら、薬がもっとカラフルだったらいいのにと思う。黄色とかオレンジとか緑とか。以前、桜色とミントグリーンの錠剤が薬箱に並んだときはテンションがあがった。無機質な薬箱が一気にファンシーになってるんるんだった。実際飲み忘れも少なかった気がしている。
このパステルカラーというかミルキーカラーというか、桜色やミントグリーンといった淡い色合いが好きで好きでたまらない。むしろ本能的な愛しさすら感じている。
ソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」を観たとき、ワクワクドキドキが止められなくて、心臓がどうにかなるかと思った。パステルカラー全開なんだもの。お城の装飾、家具、ドレスや靴、はては出てくるお菓子まで徹頭徹尾、淡い色合いでまとめられている。ベビーピンク、ペールブルー、ミントグリーン、レモンイエロー。砂糖菓子のように脆く崩れそうで、でも可愛いしかない世界があった。体中の血管が拍動して、目の前はキラキラして。これが、ときめきなのかもと思ったりした。
じゃあこの世界に入りたいかと言われると、入りたくない。パステルカラーやミルキーカラーの世界は見ているだけで、きゅんきゅんするだけで十分。住人になってしまったら、そこは現実になり、たちまち夢は覚めてしまう。実際、淡い色合いの服も小物も雑貨も持っていない。パステルな世界は、ずっと憧れであってほしい。永遠にドキドキしたい、夢を見たい場所だから。