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2F/当番ノート

ところで、

当番ノート 第55期

どうして昔から変わらず愛し続けているものと、飽きてしまうものがあるのだろう。人は変化していくものだと思えば、その矛盾も当たり前のことだとも言える気がしないでもないけれど。

大事な思い出こそすっかり頭から抜けてしまうのは、なんとも悲しい。だからせめて「今」を切り取りたいのだと、言葉を綴ったり、絵を描いたり、写真を撮ったり、残すことにこだわるのかもしれない。それが無駄だっていい。自分が残したいと思ったんだから。

マスブチ ミナコ

マスブチ ミナコ

現代アーティスト。生きづらい自分が死を選ばないような工夫をや思考を重ねて、過去も含めた人生を作り直しています。自分の欲しいものは世界のどこにもないので自分で作ると決めました。

幼い頃から好奇心が強く、やりたいことが次から次へと増えていました。覚えている限り最初に抱いた夢は「ピアニストと獣医師(兼業)」。蓋を開けてみると、Webデザイナー、イラストレーターなど興味を持てばとにかくやってみるようになり、見たことのない景色を見るために「深める」「広げる」にこだわらず波乗りできるアーティストに転向しました。

Reviewed by
かみはら えみ

ところで、わたしは仕事柄、誰かの声に耳を傾けるシーンが多い。それは、相手の話を傾聴しているようで、実のところは、自身と強制的に向き合う稽古みたいな動作になっていると感じる。さあ、いつも通り、冷静にテキパキと、このミッションを遂行しよう。なーんて、ぬるりと話を伺っていたら、思いがけないところでカウンターキックをくらうのだ。

「誰かの記憶に残る瞬間を、生み出せる人になりたい」
そう語る彼女は、少し照れくさそうで。それでも、他者に思いを伝えようと試みる姿は凛として美しく、画面の向こう側にいても分かるほどに、瑞々しく発光していた。
それを目にして“身震いするくらいには”わたしにも失っていないものがあることにホッとする。…いやいや、でもでも、危ない…手が止まってしまうじゃないかと、蓋を閉じて脳を動かす。

ひと段落つけて、マスブチさんの部屋の前を通ると、ドアの隙間から光が漏れていた。今週も出番がやってきたな、と覗く。みて、よんで、きこえたのは「おまえ自身から目をそらすな」という、地響きみたいなわたしの声だった。
はてさて。ヒトのコトに触れるのは、なんと苦しく、なんて生々しい己を引きずり出してしまうのでしょうかねえ。
あの日の、彼女の姿と言葉を、きっと、ずっと残したいのです、わたしは。無駄だったとしても、こうやって、ね。

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