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2F/当番ノート

怪談マイルール(彼女の場合)

当番ノート 第61期

わたしが電話で友人に怪談を話していると必ず言われるのが「あなたが怖い話し始めてから、バン、と壁を叩く音がする」という事です。のめり込んで話し続けてしまう事もしばしば、話を聞き終えた友人は口を揃えて

「話も怖いけど、それより壁を叩く音がバンバンバンバンと激しくなってる今が一番怖い」

と言います。今、バンバンって音、聞こえてないですよね?

こんばんは、オオタケです。今日は聞かせていただいた「アパートメントの体験談」を紹介させていただこうと思います。

わたしの友人にひらくちゃんっていう怪談が大好きな友だちがいます。わたしともよく通話や配信で怖い話をしてくれるんですが、彼女には絶対に守っているマイルールがあるんです。

『絶対に自宅では怖い話をしない』

わたしと怪談を話す時は毎回律儀に、カラオケやスタジオや公園に移動して電話してくれるのです。彼女の中で「自宅だけは絶対の安息地であってほしいから」という気持ちがあるのは勿論なのですが、それを強烈に意識した体験があるといいます。

ある夏の日、彼女はお姉さんの家に遊びに向かっていました。向かう道中も日差しが肌を照りつけて、たくさん汗が噴き出してくる。

お姉さんの家に向かって歩いている途中、怪談好きの友人たちで作ったLINEグループに動きがありました。

「聞いてほしい話があるんだけど、ちょっと後でグループ通話しない?」

彼女、是非話を聞きたくて、歩みが早まります。

お姉さんがいらっしゃい、と出迎えてくれてリビングで軽く雑談を交わすと、「ごめん、ちょっと友だちと電話したいんだけど、あっちの部屋借りてもいい?」とお伺いを立てます。いいよ〜と許可をもらって、いそいそと寝室の扉を締めます。

お目当ての珍しい話を聞いて満足し、「姉の家に来てるのでわたしはお先に」と通話を終了しました。部屋を出て、リビングでパソコンに向かって作業をするお姉さんに声を掛けます。「ごめん、来る途中すごい汗かいちゃったからシャワー借りていい?」「いいよいいよ、タオル適当に使いな〜」リビングから廊下を通ってお風呂場へと向かいます。

脱衣所に着いて電気を付けると、ふ、と電気が暗く落ちてしまいました。あれ、電球切れちゃったんだ、あとでお姉ちゃんに言わないと。そのままお風呂場に入りシャワーを浴びはじめました。

シャワーを浴びていると、リビングから音楽が聞こえてきます。どこかの国の民族音楽みたいな。お姉ちゃん作業BGMに流してるのか、と思ったものの、ここまでこの音量で聞こえてくるのはボリューム調整ミスっちゃってるな…これもお風呂上がったらお姉ちゃんに言わないとな、そう思いながらシャワーを浴び終えました。

浴室のドアを開けると、さっきのBGMは止まっています。あ、自分で気付いたんだ、良かった。リビングに戻りながら「お姉ちゃんー、さっき何か音楽流してた?あと脱衣所電球切れちゃってたよ〜」と声をかける。するとお姉さん、

「音楽なんかかけてないよ」

そう言うんです。え、だってなんか民族音楽みたいなのが爆音で…そう言う彼女にお姉さんは続けます。

「ひらく、あんたさっき隣の部屋で、怖い話してた?」

彼女びっくりしてしまって。通話はイヤホンでしてたし、彼女は聴くだけで自分が話したりもしてない。困惑する彼女に「脱衣所いこ」とお姉さんはお風呂場に向かいます。

後を追ってお風呂場に着き、お姉さんが脱衣所のスイッチを押すと、問題なく電気が付く。

「あれ、わたしスイッチちゃんと押せてなかったのかな」

「そうじゃなくてさ」

お姉さんが向き直る。

「あんたがさっき寝室から出てきてお風呂場に向かう途中、お風呂場まで付いてた電球が、あんたが通った端から全部勝手に消えてったのよ」

だから、あんた怖い話でもしてたんじゃないかと思って。ひらくちゃんも勘が強い子なんですが、お姉さんも同じく勘が強いんです。

びっくりしたと同時に、あれ……と気付く。ていうか今日聞かせてもらった珍しい怪談、アフリカの部族の呪術にまつわる話だった。

「とりあえず、今後うちでは怖い話禁止ね」

そう言ってお姉さんはまたパソコンへと向かっていきました。彼女ゾッとして、それからより一層、『自宅では絶対に怖い話をするのはやめよう』と心に決めたそうです。

こんなふうに、めちゃくちゃ怪談が好きでも、心に決めた特殊なルールがあったりするのは、非常に興味深いなと思います。わたしは家でよく話しますが、何かルール……タバコをよく吸う事ですかね………

ずっと怪談をやっていると、上手く付き合う方法として「ご飯を食べながら聞く」「やな空気になったら柏手をパァンと鳴らす」「日本酒をちびっと舐める」「お塩をちょっと舐める」「お水をちょっと飲む」「鏡を伏せる」などなどいろんな方法を教えて頂きましたが、怪談と付き合う際には、なにかひとつお守りみたいなルールを持っておくと、より仲良くやっていけるかもしれませんね。

それでは、また。

オオタケ

オオタケ

怪談収集家。怪談・奇談・怖い話をジャンル問わず収集し、自らの体験談や収集した話を配信やイベントで語る。また語り手への怪談提供も行っている。お化け屋敷に入れない。

Reviewed by
荒々 ツゲル

「おそろしいなにかを呼び寄せてしまうかも・・・」と不安を抱いてもなお、怪談とお近づきになろうとするのがやめられない。安息の地が脅かされそうになっても、やっぱり気になって気になって仕方ない。
怪談との付き合い方を模索する過程は、どこか人付き合いを考えることにも似ていると思う。私たちは、自分の中で起きている物語以外は想像で補うしかないから。優し気で穏やかそうな雰囲気の隣人と出会ったとして、その姿は表面上だけで、もしかしたらその人の家の冷蔵庫には、夜な夜な収集している動物の死骸が入っているかもしれない……のがこの世界なのだ。
他人の本性は見えないから恐ろしくて、でも他人と繋がらずには生きていけない。そんな社会に生きる私たちにとって、怪談は、世界との距離のとり方を思い出させてくれるコンテンツだといえるんじゃないか。
私も記事のひらくちゃんさんのように、自分を守るためのルールを維持しつづけなければと思う。「自分のすべてを明け渡してはダメ、テリトリーは自分で守るものよ!」と。

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