当番ノート 第25期
その夜は今年一番の冷え込みだった。 氷のように冷たい雨は夕暮れどきからみぞれになり、夜半過ぎには雪へと変わった。 凍て玻璃の外は群青いろではなく、こっくりと塗り込めた漆黒の闇だった。その墨いろの中を、羽で撫でるように軽やかな白雪が舞うのだった。 こんな夜は雪が音を吸い込んで、自分以外の生き物が滅んでしまったような錯覚に陥る。 魔女はしんと静まりかえった雪の夜が好きではないらしかった。 …
当番ノート 第25期
[男1は動きをとめる] いまね、ぜんぜん違うこと考えてる がまんしてんの? うん ははっ、 なに考えてんの? え? なんだろ、ウクライナ情勢 なにそれー? なるべく関係ないこと考えないとダメっぽいんだもん 社会派じゃん こういうの社会派って言うんだっけ たぶんね この分だと朝になるころには、どっかのコメンテーターくらいにはなってるぜきっと かもねー &nb…
当番ノート 第25期
はじめて文章を書いて本という形で世に出そうとしたときに相談に行った人は、開口一番「やめておいたほうがいいよ」と言った。「ひとたび書いた文章が世に出ると、あなたの記憶も固定されてしまう。書かなかったことは、自分の記憶からもこぼれ落ちていくよ」と。 その忠告に反して私がはじめての本を書いたのは、私が旅先で再会した友人たちの言葉を届けたかった人がいたからだ。それは「10年後、ともに会いに」という本になっ…
当番ノート 第25期
これからどうしようかなぁと、考えています。 このアパートメントの話です。 1月上旬、アパートメントの管理人である鈴木悠平君からFacebookのメッセンジャーでこの連載の話をもらいました。あのアパートメントの話しが私の元に!なんとも嬉しいお話。しかしまあ毎週書けるだろうかとか、書くのは得意ではないなー、でもやってみようかなとか、いろいろな想いが頭の中を駆け巡ったもののすぐに一周して、悠平君が今私に…
当番ノート 第25期
*** 青い背表紙を撫でるのは、白く細い指。 *** 私が魔女に初めて会ったのは、私がまだ十二の夏だった。 新しい「父」と、「父」との間に新たに生まれる弟か妹を身ごもった母親の邪魔をしないために、父親の知り合いの伝てで紹介された彼女のもとにひと夏の間世話になることになっていた。 数枚の着替えと本、学校で使う教本や筆記帳だけを携えた私は街の外れで車を降ろされた。 「この地図に行き方は書…
当番ノート 第25期
いちご、 好きだったな スーパーの青果コーナーで、 綺麗にパックされたいちごの前に立っている 買ってもひとりじゃ食べきれないし、 それなりに高いし ああでもひと齧りしたいな いちごいちごいちご えっとまあいいや、他のものカゴにいれてからまた来よう 肉とかたまごとか缶チューハイとか リズムよく手にとっているうちに、いちごのことなんかすっかり忘れてしまった。 …
当番ノート 第24期
アパートメントの連載も早いもので、今回で最終回。この2ヶ月は、毎週締切に追われているうちに、あっという間に過ぎていった。 連載の文章を最初から読み返してみる。書きたかったことはどれだけ書けただろうか。高校入学後のこと。浪人中のこと。早稲田での学生生活。卒業式に父ちゃんが上京して、友達を交えてみんなで飲んだこと。書きそびれたこともたくさんあったけど、なんとか無事に最終回を迎えられてほっとしている。 …
当番ノート 第24期
他愛もなく わたしはひどく脆い 真っ暗なわたしの部屋 黄緑色の灯りが ひかえめに点滅している 布団の中にもぐりこみ その声を待った いつのまにか 眠りに落ちて朝が来る 曇った窓 そこによく指で絵を描いた はじめて買ってもらった12色のクレヨン オレンジ色ばかりがみるみる小さくなった 不幸なとき 幸福だったときのことを思い出す 心地よくさせてくれるのは 雨の音と匂いだけ 他愛もなく あなたたち…
当番ノート 第24期
今回で連載も最後になりました。毎回〆切ギリギリまで入稿を遅らせ続け、担当の方へはご迷惑ばかりお掛けしてしまいましたが(涙)、、こまめに思考を言語化する習慣をいただきこのような機会に感謝しております。そしてなにより毎週書くということがいかに大変なことなのか身に染みております。(笑) さて、手前みそですが以前に少しこちらでご紹介したこともあるノルウェーのデュオ・ユニットPJUSKとオーストリアの音楽家…
当番ノート 第24期
「音楽があなたにとっての味方でありますように。」 これは私が番組で必ず最後に言っている言葉である。 しかし、いつこの言葉を考えたのかは全く覚えていない。 気づいたら言っていた。本当にそうなのである。 ラジオDJとしてこの言葉を発してきて、 多くの人から「この言葉が大好きです」と言って頂いた。 この言葉には様々な思い出がある。 あるミュージシャンはゲスト収録の時に、この言葉の後にスタジオの中で涙を流…
当番ノート 第24期
19歳で上京してから、8年経つが、いまだに一人暮らしをしたことがない。予備校時代の下宿から始まり、大学の寮を経て、今の墨田の長屋に至るまで、ずっと誰かと共同生活をしている。今まで家賃が3万を超えたことはない。経済的にも助かるし、周りに人がいる生活は単純に楽しかった。 そんな中でも、一番思い出に残っているのは、早稲田の学生時代に2年間暮らしたシェアハウスだ。大学から徒歩3分、都電荒川線早稲田駅の目の…
当番ノート 第24期
さすがに一日に二回も面接があると疲れる。家につくなりすぐさまベッドに横になった。 何もする気になれず、スマフォの画面をただいたずらに眺めては、天井の薄いなみなみの模様に目をやり、てきとうな一点を見つめていた。 ふと、スマフォが光り、一通のメールが届いた。今朝、受けてきた会社だ。 「・・・・残念ながら今回はご希望に沿えない結果となりました。今後のご活躍をお祈り申し上げます。」 30社以上受けていた駒…