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2F/当番ノート

よだれの尻尾

当番ノート 第25期

 

鏡を見ている

ちがうか

 

鏡にうつってる私をみている

 

そういう観点からいくと私も、あの人にとっては鏡みたいなものなのかもしれない

あの人は私を見ているようで、私を見ていないんじゃないかと思うことがある

あのひとはあのひとを見ているんだ

目ん玉が、ひっくりかえったらいいのに

 

それでも私は、まぬけにも化粧をしている

 

ほんとうはもっと質問してほしい

わたしがあの人に
どんな映画が好きなのかと聞くとき、

ほんとうは私の好きな映画を聞いてほしい

わたしがあの人に
子どもの頃、両親と行った旅行のことを聞くとき

ほんとうは私の家族のことを聞いてほしい

 

あの人に聞かれたときの答えかたは、

もう何度も頭のなかで練習したし、

う、ち、の、お、と、お、さ、ん、わ、ね、

という動きをしたいと、わたしの口は訴えている

用意されたことばたちは、控え室でそわそわしている

 

メイクアップされた顔と私は、
彼の指定した駅へむかう。

 

わたしは引きずって歩いていく

それが片足みたいなものなのか

ロープでくくった重たい荷物みたいなものなのか

あまりわかっていない

どちらかといえば、

荷物みたいなほうがいいな

 

砂浜についたわたしの足あとを

あとから付いてくる荷物が

ザーっと消してくれるから

砂浜なんてないくせに

 

 

きみはどんな映画を観るの?

 

と、ふいに聞かれた

わたしは驚いてしまって、

もごもごとしてしまって、はっきり発音することができなかった。

 

虚しかった

 

もしかしたら、

わたしが引きずっているのは

例のことばたちなのかもしれない

 

重さもない

感触もない

必要もないものが引きずられていく

 

冷たい、冬のコンクリートのうえで

 

 

 

shippo

つかにし ゆうた

つかにし ゆうた

【ppoi 次回公演】

未定です。
2016年になってしまいそう。

Reviewed by
暁月 上ル

「お互いが意識しないとき、それは“会った”ではなく、“見た”だ」という言葉を、これを読むたびに思い出す。あなたは彼と、彼女と、あの子と、あいつと、きちんと“会って”いますか?

「目ん玉が、ひっくりかえったらいいのに」

そう思いながらも、わたしを呼び出すあの人に、わたしはいつも“会い”に行く。話したいことを、伝えたいことを、聞きたいことを、聞いてほしいことの答えを、ぜんぶ用意して

そうして“会った”あと、用意した言葉はガラガラと虚しく音を立てて崩れ落ちていく

掴んでも握っても、手には何も残らない。そんな経験を、あの人で、した

つかにしさんのノートは、いちいち私の心をえぐる。あぁ、あの人、元気かな

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