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2F/当番ノート

朝、指からさめて

当番ノート 第25期

 

 

ティーンズをターゲットにした

女性ボーカリストの曲を聴いている

聴いているというか、見ている

 

なんでもない平日の、

なんでもない夜に

 

テレビと私

別に話したくないけど、間がもたなくて たらたら話す友人と

聞きたくもない話を、それでも一応うなずいたりしながらやり過ごしている私、みたいな

そんな感じだ

 

つらい恋の体験談みたいな歌詞で

半べそかきながら、その女性ボーカリストは歌っている

 

あなたに会いたいというようなことを

手をかえ品をかえ

中高生にむけてうったえている

よくもまあ、

こんなに綺麗にことばを加工できるものだね、ただの別れ話じゃんね

 

私は缶ビールを飲みながら、

スーパーで買ってきたお惣菜をつまんで

泣きたいのはこっちだよと思っている

 

おからに、ひじきとか、にんじんとか

春が近づいた記号として入っている菜の花とかが混ざっているお惣菜

 

 

私は綺麗な野菜が好きだ

オーガニックみたいなやつじゃなくて、

農家のおじさんの笑顔と一緒に写っている、ごつごつした元気なやつでもない

農薬をふきかけて

みんなきちんと同じ形をして、

きちんと棚に並んだ野菜が好きだ

売れてる子どもタレントみたいな野菜が好きだ

 

きっとこの女性ボーカリストも同じだろう

インスタグラムでそれっぽい写真を撮る女の子もきっと同じだ

私も、そういうことがしたいと思うことがある

 

よしやろうと思ったこともある

でも誰も私の生活を見たい人なんかいないだろうなと思うと、なんとなくしょげて、ふんぎりがつかない

2ヶ月に一度、

実家の母親に電話で伝える近況報告でじゅうぶんな気がする

うん、元気だよ。お母さんは?  そう。うん、うん。

 

明日も化粧をして会社に行く

自分が気に入っているというより

無難だろうなと思う服しか買わなくなった

 

強い明かりをあてて

肌を綺麗にみせる女優さんみたいな

ほんとうは汚いんだけど、

どうにか綺麗にみせること

毎日がそういうことの連続です。

 

 

あの女性ボーカリストの曲はいつのまにか終わっていた

缶ビールは、もうあまり飲む気がしない。

 

箸でつまんだ菜の花を、

テーブルの上に落としてしまった

おからにまみれた、汚い菜の花

 

指でつまんで

ティッシュにくるんだ

子どものころ、死んだ金魚を埋めたときのことを、なんとなく思い出した

 

指についたおからを、

綺麗になめてやる

だれに見せるでもない指

 

自分のためにだけ

なにかを綺麗にするのは久しぶりかもしれない。

 

 

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つかにし ゆうた

つかにし ゆうた

【ppoi 次回公演】

未定です。
2016年になってしまいそう。

Reviewed by
暁月 上ル

なんでもない平日、なんにもない夜、テレビからダダ漏れる何度もおなじ言葉を繰り返す流行りの歌、あなたに会いたい?ありきたりだね。と、つまみの惣菜と缶ビールが不味くなる

でもほんとは、憧れていることを自分でわかっている。流行りの歌、オシャレなインスタグラム。けれどハッとする。私の卑屈なバックグラウンドが頭をもたげる。誰が私を見るっていうの?

惣菜のついた指を綺麗に舐めた。その指が、女の刹那を、悲しい嘘を、疲れた吐息を、昨日乞うた愛を、見えぬ明日を、空っぽの体を、固まった心を、ひととき柔らかくほぐす

“私”はきっと《綺麗》に憧れている。それでいてきっと、それを自分には不相応だと思っている。いるよね、そういう女の人。怖がらないで、深呼吸して、前へ攻めてゆけ

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