当番ノート 第23期
僕は散歩が好きで、昔から暇さえあればあてもなくふらふらと道を歩き回っている。あてもなく散歩をしていると見知らぬ道を見つける。理由もなくその道を歩いてみることにする。見たことのない景色に出逢う。見たことのない家や人々の生活が目に映る。見たことのない植物や昆虫に出逢うこともある。空はいつも違う顔をしている。同じ種類の草や木や虫でも、それぞれに違う顔をしている。そんな当たり前のことを眺めるのが好きだ。 …
当番ノート 第22期
Simplicité:(vieilli) Honnêteté naturelle, sincérité sans détour. シンプルであること。女性名詞。「サンプリシテ」と読む。 古フランス語には、自然に備わっている正直さ、真っ直ぐな誠実さ、という意味が含まれていた。 第9回目にして最終回である今日は、概念的なお話です。 伝わりにくいかもしれないけれども、私が最も大事にしているイメージ、一番…
当番ノート 第22期
そして生活は続きます。生活のなかで100年が経ちます。トーキョーは光の街。わたしが死にます。大往生です。いい100年だったと振り返る。おおむねいい100年だった。 というのはもちろん嘘で、いまは2015年9月の終わりのほうの夜。高校生のときからの愛媛の友だちと、愛媛とトーキョーのあいだにある夢みたいなところに来ています。夢にはよく、行ったことのない、ほんとうには存在しないだろう景色が出てきて、…
当番ノート 第22期
「好きなところをお互い10個あげてみよう」という提案に「恥ずかしいから内緒」と逃げたのは、6個目あたりで呂律が回らなくなる様が恐ろしかったからだ。 なぜ、 あなたは今道すがらコンビニに入り、なぜその大きさのそのお菓子を手に取り、なぜその値段を安いとも高いとも妥当とも許容し、なぜあの時間にそれを食べ、なぜその時全てを食べきらず、なぜ次の日は別のお菓子を買い足し、なぜ3日後にようやく全て食べきったのか…
当番ノート 第22期
#8 認識とイメージ 金木犀の季節だ。どこを歩いても甘い香りが漂っている。つられて昔のことを思い出しそうな気もするけれど、毎年のことなので特に何かと強く結びついているわけではないらしく、ただ初秋の集合体みたいなものがドアの向こうまで来ている気配だけを感じる。それは遠慮深いらしい。 視覚や触覚に比べて嗅覚だけを直接表す形容詞は少ないように思う。ラベンダーの香りやシナモンの香り、のといったように固有の…
当番ノート 第22期
2ヶ月なんて本当にあっと言う間。 今回で最終回。とても寂しい気分です。 最終回の今日は、「絵を描く」という行為そのものについて考えてみようと思います。 「絵を描く」という言葉は色々な場面に使われているような気がします。例えば「夢を描く」という言葉があるように、未来の姿や物事を想像して絵を思い描いたり、目標なんてなかったとしても明日の仕事の事だったり、あーなったらどうしよう、こうなったらどうしよう、…
当番ノート 第22期
2010年3月25日の卒業式の朝、 小雨が降る中、 僕は早稲田大学、大隈講堂前の広場で傘をさして 立っていました。 34歳になっていました。 3浪2仮面浪人し、入学して中退、復学と、 高校卒業から16年もかかってしまいましたが、なんとか早稲田大学の卒業式にたどりつくことができたのです。 僕は自分の夢を演説しようとしていました。 誰かに求められているわけではありません。 でも卒業式に出席するだけでは…
当番ノート 第22期
コラムもどうやら、今日で最後のようです。 来週が10/1になるため。 私はここでお別れとなる。 最後に何を書こうか考えてた。 まず、これから先のブログは、 http://kokisugita.com/ で書いていくので、たまには観てやってください。 (いちおう、宣伝) あなたは、「それは絶対、不可能だ」と人に言われた時、どうしますか? 1、挑戦しますか? 2、やめますか? 私はどちらかというと、「…
当番ノート 第22期
Bijou:ビジュー、アクセサリー、身につけるもの. 絵画や彫刻において、伝説上・歴史上・神話上の人物と関連づけられた持ち物を「アトリビュート」と呼ぶ。 額に三日月を乗せていたら狩猟と貞潔の女神アルテミス。 天国の鍵を手にしていたらイエスの弟子、聖ペトロ。 大きな袋を持った太鼓腹のおじさんは、唐時代の仏僧布袋。 アトリビュートは西洋美術の用語だけれども、観賞者が画中の人物を特定するアイテムとして、…
当番ノート 第22期
– – – – – – – – – – – ◆前回までのあらすじ バーの片隅でわたしは作中のわたしの架空の姉に説明する。地震があったことについて、どうして書くのか。書くしかないからか。書くしかなくたって怖かったのだということ。なにが怖かったのか。 – – – – – – – – – – – 止まらなくなってわたしは作中のわたしと架空の姉に話し続ける。どんどんグラスを開けていく。『ロッキー・ホラー…
当番ノート 第22期
たとえあの子が消えても、私がその子の代わりに愛されることはなかったのだろう。 とにかく嫌いなものが多いと非常に生き辛い。 思春期の私といえば今に比べて「嫌い」が多く、また周りも等しくそうだっただろう。いろんなものや人を、容易に許せない。顔が、声が、態度が、話し方が、先生に褒められるあの子の得意顔が、彼の染めた髪が、規則に従順な彼女の長いスカートが、彼の好きな彼女が、みんな「嫌い」塗れである。他者に…
当番ノート 第22期
#7 夢の解釈について(2) 〈 私はある植物について論文を書いた。その著書が私の前にある。私はちょうど、一枚の折込みの色彩図をめくっているところである。植物標本集からとってきたような、乾燥した植物の標本が、一冊ごとにとじこまれている。 〉 これはフロイトが自身の見た夢として報告したものだ。この夢を見た日の朝、彼は「シクラメン科植物」というタイトルの、この夢の論文に関係するらしい書物を見たという。…