当番ノート 第21期
▼浦賀 なくしちゃったのね。 魔女は言った。 それで、南へ、来たのね。 声が出ないので、うなずいて答える。 ところで人魚はげんき? 不意をつかれた。少しためらったが、うなずいた。 げんきなら、だいじょうぶね。 魔女は微笑んだ。嫌な感じはしなかった。しばらく黙って、バスに揺られた。 あ、ここだわ。 魔女が唐突に声をあげた。 向こう岸に、行ってるからね。 言うと赤い帽子の魔女は私のほおにちょっと触れ、…
当番ノート 第21期
「私たちが日常生活の諸事にかまけている間は、その目覚めている記憶の視界は狭いものである。昨日や先月あるいは去年起きた出来事はこまごまと想起されようが、わたしたちの生涯のなかでははるか遠い出来事となると、もはや殆どわたしたちから逃げ去っているものだ。むろんそれらが起ったということは覚えてもいようし、どんな位置で、どんな連関の下にあったかも知ってはいよう。しかしそれらは見えないのである。 」(※1) …
当番ノート 第21期
いかんいかん ざくざくっと書きますね。 でも今日はなにを書こうかなー。 そうだ。 人と会うことについて。 それとその発展性についてかきます。 「世の中に 人の来るこそ うるさけれ とはいふものの お前ではなし」 大田蜀山人 「世の中に 人の来るこそ うれしけれ とはいふものの お前ではなし」 内田百閒 すごくキュートな短歌だけど、これを書き出しにします。 人と会うことの粋というか、キモがここにある…
当番ノート 第21期
じゅわわわぁぁぁ・・・ かたん さくっ、さく、 サラサラサラ さ、揚げたてですよー! ん・・・? あっ違います、鶏の唐揚げじゃないですよ! 本日のお夜菓子 ★ ドーナツ まあるいわっかの中を覗きこんだ外の世界は、なんだかとってもキラキラして見える気がしませんか? つい食べる前、こっそり穴を覗きこんで視界を見渡してしまいます。 同じ空間でも全く違う景色が見れてとっても楽しいの。 是非、こっそりのぞい…
当番ノート 第21期
倉庫とパッケージ、6。 旬、の話。 忘れないように努めていることは、 やがては忘れてしまう事であり、 思い出さないようにしていることは、 何かの拍子に必ず思い出してしまう事である。 この二つの事柄は、 或いは別々の倉庫に同じ名前で保管されているか、同じ倉庫に別々のパッケージで保管されている。 つまり、 記憶というものは僕たちの意思や考えだけでは完全には管理できないもので、その類似性が記憶の引き出し…
当番ノート 第21期
少し中休みとして周りの国々の話でも。 去年の夏はバルカン半島巡りをした。ベオグラードに始まり、サラエヴォ、ドゥブロヴニクと回った。当初は車で出発し、ベオグラード、サラエヴォ、ドゥブロヴニク、コトル、ティラナ、スコピエ、ソフィアと回って帰ってくる強行軍を計画していたのだが、免許の書き換えがうまくいかず結局空路とバスの旅になった。はっきり言って正解だった。 因みにルーマニア人はどこへでも車で旅行…
当番ノート 第21期
▼馬堀海岸 ひとりになってからというもの、ねむれない。夢を見て、疲れ果てて起きてもまだ二十分しか経っていないこともざらで、昼間も夜もそれは変わらない。目がさめて深夜二時過ぎに家の中をうろつくと、今度は人魚が起きてしまう。どうしようもないので、朝の暗いうちから浴槽に水をはり、人魚を泳がせる。疲れると人魚はそのうちねむる。私も、人魚のたらいの横でつかのま船を漕ぐ。しばらくして目をあけては、たらいの青く…
当番ノート 第21期
中島晴矢の展示「ペネローペの境界」を観た。 http://tavgallery.com/nakajima/ 展示について、気になったことを書いてみる。 展示の始めに「walk this way」という静かな映像作品があった。それは緻密な構築性を持っている。冷たい薄雲の空の下、荒廃した大地の中で生い茂る緑の植物と、整然と積み重なる巨大な黒のフレコンバック。そこを、静かに歩く赤い衣服を纏った白い肌の女…
当番ノート 第21期
七夕ですねー。 今日も書きます。 ちょっと急ぎめに、、 さっきまでパーリー建築のミヤハラくんにあっていました。 パーリー建築というのは、住む場所と食べ物を確保してもらい、無料で建築を作り続ける若者たちで、 いろいろな意味で最近、心からいちばん面白いと感じる方です。 彼と、墨田区にある実家のようなおそば屋さんで話していたことを書こうと思います。 このそば屋はカレー100円食べ放題、しかも総菜は無料で…
当番ノート 第21期
ピンポーン、ピンポーン、 はーい!あ、こんにちはーどうぞどうぞ上がってください! お待たせしてすみません!いまちょうどお客さんが来られてて バタバタバタバタバタ 「せみちゃーん!!いちごー!!」 いだだだだだ足踏んでる足踏んでる ・・・え?せみちゃん?ふふっ私のことです。 ケーキを切り分けながらゆっくりお話しますね。 ささ、どうぞあがってください! 今夜のお夜菓子 ★ ショートケーキ コポコポコポ…
当番ノート 第21期
倉庫とパッケージ、5。 ポケットには東京タワー、の話。 忘れないように努めていることは、 やがては忘れてしまう事であり、 思い出さないようにしていることは、 何かの拍子に必ず思い出してしまう事である。 この二つの事柄は、 或いは別々の倉庫に同じ名前で保管されているか、同じ倉庫に別々のパッケージで保管されている。 つまり、 記憶というものは僕たちの意思や考えだけでは完全には管理できないもので、その類…
当番ノート 第21期
ルーマニアのクリスマスは豚の解体から始まる。朝目覚めると村中の犬が吠え立てており、至るところから豚の叫び声が聞こえる。暫くすると5,6人の村の男衆が足早にやって来て、家の者に一言も告げず真っ直ぐに豚小屋に向かい、紐で縛った豚を引き摺り出す。豚は白い湯気を立てながら耳を劈く叫び声を上げ、必死に抵抗するも虚しく地面に倒される。首にナイフを突き立てられ、ものの数秒で死んでいく。遠くで聞こえる叫び声は断…