当番ノート 第13期
僕のアパートメントにトカゲが住み始めた。 月が出る頃に、トカゲが少女になる。 眠りについた頃に、うっすらと聞こえる。 静かに布団に入ってきた彼女が、僕の親指を口に入れ、音を立てずに舐めている。 朝になる。洗面所の鏡に写っている自分をみつめながら昨夜の夢を確かめる。 白い和紙に落ちた墨の粒のような、真っ黒な彼女の瞳が浮かぶ。 「夢、これはきっと夢だ」顔を洗いながら口にするが、僕は自分の親指の異変に気…
当番ノート 第12期
私にとって大切な一冊となった絵本「ずーっと ずっと だいすきだよ」 父が亡くなった時、傷心しきっていた私宛への 友人からのおくりもの。 ぼくと一緒に成長してきた かけがえのない家族である愛犬エルフィーが亡くなる。 好きだという想いを言葉にして伝えていなかったことに気づき 悔やむ家族たち。 その中で ぼくだけは、毎晩おやすみの前に大好きだという想いをエルフィーに 伝えていたからか悲しみも癒され な…
当番ノート 第12期
…ン 思えばこれまで、それなりの数は恋をしてきた。 結ばれた恋も、結ばれなかった恋も、 千切れた恋も、自ら解いた恋も、 …ポーン こうして並べて見てみると、どの恋もそれぞれ刃を隠し持ち、 輝いていた頃の思い出を抱きとめながら、皆同様に鈍色に光って見える。 …ピンポーン 全て輝いて見えたということを裏返せば、 どれも突出して光っていないとも言える。 差異が無いこと。 全部同じに見えること。…
当番ノート 第12期
※女性蔑視ととられかねない発言があることを自覚しておりますので、先にお詫び申し上げます。 先日、俺は20対20の合コンに行った。 まずは居酒屋和民。 俺たちの向かいに座る女共を見渡す。 左からべっぴんさん、べっぴんさん、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、オカマ、ブス、石原さとみ、ブス…… ……石原さとみ!!!! そう、なんとブスだらけの合コンに石原さとみが来ていたのだ。 しかも、俺の真正面…
当番ノート 第12期
僕たちは生まれたときから、そこにあるものが当然のように、 何の疑問も感じずに過ごしています。だって、それが当たり前だから。 でも、それって本当に当たり前のことなんだろうか? そういうことを日々思い、考え、疑問に思うわけです。 僕は自分を含めて客観的にモノを見ているようです。 それは良いのか悪いのかはわかりません。 社会という大きな枠組みもあれば、周りのコミュニティーという小さな枠組みまで。 そうい…
当番ノート 第12期
電車に乗る生活が日常です。 とくに、満員のぎゅうぎゅうの電車、というわけではありません。 ところで、ぎゅうぎゅう、ということばはいいなあと思うのが、 犇めくという漢字が、ぎゅうが3つも使われていて、そのようすとそっくりだから、 いいなあと思います。 そんな風に、どこに行くにも電車に乗るのが常で、 毎日電車でどこかに行ってます。 電車なんてものがなくて、みんなが一様に歩くのが常であれば、 きっと電車…
当番ノート 第12期
仕上げはお土産 できてしまった絵は、 発表します。 一枚の紙の中に、 今まで過ごした時間全部が詰まっています。 人生全部が詰まっています。 それはもう、なかなかすごいことなんだと思います。 いろいろあった中のほんの一部分が、 紙の上にでてきています。 旅のあとの、お土産話のようなものだね。 ……………. 最終回です。 最終的に文字がなくな…
当番ノート 第12期
彼女に出会ったのは今から5年程前。 初めて会ったその日から彼女の放つ何かに引きつけられ写真を撮り始めた。 目の奥に潜む脆さや闇のようなもの、屈託のない笑顔、芯の強さ 会うたびに 距離が近づいていくたびに 魅せる表情が変化していくのを感じていた。 はじめてだからこそ撮れる 緊張感のある写真 お互いに歩み寄りを重ねたからこそ撮れる写真 年月の流れの中で距離感と表情は変化し続ける それを残していくには続…
当番ノート 第12期
世界は毎分のように傷付いたフリをして、まやかしのような希望を抱きながら流転する。 光指す方向へと走るように生きてはいけない僕達も、 せめて誰かが落としていった光を辿るように生きることは出来る。 「あなたは、死んだのに」 みみこちゃんのその一言のお陰で、僕は大事なことを忘れていたことに気が付いた。 たった一日、物を見たり聞いたり考えたりするだけで 自分が死んでいたことを忘れるなんて、思ってもみなかっ…
当番ノート 第12期
俺はギャンブルの類は一切やらないのだが、競馬が好きだ。 スポーツとして観戦している。 というかスポーツ全般だいたい好きで、ぶっちゃけると競馬と野球と相撲に関しては、ロック音楽よりもよっぽど詳しいと思う。 だいたい家に帰るとロック音楽をほぼ聴かない。 ずっとライブハウスにいるので、もうそれでお腹一杯になるのだ。 レッドツェッペリンとローリングストーンズをちゃんと聴いたことが無い。 そういうわけで今日…
当番ノート 第12期
自分の育った街がどんどん変わって行く。 幼い頃からそこに存在したスイミングスクールが解体され、 パン屋は無くなりテナント募集の看板が貼られていた。 変化は悲しい面もあるが嬉しい面もある。 今までのものが無くなる寂しさもあるけれど、 新しいものが生み出されることに対してはやっぱり期待してしまう。 この事は街だけでなく、人にも当てはまる。 安定することでチャレンジをしなくなることが多い。 歳を重ねれば…
当番ノート 第12期
玄関を開けると、女性の手が目の前の塀から出ています。 わ、 と思って思い返してみたら、 前の日の晩に、真っ暗なアパートの廊下に黒い染みがふたつついてて、 なんだろうなあと思って触れたら柔らかくて、それをじぶんで塀の上に置いたのでした。 ああ思い出したと安心してその女性の手をそのままにして、 ぼくは近ごろ出かけたりしているのですが、 そんな安心した朝はもう一週間ほど前のことで、 いまだに玄関を開ける…