当番ノート 第40期
ふだんの生活を営むにあたって必要な言葉って、実はそんなに多くはない。 足す・引く・かける・割るさえ使えれば暮らしのほとんどは事足りて、高校のときに必死で覚えたサインコサインタンジェントと出くわすことなんてめったにないのと同じ。 たまに判断に迷うようなものもないわけじゃないけれど、そういうときはさしあたりヤバ〜イとかステキ〜とかの多義的な単語でぼやかしておけば、さしあたり話が途切れることはない。 し…
当番ノート 第40期
しおり【栞】 (「枝折」から転じて) ①案内。手引き。入門書。 ②読みかけの書物の間に挟んで目印とする、 短冊形の紙片やひも。古くは木片・竹片などでも作った。 し・おり【枝折】 山道などで、木の枝を折りかけて帰りの道しるべとすること。 きおく【記憶】 ①物事を忘れずに覚えている、または覚えておくこと。 また、その内容。ものおぼえ。 ②生物体に過去の影響が残ること。 物事を記銘し、それを保持し、さら…
当番ノート 第40期
「今回はどうしますか?」 ネイリストさんの問いに「最近、緑系が気になっててー、でも紫もいいなとか」なんて答える。 こちらを見て頷いた後、ネイリストさんは真剣な眼差しでわたしの手元を見て、前回のわたしのネイルを落とし始めた。 ネイルサロンは「本当に移り気だね」なんて言われないところがいい。 美容院では、やってみたい髪型がコロコロ変わるわたしに、担当さんが毎回呆れて笑う。 そんなことを思っているうちに…
当番ノート 第40期
ハッピーエンドがいい。 めでたしめでたし、とか、その後2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、とか。 そんなふうに終わる物語なら、私は「シンデレラ」が一番好き。別にお姫様になりたいわけでも、今の暮らしに手を差し伸べてくれる白馬の王子と出逢いたい訳でもないけれど、わかりやすく幸せだし、何よりガラスの靴というモチーフが好きだ。 わたしはまだ20年とおまけの4年くらいしか生きていないけれど、それでも「め…
当番ノート 第40期
タイトルの「農業と芸術の交歓」から、思い浮かぶのは宮沢賢治かもしれません。仏教信仰と農民としての生活を起点に創作を続けた彼は、『注文の多い料理店』や『アメニモマケズ』など後世に残る芸術作品を生み出しました。一方で宮沢は1920年に国柱会へ入信します。その国柱会は戦前の国家主義を牽引する八紘一宇思想の形成とも絡み、その後の太平洋戦争へと連なっていきます。ただ留意しなければならないのは、八紘一宇という…
当番ノート 第40期
7月の半ばに、祖母が亡くなった。 日曜の朝8時過ぎに母から電話を受ける。 「急に心拍数が下がってて、いつどうなってもおかしくないみたい」とのこと。 こういうときのこういう言葉が持つ緊急性を家族がそろって掴みそこねているあいだに、波が引くみたいに、すーっといなくなってしまった。 まだ元気だった頃(といってももう10年以上前のような気がする)、 祖母はほとんど毎日デパートへ行き、洋服や食器、花器、食材…
当番ノート 第40期
しゃ・しん【写真】 ①ありのままを写しとること。 また、その写しとった像。写生。写実。 ②物体の像、または電磁波・粒子線のパターンを、 物理・化学的手段により、フィルム・紙などの上に 目に見える形として記録すること。 また、その記録されたもの。 たいしょう・じっけん【対照実験】 ある対象について 一定の因子の作用を明らかにする実験を行う場合、 これと別に、その因子を取り除き それ以外は全く同一条件…
当番ノート 第40期
赤信号になりそうなとき急げない子どもだった。 もちろん安全を考えたら走らないほうがいいのだけど、 なんだかいつも必死になれない自分を、少しずつコンプレックスに感じはじめた。 同じくらいのときから、薬も嫌いだった。 この小さな錠剤がどうかしてくれるとはとても思えなかったし、 薬を飲んで元気になることより、発熱や注射をがまんして、なんでもないように振る舞って皆に驚かれる方が好きだった。 体調を崩したり…
当番ノート 第40期
音のない海に潜る。 重力に身を任せながら、引き換えしようのないところまで、潜る。 自我さえない深海で、研ぎ澄まされた思考だけが光のように駆け巡る。 目が醒めるように、魔法がとけるように、ふっと海から顔を上げると、そこには元通りの時間の流れがある。日常。浦島太郎のような気持ちで、想像より幾分か周回の多い時計を見る。 どこまでも集中しているとき、私はどこでもないどこかにいる。だれでもないだれかになる。…
当番ノート 第40期
8月24日から福岡の奥八女・笠原地区に滞在しています。ここで農業と芸術をつなげ、笠原という土地を捉え直すプロジェクトに参加しています。お米づくりを中心とした農業に従事しながら、新たな芸能を地元住民の方々、またこのプロジェクトの参加者とともに生み出す試みです。 ここでまた「芸術」と「芸能」というこの連載におけるキーワードが出てきました。前回は「『踊り念仏』から芸術と芸能の違いを見出す」とお伝えして結…
当番ノート 第40期
こんばんは。 突然ですけど、今晩お時間空いてます? 一緒に行きたいところがあるんですけど。 え?いやいや、美術館じゃなくて。映画館でもありません。 勘弁してくださいよ。すばらしき鑑賞体験てのは、美術館や映画館だけのものじゃないんですから。 今日は「CHAKRA」っていう南インド料理屋さんで、ミールスでも食べましょう。 今泉の、上人橋通りを少し東に入ったところにある、不思議なカレー屋さんです。 **…
当番ノート 第40期
わたくし【私】 ①公に対し、自分一身に関する事柄。 うちうちの事柄。 ②表ざたにしない事。ひそか。 内密。秘密。 ③自分だけの利益や都合を考えること。 ほしいままなこと。自分勝手。 じこ・しょうかい【自己紹介】 初対面の人に自分の名前・身分・経歴・趣味などを 自身で言い知らせること。 -『広辞苑 第七版』より抜粋 - 私たちはリアリティの構築に参画している。 とある芸術家が語っていた言葉が …