当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年1月22日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// ずいぶん前、「ずっと一緒にいたいから、変えて」と、相手にせがんだことがあった。 彼が生まれてから、家族で大切にしてきたことを。 後になって振り返って、 ひとの根底に関わるような大切…
当番ノート 第29期
ひとはいつもすれちがう。 瞬きの間に、すれちがう。 ことばは待ち合わせ場所だ。 絶対の目的地なんかじゃない。 重なり合うことなんてない。 イコールで結び会うことなんてない。 それでもどこかで会いたいと かすかなことばをならべたりする。 そのことばをまた、ことばでつないでいく。 あなたに、あなたに、つないでいく。 すこしでも、ちかづけるように。 いちばんちかくへ、いけるように。 そうして、あ、。 瞬…
当番ノート 第29期
窓の外からは、くすんだオレンジと赤の屋根が見えた。4階から広がる景色は開けているから、曇り空の白さが際立つ。打ちっぱなしコンクリートの壁の向こうに、大型スーパーの冴えない看板が見える。 「相変わらず暑いですね」私が声をかけると、「でも今日はだいぶマシじゃない? 今朝起きて『やったー涼しい!』って言っちゃったわ」とふみこさんが言った。 私はハッシュドポークをスプーンに乗せたまま、外をぼんやりと眺めて…
当番ノート 第29期
ラジオ聞いていますか? 車の運転の時ぐらいですか? 深夜にひとりの時、たまにですか? 私の家には、テレビがない。 もう5年ぐらいテレビのない家で暮らしている。 (一人暮らしの前は、シェアハウスで暮らしていたが、その家にもテレビはなかった。) 実家に帰った時や、近所の小さい居酒屋さんでテレビがついていると、ついつい見入ってしまう。 テレビが嫌いなわけではないけれど、ラジオが好きだ。 小学生の頃、私の…
当番ノート 第29期
ヒーローとは人を救うものである。と、我々は思う。ウルトラマンが怪獣の火から町を守るとき、仮面ライダーがダムの爆破を阻止するとき、スパイダーマンがビルから落ちる作業員を拾うとき、我々はヒーローをまなざす。それは憧れであったり、冷笑であったり、そうしたヒーロー達でも救えないものがいることへの非難であったりする。 ヒーローは強く、折れない。たとえ一旦折れても、不屈の意思をもって何度でも立ち上がり、我々を…
当番ノート 第29期
こんばんは。 あなたは、この1週間、空を何度見上げたかしら? 大学生のころ、よく読んだ詩の中に、長田弘さんのものがありますが 「最初の質問」という詩の冒頭は、 「今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。」 というものからはじまります。最初の質問の一番最初なのです。 それぐらい、空を見上げるということは、私たち一人ひとりが、 毎日を生き物らしく生きていくのにとても大切な…
当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年6月8日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 不意に母が、「死んだらどこに行くんだろうね」とわたしに聞く。 「もし天国があるなら、きっとそこはひとであふれかえっているね」。 空に手紙を書くとして。 はたしてわたしは何と書こう…
当番ノート 第29期
暮らしは嘘をつかない。 暮らしは裏切らない。 暮らしはいつも、正直にこたえてくれる。 窓を開ければ、あたらしい空気が吹き込んでくれる。 床を研けば、つやつやとひかってくれる。 洗濯をすれば、きれいにみちがえった布がわたしを包んでくれる。 料理を作り、口に運べば、きちんと腹が満ちてくれる。 わたしの作る料理は、 わたしにとても、おいしくやさしい。 喜びや安心は、自給自足して生きなければならない 、と…
当番ノート 第29期
暮らしのリズムが変わった。彼は毎朝起きると「あー幸せ」と言う。それから朝ご飯を作り、それをゆっくりと食べて、本を読んだり、美術館に行ったりしている。 私のほうは未だ存分に仕事が残っている。低気圧からくる頭痛と戦いながら、しぶとく明けない梅雨の空を恨めしげに眺めている。 最近、この家を離れることが、すんなり自分のなかに入ってくるようになった。この体調も気力も下がり気味な状況から抜け出せるのであれば、…
当番ノート 第29期
一人暮らしをして、2年ぐらい経過した。 はじめてこの家を見に来たとき、ここに住んでみたいな~と なんとなく自分が住んでいる様子が思い浮かんだ。 異性とお付き合いする時も、きっと、そう。 自分がその人とお付き合いしているのが思い浮かばないと、 なんだかしっくりこないなと思い、前に進もうとしなくなる。 イメージと違った展開が待っているかもしれないのに、 しっくりこないその先に、しっくりが待っていたかも…
当番ノート 第29期
怪獣、とは我々にとって何だろうか。子供のおもちゃ、恐怖の対象としてのモンスター、ラテックス製の着ぐるみを着た、おどけたキャラクター群・・・少し怪獣映画を知っている人なら、戦争のメタファーと答えるだろうか。 怪獣モノ、というジャンルには、時代や作品によってさまざまなバリエーションが存在する。かつてロマンポルノの製作者が、濡れ場さえあればどんなシナリオでもよい、と言ったという話があるが、怪獣モノもそれ…
当番ノート 第29期
はじめまして。今日から、まだ見ぬ、名前も知らないあなたに向かって 手紙を書くことにしました。でも、私はすでにあなたを知っているような こともあるでしょうし、あなたもはたと私とあったことがあるように思う かもしれません。 今、月齢5の月が南西の空に輝いています。しかも今夜は月のすぐ下に 明るい土星がランデブーしているのですよ。あなたの空には見えているかしら。 月は毎日、星の中を東へと移動していきます…