
たんこぶに擦り付けられたわさび
ロッカーの角に刺さったアイスクリーム
歯に芽吹いた苔
なぜかその言葉たちがずっと心に残って、その響きが全身の神経に行き渡る。もしかして自分って酷い言葉や酷い事が好きなのかな?最近それに初めて気づいたよ。今の今まで、自分はとっても優しい人だと思ってた。昔からただの酷い人間だったよ。誰よりも何よりも。

精神疾患、または超能力
最近俺に精神疾患または超能力が急に発現した。木々の声が聞こえるんだ。街のあらゆる木が俺に語りかけてくる。心ない声を。あらゆる木が俺を罵倒するんだ。臭い、気持ち悪い、変態野郎、などと。今日も晴天の空の下、仕事に向かう為トコトコと歩いていると、さっそく街路樹が次々と俺を罵倒し始めた。暴言の数々。家に帰れと言われた。ハゲとか、あと色々言われた。俺は言い返しようがなかった。全くもって俺は臭くて、ハゲていて、気持ち悪くて、変態野郎で家に帰るべき人間だったからさ。しかし最近は最短ステップで木こりに転職しようと思っているよ。来週にはたぶん木こりをやってると思う。
しかし罵倒されただけで木を何本も殺すのは人でなしのやる事だと思い考え直した。的外れの罵倒でも無いしね。なので俺は道を歩く時、リュックから彼らに見えるよう、チェーンソーをチラつかせる事にしたよ。
そしてあたかもチェーンソーが作動しているかのごとくウィーンウィーンブルンブルン言いながら歩く事にしたよ。
完

心霊と私
私は絵を描いている。とある町のはずれにあるギャラリーを長期的に借りていた。そこで私の個展、展覧会を開催するのだ。外観は木造だが、内部のギャラリースペースもまた、木造だった。白く最低限の加工がされた木材を使っているようだった。訳の分からない芸術家たちが3、4人いつも庭の四角い木のテーブルで何か話している。私は話には入れないなと思い、いつも彼ら、彼女らを横目で見るだけだった。どうしてそんなに芸術的なのか訳が分からなかったからだ。彼らは何となく、訳の分からない芸術家のオーラを纏っていたのだ。私はそれに憧れていたが、どうしてもそうなれなかった。芸術について訳が分かっておらず、理解が少なかったからだ。訳の分からない芸術家のオーラを纏った彼や彼女らは、経験や環境、もしくは勉強によりそれらを得ていてそうなのだろう。私は何も得ていなかった。絵を描いているのだが、私が描いているものはつまり、ステレオタイプな画家像への憧れだ。ただそれだけなんだ。つまり彼、彼女らへの憧れでもある。
関係ない事を話したが、そのギャラリーには作業スペースのようなある程度片付いた倉庫が併設されており、しばらくのその倉庫に数日おきに寝泊まりしてたまに自宅に帰っていた。しかしそこで寝泊まりするたび、おかしな事が、私にとって都合が悪い事が起こった。隅に置いたはずの財布など貴重品が入ったリュックが、見当たらないという事がたびたびあった。しかし探すのを諦め、少し外を散歩して戻ると、作業台の上にそのリュックはあった。または借りている倉庫の鍵を閉めるよう店主の女性に言われているのだが、その鍵が見当たらなかったり、鍵がうまく閉められなかったりした。その場合も少し外に出て戻ると、鍵はあり、または鍵が閉められるようになっていた。ある時は扉がどうしても開かず、部屋から出られなくなったりした。1時間ほどたつと、扉は開くようになっていた。
そのような時は決まってしばしば倉庫の高さ1m、長さ2、3メートルのガラス窓の向こうに、人の形をした黒い影が早歩き程度のスピードで何度か横切っていた。なんていうかこのギャラリー、倉庫は微妙に半地下になっていて、堀のような塀のようなものがこの半地下の部分をぐるりと囲んでいて、その堀の部分に人が歩けるぐらいのスペースがあるんだ。そこを歩いている人の形をした黒い影が、しばしば早歩きで横切っていたんだ。
これはきっと霊だ。霊、ゴーストだと思ったよ。リュックが見当たらないのも、鍵が閉められない、ドアが開かなかったりは心霊現象、ポルターガイストだなと思った。かなり怖いが、私はここに寝泊まりして展示を開く以外の事をする選択肢を考えるのがとても面倒だったので、そのままそこですごしていた。
あくる日、またもや窓に暗い影が見えた。なにやらいつもよりゆっくりと動いているように見える。わたしは何を思ったかすぐに窓にかけ寄り、ガラス窓をコンコンとノックした。黒い影に色々聞きたかったんだ。すると黒い影は反応してくれた。私はリュックが移動したりドアが開かなかったりはあなたがやっているんですよね?と確認した。すると黒い影が左半身だけ生身のようになった。何となく精悍な短髪の30代ほどの男性の顔だった。服は緩い布を巻いたようなそんな格好だった。右半身は未だ黒い影だった。そして実体となった左半身の左手で黒い影こと半分精悍な短髪男性はガラス窓を開けて
「いや、それは俺じゃない。」
と言いながら身を乗り出し倉庫に入ってきた。
めっちゃびっくりしたが、私は気を取り直し、
「私は、あなただとてっきり思っていたが、あなたでないならリュックや扉の心霊現象的なものはいったい何なんです?」
と聞いた。あなたは霊ですよね?と聞いた。
彼は
「いや、俺は霊だが、それも分からない。俺は知らない。」
と言った。おいおい、何で何も知らないんだ…霊なのに何で知らないんだよと私はひどく自分勝手な事を思った。
すると、霊は
「あの写真は私の祖国の写真で、祖国には妹がいたんだ。」
とその半地下の作業場に飾ってある写真を指差した。
以前からそこの半地下の作業場には壁にいくつか写真が飾ってあった。どんな写真が飾ってあるか今まで見た事がなかった。霊が指差した写真は、お城のような、古風な都市と手前に海が広がる夜の写真だった。ヨーロッパのようだった。気づかなかったが彼は、ヨーロッパ人だったのだ。
「妹とは5歳の時に生き別れになり、生きているうちに会えなかったのが心残りで仕方ない」
と幽霊は言った。私はとても悲しいなあと思い、どのように返事しようか迷っていると、霊はすでに窓の外におり、実体化していた左半身は完全な黒い影に戻り、私の見えないところに高速で移動してしまった。
その後作業をした後、店主の女性が降りて来た。ここに寝泊まりする時は、夜になるとたまに降りてきて私と少しだけ雑談をしていた。
私は店主の女性に今日起きた事、影、幽霊の話、幽霊その祖国の写真の話をした。すると突然女店主は作業場に転がっていた手のひらサイズの石を、思いっきりそのその写真に向けて投げつけ、額を破壊し写真をへし曲げた。
店主の女性は
「何だこんな写真!何だこんな写真!」と叫んでいた。
すごく怖かった。その後どうしたかまるで覚えて無いが、その後展示は結局せず紆余曲折あり人生で何も学ばなかった私はその何年後か、気づいたら冬の冷たい海に身を投げていた。私だけをつけ狙う棘のついた大きなキャタピラつき戦車から逃げていたんだ。どうしてそんな戦車のような高級なものが私だけをつけ狙ってくれるんだろう?と一瞬思ったが、とにかく逃げていた。それに棘が付いているからだ。ありとあらゆる物事、何一つ私に分かる事は無かった。そして埠頭に追い込まれて身を投げた冬の海、もう一巻の終わり、結局凍死するんだと思ったが意外や意外、どういうわけか海水がほんわりと温かかった。青く暗い海。視界が暗い青で、視覚情報からはすごく冷たさが感じられるのに、実際肌が感じる海水は温かくて奇妙だった。この後私はどうすればいいのか、全く分からなかった。
完

サメだらけ
まあまあ浅い、薄いスカイブルーに薄いエメラルドが混ざったかつ透明の緩い流れのある川のような池のような川はサメだらけだった。
ここまで辿り着くまで、半年かまたはもっと短く1ヶ月ほどだったか、私と父は2人で旅をしていて、私は道中ずっとオレンジジュースが飲みたかった。しぼったオレンジかしぼったみかんみたいな名前の500mlの缶のそれがすごい飲みたかった。
私たちはトラックに乗っていた。何も運んで無いのに、大きなトラックに乗っていた。父が運転してくれていた。私はそんな大きなトラックを運転できないからだ。旅の道中はほとんど荒野だった。タバコはどこでも吸えた。本屋もよくあり、よく父と私は立ち読みをした。温泉という名のスーパー銭湯にも行った。唐揚げ定食も食べた。でもずっと私は500mlの缶のオレンジジュースが飲みたかった。
私は父を尊敬していた。何を考えているのかまるで不明だからだ。それが敬意に繋がった。しかしながら、あるいはそのために、その考えを私は知ろうとしなかった。不明のままにしておきたかったのだ。でもずっと私は500mlの缶のオレンジジュースが飲みたかった。
道に迷う事もあった。そんな時は2人で一服した。でもずっと私は500mlの缶のオレンジジュースが飲みたかった。
そして長い旅を終えた。旅の中での思い出は、本屋で立ち読みした事とスーパー銭湯に行った事、唐揚げ定食を食べた事、タバコを吸った事、ずっと500mlの缶のオレンジジュースを飲みたかった事だ。
そしてついに地元に帰った。地元は様変わりしており、まあまあ浅い、薄いスカイブルーに薄いエメラルドが混ざったかつ透明の緩い流れのある川のような池のような、やっぱり川とも言えるような池を、腰くらいまで浸かりながら歩いていかないと私たちの住んでいる町に入れないようになっていた。トラックは駐車場に止めないといけなかった。父と私はやむおえず薄いスカイブルーに薄いエメラルドが混ざったような透明の川のような池に入った。するとそこは…
サメだらけだったんだよ!!!!
綺麗な白っぽい人間の背丈ほどの全長のサメが、その透明の綺麗な浅瀬にワラワラと泳いでいる。ポツポツと岩場があり、水泳帽を被った誘導員の男性が人をめったに襲わないサメだからゆっくり歩いて下さいと言っていた。ヒエ〜と思いながら、何とか歩いて、10メートルくらい行くと屋台がたくさん並んだ陸が見えた。お祭りのような雰囲気だ。
「お父さん、ついに渡り切ったね!」と私は父に声をかけると、返事がない。ものすごく不安になって浅瀬を見ると、父は静かにサメにかぶりつかれていた。私は心の中で、ウォォォォォお父さん!!!お父さん〜!!!と思いながら、と同時に今までで1番最高潮に、キンキンに冷えた500mlの缶のオレンジジュースを飲みたくなった。
父は少しバタバタした後とても静かにサメの全身に入っていき一瞬全く姿が見えなくなったが、すぐにまたサメの口から掘りの深い彫刻のような父の顔がヌッと出て来た。そしてヌルヌルと全身が出て来て、父は助かったようだ。考えてみたら父の身長と同じくらいの全長のサメが父を丸呑みに出来るわけがないものね。歯は意外と尖ってなかったのかな?良かった〜とホッとして、私は
「一瞬ヒヤッとした。大変だったね、屋台がたくさんあるね」
と言った。父は
「オゥ」
と言った。
何とかサメエリアを渡り切ったと思って屋台を見渡すと、サメにまつわる色んなもの、おもにサメの干物や、串焼きだったが、サメのぬいぐるみなども売っていた。知らぬうちに地元はわずかに浸水した浅瀬のサメの町になっていたんだ。ここは昔小学校があった場所のような気がする。
とにかく私はしぼったオレンジかしぼったみかんみたいな名前の500mlの缶のそれが飲みたくて自動販売機が無いかあたりを見回した。ぱっと見では自販機は見当たらなかった。
私は父に、
「お父さんごめん、しぼったオレンジみたいな名前の500mlの缶のやつが飲みたくて、ちょっとこの辺うろうろしてきますわ」
と言った。
父は「オゥオゥ」と言った。
完
