ギャラリー・カラバコ
今日ですべての額縁が埋まる。 うめる、という言葉はなにか空洞のようなものを、そうでないもので満たすことだ。 この鍵を持っているのが私だけだとしたら、「ギャラリー・カラバコ」の観客はわたしだけであり、 ふたつの作品がここにあるのも、この絵とこの文のあいだでどういうことだろうなあと考える私がいるからなのだろうか。 わたしは空っぽのこの部屋に入って、今まで考えたこともないようなことを考えてる。 それって…
ギャラリー・カラバコ
鍵を差す。 ぐっと押し込み、回す。 この鍵は普通と逆に回すように出来ている。 引き抜くと、ざらざらと内部の小さな門がひとつひとつ下りてゆくのがわかる。 「ラフカディオ・ハーン」 のことを教えて欲しいと外国人の友だちに頼まれたことがあった。 彼女は日本の幽霊について興味があったのに、アニミズムのことは解さなかった。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『耳鳴り』 『植物園』 『刺繍』…
ギャラリー・カラバコ
もう雨が降り続いて3週間になる。 窓の外の、トタンが鳴る音に耳が慣れて、すっかり聞こえなくなってしまった。 いつも以上に、鍵が手に冷たく、骨に響く。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『耳鳴り』 『植物園』 『刺繍』 『ノコギリ』 — 「発酵」 絵: 古林希望 文: カマウチヒデキ ーーーー 共通のタイトルだけを手がかりに2人の作家が絵と小説を別々に制作し、掛け合わせていく企画「…
ギャラリー・カラバコ
どこからかの帰り道なんかにふと視線を感じて見上げると、そこには月があがっている。 もうすぐ満月が近いのだなと思うとどきりとする。 また、あの場所に行けるんだろうか。 その心配も他所に、ポケットにはきちきちに冷えた鍵が沈んでいる。 考えたらわたしは、いちどもこのギャラリーに友達を誘ったことがない。 ひとりで訪れることしか、考えたことがなかった。 鍵を差し込む前に、ノックをしてみる。 ととと。 ととと…
ギャラリー・カラバコ
今日の満月は雲の向こうに蒼く見えている。 あんなに高いところにある雲は、氷の粒だろう。 うっすら透けた月は甲殻類の背中みたいだ。 月にはうさぎがいるというけれど、そこには何が書いてあるのか。 昔のひとはその模様を読み取って、未来のことを占ったのではなかったか。 いや、それは亀だったかもしれない。 夜気を拭い取るように、ギャラリーの扉を開けた。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『…
ギャラリー・カラバコ
満月の夜を指折り数えるのが習慣になった。 いったい誰がこのギャラリーの鍵をわたしに届けているのかわからない。 待ち構えてそれを突き止めようとは思わない。 夜なのにそこここに影が落ちていて、私はそれをざぶざぶとかき分けながら進む。 ほとんど息を止めて、わたしはギャラリーの扉を開ける。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『耳鳴り』 — 「植物園」 絵: 古林希望 文: カマウチヒデキ…
ギャラリー・カラバコ
中秋の名月の昨日、ギャラリーの鍵が届くのを私はなんとはなしに心待ちにしていた。 けれど、届いたのは今日。 満月が中秋の名月とは、限らないのだって。 満月のひかりは特別で、とおくでだれかが歌っているような音がする。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 — 「耳鳴り」 絵: 古林希望 文: カマウチヒデキ ーーーー 共通のタイトルだけを手がかりに2人の作家が絵と小説を別々に制作し、掛け…
ギャラリー・カラバコ
この鍵が届くようになって3回目。 今日も満月の夜だ。 真上から照らされて、わたしには影がない。 影は、わたしをどこかに結びつける役割をしていたのかもしれない、と思う。 ギャラリーの扉を開く。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 — 「鏡」 絵: 古林希望 文: カマウチヒデキ ーーーー 共通のタイトルだけを手がかりに2人の作家が絵と小説を別々に制作し、掛け合わせていく企画「ギャラリー・カラ…
ギャラリー・カラバコ
ポストに入っていた鍵を握りしめて、部屋を出る。 風がわたしの息をふさぐ。 路地の灯りに照らされた私の影と、街路樹の影が、長く道の先で交わりながら踊る。 あ、そうか。 今日は満月なんだな。 満月のひかりは、満月の前の日や満月の次の日のひかりと、どうしてこんなにも存在感が違うのだろう。 「ギャラリー・カラバコ」の扉をそっと開く。 そこには、前回の『縫い目』とは違う作品がかかっていた。 — 「つむじ」 …
ギャラリー・カラバコ
ある時ポストにこの部屋の地図と鍵が入っていた。 メッセージはなし。 ただ、「ギャラリー・カラバコ」 と。 宛名間違いだろうか? と封筒をじっと見てみたけれど、そこには確かにわたしの名前がある。 差出人の名前はなし。 ただのいたずらかもしれないけれど面白そう。 絵を見るのは嫌いじゃないし。 そう思って地図を辿ってみた。 とあるアパートの一角にそのギャラリーはあった。 鍵を開けると、ギャラリーらしい真…
ギャラリー・カラバコ
ここはとあるアパートの一角にある、小さなギャラリー「カラバコ」。 白い壁に空っぽの額縁が無造作にならび、その下には題字だけが添えられています。 タイトルだけを頼りに、二人の作家が別々に文と絵を寄せ、2つが合わさった時に初めて作品が完成するのです。 01 桟橋 02 物差し 03 帯 04 時化 05 吃り 06 影絵 07 隠者 08 ウミネコ 09 うぶすな 第10回は「蟹」 このギャラリーにあ…
ギャラリー・カラバコ
ここはとあるアパートの一角にある、小さなギャラリー「カラバコ」。 白い壁に空っぽの額縁が無造作にならび、その下には題字だけが添えられています。 タイトルだけを頼りに、二人の作家が別々に文と絵を寄せ、2つが合わさった時に初めて作品が完成するのです。 01 桟橋 02 物差し 03 帯 04 時化 05 吃り 06 影絵 07 隠者 08 ウミネコ 第9回は「うぶすな」 我々はどこから来て、どこへ行く…