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3F/長期滞在者&more

買う文化?

長期滞在者

アパートメント201606

昨年に続いて六本木のフォトイベントにブースを出店して、主にここ1、2年のうちに紹介した作品をたくさん展示しています。
毎年楽しみにされている方もいるのでしょうか、昨年よりも好みの作品を物色する姿に熱っぽさを感じます。
毎回、この手のブース展示に参加するときには、努めて従来のギャラリーらしさを意識的に否定することを心がけています。
規模の大小を問わず、いくつかのアートフェアなどに出かけて思うのは、そのお店のブースに入っても、お客様と目を合わさない、
挨拶もなし、というのが不思議で仕方がありません。恐らくはアルバイトらしき若いスタッフが、MacBookの画面をひたすら見つめてニコリともしないとは、アートフェアの良くある風景です。去年はじめてこのような機会に参加することになって、まずは会場にノートパソコンを持ち込まない、ということを徹底しました。お客様がいるときは、基本的に立ってお迎えをしましょう、興味を持っていそうな作品に対して、その方のプロフィールや、作品の説明を最低限差し上げたり、ゆっくりと作品を味わっていただく雰囲気を作っていこうと話し合いました。
今年は、軽トラックで荷物を運び込むことにして、普段ギャラリーで使っている赤いソファーを持ち込みました。立って見るのではなく、座っていただこうという趣向です。
それは、最近ぼくが感じている素朴な疑問から始まっています。ギャラリーでは、立ったまま作品を見ます。それはマストなのだろうか?
近頃の大きな書店では、店内の各所に座わる場所を設けてゆっくり本を読めたり、買った本を併設のカフェなどで楽しめるような趣向のお店が出てきましたが、せめて、ギャラリーでも会場をぐるりと回るだけじゃなくて、イスやソファに腰を沈め、作品に囲まれた環境でひと時を過ごす豊かな気分を味わってもらえたらと思いながら、今年の会場レイアウトを考えました。

もうひとつは、写真を買う文化がない、という論調について。そもそも「文化」などと大げさな話を出すほどのものかと常に感じているのですが、文化がないのと、飾る場所がないは、ぼくは仕事をしている20年間、お客様が買わない2大理由であって、ぼくから言わせていただくと、最初から買う気がない、と正直に言ってくれれば良いのに、と思います。
近頃は、「飾る場所がなくてね〜」などと敬遠をする来場者の方には、細江英公さんの30万円の軸装の作品を買ってはどうか、丸めて4センチ角の細長い箱に収まっているので、場所は取りません、時々お手元で繰り出して楽しめる最高の逸品です。とお勧めするようにしています。それはともかくとして、買ったり買わなかったりは結果論であって、それに良いも悪いもないのですが、文化とか、習慣とか、場所がないとかを最初から鉄板の理由にしながらギャラリーへ足を運び、作品を見るのは、作品と向き合う楽しみが半分削がれています。幸か不幸か?写真マーケットは押し売りや、贋作をつかまされるとか、そういう妙な業者が紛れ込むほど規模が大きくなく、足を運ばれる方々にとっては、安心して作品をご覧いただける数少ないアートジャンルと言えます。
まずは、ゆったりした気持ちで、作品と向き合い描かれた世界を楽しむ、そして作品に囲まれた空間の中でひと時を過ごす心地よさを味わう。そんなことを頭の片隅に置いていただきつつ、次回写真展に足を運んでいただければ嬉しいです。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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