どこかよくわからないが、郊外のどこにでもありそうな街の景色が淡々と綴られた、小さくて軽やかな体裁の写真集が手元にあって、少し前から気になっている。
たぶん、飼っている犬の散歩の道程で写したものが収められているのだろう、早春のまだ肌寒さを感じる朝のひと時、肌に感じる空気の冷たさとか、どことなく前の日を引きずりながら、気持ちを今日に切り替えようとする何となくもやもやした気分みたいなものが、写真を通じてこちらにじわりと伝わってくるような写真たちであった。
どこで求めたのかは全く覚えていないが、多分何かの展覧会に足を運んだ時に気になって買い求めたものなのだと思う。記憶をたどれないのは、この写真集には作者の名前や発行日の記載が全くないのだ。
作品にあっているのかどうかはともかくとして、この手の冊子にありがちな短い詩的な文章すらない。ただ、作者の生活の風景が淡々と収められているだけだ。
名前がないのは意図的なものかどうかは全くわからない。もしかしたら、そういう奥付けを入れることなど、考えもしなかったのかもしれない。でも、ぼくにとっては本人探しは既にどうでもよくなっている。
すっかり冬の始まりを思わせるここ数日の弱々しい朝の光の差し込む我が家の食卓で、テーブルの端っこに置きっぱなしになっているこの冊子を朝起きてぼんやり眺めながら、ぼくもまた今日1日のネジを巻き直している。